「認知症とは脳の病気」病名を決めつけずしっかり検診が大切|ジャーナリスト・鳥集徹さんと本誌取材班が認知症の名医に徹底取材
高齢化に伴い、増え続ける認知症患者。2035年には6〜7人に1人が認知症になると言われている。誰もが罹患しうる人生100年時代だからこそ、家族ごと寄り添ってくれるよき伴走者を見つけたい。豊富な知見と治療経験を併せ持つ医師をジャーナリストの鳥集徹さんと本誌取材班が取材した名医5人のひとり、安曇野ななき診療所・岸川雄介院長に、認知症との向き合い方を聞いた。
ジャーナリスト・鳥集徹さんと本誌取材班が徹底取材 名医5人だけが知る<認知症の名医リスト>【全国版】
教えてくれた人
岸川雄介医師/安曇野ななき診療所院長
「決めつけ」が予後を悪くする
認知症とは、「脳の病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態」(政府広報オンラインより) のことをいう。
その症状や軽重は患者によってさまざまだが、原因となる脳の病気は「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」の4つが代表的なものであり、それらで認知症全体の9割以上を占めるとされている。
「頻繁にもの忘れや探し物をするようになった」「知っているはずの言葉がなかなか出てこない」「慣れている場所で迷ってしまう」「人が変わったように怒りっぽくなった」「料理や仕事で失敗が多くなった」。
こういった症状があった場合には認知機能低下の疑いがある。正しい診断に基づく適切な治療やサポートを受けるためにも、早めに受診すべきだろう。
「ただし、すぐに4つの病気のどれかだろうと“決めつけ”をする医師や病院はすすめられません。そもそも『認知症』という病気はありません。認知症は脳の機能低下によって起こる『症候群』であって、その原因は数えきれないほどあり、それらが複合的に絡みあっている場合もあるからです。原因となる病気の多くは進行を完全に止めることが難しいのですが、中には治せるものもある。最初から病名を決めつけて真の原因を見逃したら、治せるものも治せません」
そう話すのは、安曇野ななき診療所院長の岸川雄介医師だ。
岸川医師によれば「治せる認知症」の代表的な病気が、「うつ病」「正常圧水頭症」「硬膜下血腫」「甲状腺機能低下症」などだ。それぞれ、心のケアをする、ホルモンを補充する、脳の水を逃がす手術をするなどの治療で回復できる。
治せる病気は限られているが、その可能性がないかどうか、まずは医師に確認するべきだろう。また、脳のどの部位に機能障害が出ているのか、しっかり診断してもらうことも大切だと岸川医師は強調する。
「長谷川式やMMSE(ミニメンタルステート検査)といった簡単な認知機能を問うテストは認知症状態の程度や経過を診るには役立ちますが、それだけでは診断できません。また、MRIの画像で脳が萎縮している、脳機能画像検査で機能低下の特徴が出ているというだけでは、病名は決められません。そのため私は初診で目の動きを見る、手の動きを真似てもらう、言葉の理解力や出来事の記憶を試すなど、ほかの先進国の専門医が通常行っている検査を行っています。それによって前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、基底核など脳のどの部位が機能低下を起こし、どう生活に影響しているのかを理解できます。そこで初めて、的確な生活支援や介護の助言ができるのです」
加えて、状態の悪化には脳そのもの以外にも要因がある場合も考えられる。岸川医師が続ける。
「脳は体の一部なので、体の具合が悪いと脳の働きも悪くなります。代表的なのは糖尿病で、アルツハイマー病とも深く関係しています。また、高血圧や心臓、肺などの病気、飲酒習慣、ひざの痛みなども認知症悪化の原因になることがあります。それらをきちんと治療することで、認知機能が改善することはよくあります。ですから認知機能低下の診断と同時に、そうした病気や生活習慣のチェックが大変重要です」
※参考/東田勉『「認知症」9人の名医』(ブックマン社)
※女性セブン2024年9月26日・10月3日号
https://josei7.com/
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