話題の<103万円の壁>「年金とパート収入で生活する70代女性」シニア世代への影響は?今さら聞けないお金の話題をFPが丁寧に解説
最近メディアで頻繁に報じられている「103万円の壁」。何かと話題の国民民主党が打ち出した新たな経済対策を巡って議論されているが、実際のところ高齢者にはどう関係するのだろうか?「103万円の壁」の基本をファイナンシャルプランナーで行政書士の河村修一さんに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、内外資系の生命保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/
「年金生活者ですが103万円の壁」が気になる
いま世間を賑わせている話題の「103万円の壁」。このニュースを見て、年金生活を送る70代前半のAさんが「年金の足しにとパートで働いていますが、103万円の壁が気になります…」と不安なご様子。改めて「103万円の壁」が何を意味するのか、確認していきましょう。
「103万円の壁」ってどういう意味?
「103万円の壁」とは、年収が103万円を超えた場合に起こる2つのことを意味しています。
「103万円の壁」には、【1】「税金を支払わなければならなくなる」【2】「扶養控除の対象から外れて収入が減る」。この2点の側面があります。
【1】103万円の壁/税金面のデメリット
なんらかの所得がある場合には税金を納める義務があります。しかし所得が一定以下の場合は、所得税を納めなくてもいいケースがあります。パートやアルバイトなどで働く人にとって、そのボーダーライン(壁)が年収103万円ということになります。
103万円は「収入」のこと
年収(収入)や所得は、同じ意味のように使われていることも少なくありませんが、税法上では収入から経費を差し引いたものを「所得」といいます。
働いて給料をもらう場合は「給与所得」、自営業者やフリーランスの人は「事業所得」になります。シニア世代は会社を退職し、パートやアルバイトなどで働いている人もいると思いますが、その場合も「給与所得」になります。
給与所得の人は、事業所得などのように必要経費を差し引くことができない代わりに所得税法上で定められた「給与所得控除額」を年収から差し引くことができます。
※参考 国税庁 No.1400 給与所得
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1400.htm
給与所得控除額は、収入が162万5000円以下なら、基本的に一律55万円(控除額に上限あり)、収入が上がるごとに控除額も上がる仕組みになっています。
年収103万円以下なら所得税はかからない
収入から経費を差し引いたものが「所得」です。そして、所得から基礎控除などの所得控除を差し引いたものが「課税所得」になり、そこから「所得税」が計算されます。なお、所得税は毎年1月1日から12月31日までの1年間で得た所得に対してかかる税金のことです。
問題の「103万円の壁」について、実際に計算すると以下のようになります。
パートなどで収入が103万円だった場合、103万円から給与所得控除(55万円)を差し引くと、所得は48万円になります。さらにそこから、基礎控除額48万円を差し引くと、課税所得は0円となり、所得税がかからないというわけです。
年収104万円になるとどうなる?
では、年収が104万円になった場合は、どうなるのでしょうか?
パートやアルバイトなどの「給与収入」が104万円だった場合、同様の計算によって所得は49万円となり、課税所得は1万円となります。
課税所得の税率は段階的にアップしていきますが、1000円~194万9000円までは税率は5%です。つまり、支払う所得税は、1万円に5%を乗じた500円になります。
103万のときは税金0円ですが、104万円にアップすると500円の所得税を支払うことになるわけです。
この「103万円の壁」が178万円に引き上がることにより、減税効果は見込まれますが、税収全体が減ることなども懸念されています。
年金生活者の「103万円の壁」はどうなる?
シニア世代で年金をもらいながらパートやアルバイトをしている人も同様に、「103万円の壁」は関係しています。
年金収入は「雑所得」にあたります。たとえば、年金収入(老齢基礎年金)が、公的年金等控除額(65才以上の場合は110万円)以下の場合は、所得は0円となるため、所得税はかかりません(※年金の支給額が上がれば税金がかかり、所得税が差し引かれた状態で振り込まれます)。
年金の所得税が0円でも、同じ人が、アルバイトやパートをした場合の収入には前述のように税金がかかるため、103万円を超えてしまうと所得税が発生します。
会社が独自で設定している「年収の壁」もある
会社によっては独自に配偶者手当や家族手当などを支給している場合もあり、103万円を超えてしまうと支給されないというケースも。こうしたことから「年収103万円以内に抑える」働き方を選んでいる人も少なくないでしょう。
※厚生労働省 企業の配偶者手当の在り方の検討
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/haigusha.html
【2】103万円の壁/扶養控除の対象から外れて収入が減る
一方、この「103万円の壁」の議論には、配偶者やお子さん、老親などを扶養している場合の「扶養控除」の問題も含まれています。
扶養控除は、その対象者によって控除額が異なります。
たとえば、パートやアルバイトをする大学生の子どもは、「特定扶養親族」(その年12月31日現在の年齢が19才以上23才未満)にあたり、扶養控除の要件の一つである合計所得48万円以下(給与収入103万円以下)となり、63万円の扶養控除が受けられます。
つまり「103万円の壁」を超えると、親は控除が適用されなくなり、税負担が増えて手取りが減ってしまいます。
なお、扶養している高齢の親は「老人扶養親族」(その年12月31日現在の年齢が70才以上)にあたり、扶養控除額は、同居58万円、別居48万円となります。
※参考 国税庁 No.1180 扶養控除
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
まだある!「106万円の壁」「130万円の壁」
税金や扶養控除の「壁」に加え、「106万円の壁」「130万円の壁」といった「社会保険の壁」もあります。
パートやアルバイトで働いている人でも、勤務先の規模など一定の要件によって年収約106万円に達すると社会保険に加入しなければなりません。
また、年収130万円以上になると勤務先の規模などに関係なく社会保険に加入する義務が発生します。
つまり、「106万円の壁」「130万円の壁」は自分で社会保険料を支払うため手取りが減ってしまうことを指しています。社会保険料を支払うことで手取り額は減ってしまいますが、将来の年金額は増えることになります。
「150万円の壁」配偶者控除の壁にご用心
そのほかにも「150万円の壁」や「201万円の壁」もあります。こちらは、配偶者特別控除の壁です。
たとえば、夫の扶養範囲内で働いている妻などはこれに注意が必要です。
配偶者(妻)の収入が150万円を超えると、夫の控除額は徐々に減り、税負担が増えていきます。そして妻側の年収が201万円を超えると、配偶者特別控除の対象外となります。
「年収の壁」問題【まとめ】
年金だけでは足りず、パートなどをしている人や、現役世代の場合は子どもの教育費などに加え、親の介護費用を負担しなければならないケースもあるでしょう。年収の壁を超えてしまうと、税金の負担や社会保険料が増えることによって手取りが減ってしまう可能性があります。
また、配偶者などの収入によっては、勤務先の配偶者手当などが打ち切られてしまう恐れもあるので、支給要件を確認しておきましょう。
今まさに議論されている「年収の壁」については、今後の動向を注視していく必要があるでしょう。
※参考 国税庁 No.2260 所得税の税率
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/koujirei/jigyonushi/taisho/
厚生労働省『年収の壁について知ろう』あなたにベストな働き方とは?
https://www.mhlw.go.jp/content/001265287.pdf
国税庁 No.1195 配偶者特別控除
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1195.htm