《高年齢雇用継続給付》4月から改正!定年後も働くシニア世代は要注意「給付額が減少するのはどんな人?」【FP解説】
60才で定年後も働く人が増えているが、現役時代から賃金が大幅に低下してしまった場合などに給付金が受け取れるのが「高年齢雇用継続給付」制度だ。この制度が4月の改正で変更され、受け取れる額が減少するという。どんな人に影響があるのか? 制度の基本や改正内容などについて行政書士でファイナンシャルプランナーの河村修一さんに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、内外資系の生命保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/
高年齢雇用継続給付の目的
「高年齢雇用継続給付」(こうねんれい こよう けいぞく きゅうふ)は、60~65才までの賃金低下を補う社会保険制度のひとつで、60才以降の人の雇用の継続を援助・促進する目的があります。
高年齢雇用継続給付には、基本手当等を受給せずに同じ会社などで働き続ける「高年齢雇用継続基本給付金」のほか、いったん退職して基本手当を受給した後に(受給中含む)、再就職した場合に支給される「高年齢再就職給付金」があります。
ここでは、高年齢雇用継続基本給付金について、支給要件などを詳しく解説します。
高年齢雇用継続基本給付金の要件や支給額
高年齢雇用継続基本給付金の要件は、以下の通りです。
【対象者・要件】
・60才以上で定年退職後も、雇用され働き続けている。
・失業保険などの基本手当等や再就職手当等を受け取っていない。
・雇用保険の被保険者期間が5年以上ある人。
・60才到達時の月額賃金(60才になる前6か月間の平均賃金)に比べて、75%未満に賃金が低下した場合。
【受給期間】
・60才になった月から65才になる月まで最長5年。
どんな人が該当する?
たとえば、「60才で一旦定年退職し、その後も同じ会社で雇用形態を変えて働くことにしたが、給与は半減した」「60才で定年後、子会社に出向・転籍になりになり給与が大幅に下がった」といった場合などに活用できる制度です。
いくらくらい受給できるの?
賃金の低下率に支給率を乗じた金額が支給されます。低下率が大きいほど支給率は段階的に高くなる仕組みになっていて、現状(改正前)では支給率は最大15%まで適用されます。支給率は、かなり複雑な計算を要するため、厚労省のサイトに支給率などについての「早見表」が掲載されています。
※厚生労働省「高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続きについて」/高年齢雇用継続給付の給付金早見表
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001282595.pdf
4月1日から「高年齢雇用継続給付」の支給率が縮小へ
令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率が改正され、支給額が減少する場合があります。
【改正後の変更点】
・賃金の低下率が75%以上の場合は、不支給になります。
・支給率が段階的に引き下げられます。
・支給率が15%→10%に引き下げられます。
これまでは、賃金の低下率61%以下は一律で支給率15%でしたが、改正後は、賃金の低下率64%以下で支給率が一律10%になります。
※厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
https://www.mhlw.go.jp/content/001328827.pdf
なお、高年齢再就職給付金についても、同様に支給率の改正が適用されます。ただし、高年齢再就職給付金は、再就職手当との併給はできません。また、高年齢雇用継続給付を受給しているときは、年金の全部または一部が支給停止される場合があります。
※日本年金機構「失業給付・高年齢雇用継続給付を受けるとき」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/rourei/jukyu/20140716.html
【改正の対象者】
・令和7年4月1日以降に60才になった人(4月1日時点で被保険者であった期間が5年以上、5年に満たない場合は満たすことになった日)。
60才になった日が令和7年3月31日以前の場合はこれまでの支給率で算定されます。
改正後の支給額はどうなる?CASE別シミュレーション
改正後の支給額はどのくらいなのでしょうか?「定年前はだいたい月30万円くらいもらっていたが、定年後に同じ会社で働き続けると給料が大幅に下がってしまう」。こちらのケースについて、見ていきましょう。
「60才到達時の月額賃金が30万円」だった場合の支給額について、厚労省の早見表をもとに概算してみます。
参考/賃金の低下率…改正後の支給率(%)
75%以上…0.00%|74.5…0.39%|74.0…0.79%|73.5…1.19%|73.0…1.59%|72.5…2.01%|72.0…2.42%|71.5…2.85%|71.0…3.28%|70.5…3.71%|70.0…4.16%|69.5…4.60%|69.0…5.06%|68.5…5.52%|68.0…5.99%|67.5…6.46%|67.0…6.95%|66.5…7.44%|66.0…7.93%|65.5…8.44%|65.0…8.95%|64.5…9.47%|64.0…10.00%
計算方法/定年後の賃金÷定年前の賃金(30万円)=賃金の低下率、改正後の支給率(%)×定年後の賃金=支給額。定年後の賃金は60才到達時の月額賃金、定年前の賃金は60才になる前6か月間の平均賃金。
【CASE1】月の賃金が30万円→26万円へ
30万円から26万円に賃金が減った場合、賃金の低下率は86.66%(75%以上)、支給率は0.00%なので、不支給になります。
【CASE2】月の賃金が30万円→20万円へ
30万円から20万円に減った場合、賃金の低下率は66.67%、支給率は7.44%、支給額は1万4880円になります。
【CASE3】30万円から→18万円に減少!
30万円から18万円に減った場合、賃金の低下率は60%(64%以下)なので、支給率は一律10%なので、支給額は1万8000円となります。
この場合、改正前は支給率が15%だったので支給額は2万7,000円でした。改正後は支給率が10%に引き下がったため、1万8000円となり、1か月で9000円も少なくなってしまうわけです。
申請手続きの概要
高年齢雇用継続基本給付金を受給するためには、原則として2か月に一度、事業所の所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)へ支給申請書を提出する必要があります。
申請は、原則として事業主を経由して行う必要がありますが、やむを得ない場合や被保険者本人が手続を行うことを希望する場合は、ご自身で申請することも可能です。
【提出書類】
・高年齢雇用継続給付支給申請書
・払渡希望金融機関指定届」
【添付書類】
・雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書
・賃金証明書の記載内容を確認できる書類(賃金台帳、労働者名簿、出勤簿など)
・被保険者の年齢が確認できる書類等(運転免許証か住民票の写し)
なお、電子申請による手続きも可能です。詳しくは、ハローワークインターネットサービス「高年齢雇用継続給付について」を確認してみてください。
※ハローワーク インターネットサービス「高年齢雇用継続給付について」
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_continue.html
定年後の支えになる給付金、縮小へ【まとめ】
高齢者雇用継続給付の支給率が令和7年4月1日以降から縮小されます。今後の働き方や生活設計にも影響を与える可能性もあり、制度をしっかりと理解しておくことをおすすめします。また、ご自身のライフプランにあわせた対策を検討してみましょう。