薬に頼らず血糖値を安定させる| 数値を上げてしまうNG習慣を専門医が解説 「昼食にそばを好んで食べる」「20時以降の食事」ほか
血糖値の乱高下は健康診断では見逃されやすく、放っておくと糖尿病のリスクを高める可能性がある。高血糖、糖尿病は投薬やインスリン注射が必要になり、悪化すると合併症の腎臓疾患で人工透析にもつながるので気をつけたい。今回は血糖値を上昇させるNG習慣を糖尿病専門医が解説。薬に頼らず自然と血糖値を下げる生活習慣を身につけよう。
教えてくれた人
矢野宏行さん/“ミスター血糖値”と呼ばれる医師、やのメディカルクリニック勝どき院長
日本人の5人に1人は糖尿病または糖尿病予備軍と言われている
日本の糖尿病患者は約552万人(2023年厚労省調べ)。予備群を含めると2000万人以上、5人に1人は糖尿病の疑いがあるとされる。
年間3000人以上の糖尿病患者を診ている専門医で“ミスター血糖値”の異名を取る矢野宏行さん(やのメディカルクリニック勝どき院長)が語る。
「飽食の現代において、糖尿病は国民病と言えます。特に肥満や運動不足、糖質過多の食事など生活習慣に起因する『2型』が日本では約95%を占めますが、注意したいのは予備群である『隠れ糖尿病』の人が急増していること。隠れ糖尿病は健康診断で見逃されがちという問題点があります」(以下、「」内は矢野さん)
健康診断の基準値は空腹時血糖値で126mg/dL以上、食事から2時間後の食後血糖値が200mg/dL以上だと、2型糖尿病の疑いが強いと判断される。矢野さんが指摘する。
「正常な人の血糖値は一日を通して70~140mg/dLぐらいの範囲で推移しますが、隠れ糖尿病の人の多くは食後急激に200以上に上がって1時間程度で100超の急降下となる特徴があります(下図参照)。基本的に健診では空腹時血糖値を測定するため、食後の急激な乱高下は見逃されやすいのです」
血糖値の安定には生活習慣の改善が重要
予備群にみられるのは初期症状であり、そのまま進行すれば慢性の糖尿病となる。また、「血糖値の乱高下は血管にダメージを与えるため、動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などのリスクを高める」と矢野さんは警鐘を鳴らす。
「人間は血糖値が上がると、それを抑えるホルモンであるインスリンを分泌して血糖値を下げます。隠れ糖尿病の人は食生活の乱れやストレスにより急激に上がった血糖値を下げようとインスリンを多く分泌します。その状態が続くうちにインスリンの作用が十分に発揮されない『インスリン抵抗性』を引き起こし、常に血糖値が高い慢性的な糖尿病につながるのです」
それを避けるには血糖値が安定するように生活習慣を見直すことが重要だという。
「問題は日々の生活のなかに血糖値を急上昇させる引き金があること。私はこれを『血糖ブースター』と名付けました。この正体を知り、血糖ブースターをオンにしない習慣を取り入れることで薬に頼らなくとも自然と血糖値は下げられます」
隠れ糖尿病の人だけでなく糖尿病と診断された人にも効果が望めるものだという。
「糖尿病は一度患うと完治することはありませんが、このメソッドで症状が緩和して薬に頼らない生活を目指すことは可能です。実際に投薬なしの生活習慣改善で食後血糖値が215から110まで下がった男性患者もいます」
具体的には何をどのように取り組めばいいのか。
まずは血糖ブースターをオンにするNG習慣を知ろう
身につけたい習慣のひとつひとつは決して難しいものではない。矢野さんが解説する。
「まずは食事。白米やそば・うどんは糖質を多く含むため、好んで食べる人は要注意です。炭水化物に含まれる糖質は体がすぐにエネルギーに変換しようと吸収を速め、急激な血糖値の上昇を引き起こします。早食いもNGです。糖質が一気に体内へ運ばれると血糖値の急上昇を招く。しっかりと噛んで最低15分以上かけて食べることです」
健康によさそうだと市販の野菜ジュースを毎朝飲むのも避けたい。200mlのパックの野菜ジュースには15~20グラムの糖質が含まれている。一方で、糖質ゼロの清涼飲料水も注意が必要だという。
「通常、甘いジュースなどを飲むと血糖値が上がり、それを抑えるために血糖値を下げるインスリンが分泌されます。しかし、糖質ゼロの飲料は飲んでも血糖値が上がらない。その状態に脳が混乱し、『もっと糖質を摂らなければ』と反応して甘い物を欲するようになってしまうのです」
コーヒーや栄養ドリンクに含まれるカフェインも血糖ブースターをオンにする。
人間が体を動かす際に分泌されるのがアドレナリンだが、その分泌によって血糖値も上昇する。カフェインにはアドレナリンの分泌を促す作用があるため要注意なのだという。
「朝、目覚めのために多量のカフェインを含むコーヒーや栄養ドリンクを飲む習慣のある人は、ぐっと血糖値が上がった状態で朝食を摂ることになり、さらに血糖値を上げてしまう。同様にアドレナリンが出過ぎる激しい運動にも注意。起床後すぐのジョギングは強度によっては血糖値を急上昇させてしまう。高い負荷をかけてジムで鍛えることやテニスや卓球といった相手と競う心身の負担が大きいスポーツも逆効果になりかねません」
睡眠も血糖値と密接な関係にある。ストレスから暴飲暴食や夜ふかしなどが重なると生活リズムが狂い、どんどん数値が上がる悪循環に陥りやすいという。
「たとえば夕方に間食し、その影響で夜の食事が遅くなったうえに食後すぐ寝るのは最悪なパターンです。間食で上がった血糖値が下がりきる前に夕食によって急上昇します。さらにすぐ寝ると夜間にインスリンが大量に分泌されて血糖値が急降下して低血糖を引き起こすケースがある。その反動で朝の血糖値が上昇しやすく、高い血糖値で一日を過ごすことになる。
寝不足も大敵です。人は睡眠の足りない状態が続くと高カロリーの食事を欲して摂取カロリーが増えることが研究で分かっています。これも血糖値を上げます」
「血糖ブースター」をオンにする朝・昼・晩のNG習慣【まとめ】
<朝のNG行動>
・目を覚ますためにコーヒーや栄養ドリンクを飲む
・朝食前にジョギングなど激しい運動をする
・毎朝野菜ジュースを飲む
<昼のNG行動>
・昼食は早食いで済ませる
・お昼にそばをよく食べる
・間食で甘い物を好む
<夜のNG行動>
・晩酌でビールや日本酒をよく飲む
・サウナに長時間入る
・夜20時以降に夕食を摂る
・夕食を食べてすぐに寝る
※週刊ポスト2025年3月21日号
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