腎機能の回復を目指す4つの体操|体の巡りをアップして腎臓の負担を軽減【腎臓専門医監修】
これまで慢性腎臓病の治療は「安静第一」だったが、近年は「運動療法が最も効果的であることが分かってきた」と腎臓の専門医である上月医師は話す。日本の「腎臓リハビリ治療の父」ともいえる上月医師が考案した4つの体操があるというのでご紹介する。
教えてくれた人
上月正博さん / 腎臓専門医
東北大学名誉教授・山形県立保健医療大学学長
慢性腎臓病は安静第一から運動が最も効果的ということがわかってきた
腎臓は体の左右それぞれ背中側の腰上に位置する臓器。血液中の老廃物、水分、塩分、尿酸などをろ過して尿として体外に排泄するほか、血圧のコントロールなどを担う。
小林製薬の紅麹サプリの健康被害もあり、腎臓への不安は高まるばかりだが、「対策はある」と上月さんは断言する。
これまで慢性腎臓病の治療は「安静第一」とされてきたが、近年は「運動療法が最も効果的であることが分かってきた」と東北大学名誉教授で山形県立保健医療大学学長の上月正博(こうづきまさひろ)さん(腎臓専門医)。
上月さんはこれまで日本腎臓リハビリテーション学会や国際腎臓リハビリテーション学会の理事長を歴任。心臓・腎臓分野の研究で多大な貢献を果たした医学者に贈られるハンス・セリエ記念メダルを受賞し、腎臓に関する数多くのベストセラーを著書に持つ、日本の「腎臓リハビリ治療の父」ともいえる医師である。
「私たちの研究グループが東北大学病院で始めた運動療法『腎臓リハビリ』により、慢性腎臓病患者の血中の老廃物クレアチニンと尿たんぱくの減少、腎機能の回復が見られました。人工透析の回避や心臓病や脳卒中などの合併症予防にも効果があるという報告もあります。ACE阻害薬などの降圧剤にも腎機能の回復が認められていますが、運動療法は同等の結果を得られました」(上月さん。以下「 」内は同じ)
運動をすると体内でたんぱく質がろ過されるため、過剰なたんぱくが尿に混じり「腎臓病に運動は御法度」とされてきたが、最近の研究では運動を制限した患者はむしろ腎機能が悪化し、人工透析の導入時期が早まるという結果が出たという。
「1日4000歩以上のウォーキングで筋肉が収縮・弛緩して血流が良くなり腎臓に酸素や栄養が行き渡るとともに、腎臓への負担が減ることで腎機能の回復が望めます」
腎機能の専門医が考案 1セット1分体操 【4】
運動は「強度」が重要で、「少しきつい」と感じるくらいの負荷が必要となる。ウォーキングの場合は息切れするかしないか程度のスピードで、1日20〜30分が目安だという。
ただし、時間が取れない人やそこまで体力が無い人も多い。
そこで上月さんが考案したのが、腎機能を自力で鍛える1分体操だ。
「1セット1分の体操で筋肉を鍛えることで、サルコペニア(骨格筋量の低下)やフレイル(身体の虚弱化)を防ぎ、腎臓を強化できます」
1分体操は全身の筋肉を無理のない強度で鍛えられるため、腎臓の大敵である血圧上昇を招かずに行なうことが可能だ(下の図解参照)。
筋肉は破壊と修復の「超回復」により強化されるため、1日おきに行なうことが望ましい。
「1分体操とウォーキングを組み合わせることで、末期腎不全を宣告された60代男性が6週間後に数値が改善して透析を回避できたケースもあります」
腎機能を高めて健康ライフを謳歌したい。
【1】基本の運動療法「壁プッシュ」
「通常の腕立て伏せより簡単に腕と胸、肩の筋肉を鍛えられます。姿勢をまっすぐに保ち、かかとが床から離れないようにします。鼻から息を吸いながらひじを曲げ、口から息を吐きながら腕を伸ばします」
<1>両腕を肩の高さで伸ばして壁に向かって立つ。
<2>鼻から息を吸いながら5秒かけてひじを曲げる。
<3>息を吐きながら5秒かけてひじを伸ばす。
※1分間で5回繰り返す
【2】腎臓への負担を減らす「背筋反らし」
「うつぶせ状態で両手・両足を持ち上げることで、足や腕を動かして全身に新鮮な酸素や栄養を送り、腎臓の細胞を守って腎機能を高めます」
<1>うつぶせの状態で両手両足を伸ばす。
<2>を吐きながら5秒かけて左手・右足を持ち上げ1秒キープする。
<3>鼻から息を吸いながら5秒かけて姿勢を戻す。手足を逆にして<2>を行う。
※1分間で3回繰り返す
【3】腎臓周辺と足腰の筋肉を鍛える「レッグレイズ」
「仰向けの状態で足を曲げ伸ばしし、腹筋と腸腰筋を鍛えます。手をしっかりと床に付けて、体を支えることを意識しましょう。結果、歩く力が付き、血圧を下げる一酸化窒素の産生を促します」
<1>両足を肩幅に開き手を床に付けて仰向けになる。
<2>息を吐きながら5秒かけてひざを胸に引きつけて1秒キープする。
<3>5秒かけて息を吸いながら床に足を付けないところまで下ろして<2>を繰り返す。
※1分間で5回繰り返す
【4】腎臓の血流を促す「バックブリッジ」
「寝たままできて効率的なのがバックブリッジです。お尻などの筋肉を鍛えることで歩行が安定し、腎臓を含め全身の血流を良くします。どの体操も息を止めないことが重要です。また、慣れてきたら少しずつ負荷を強めることが理想ですが、くれぐれも無理はしないようにしましょう」
<1>両手の体のわきを置き、ひざを立てる。
<2>息を吐きながら5秒かけてお尻を持ち上げ、10秒キープする。
<3>息を吸いながら5秒かけてお尻を床に戻す。
※1分間で3回繰り返す
※週刊ポスト2024年11月1日号
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