「悔しいです!」お笑い芸人・ザブングル加藤歩さん、介護施設でのボランティア経験を語る「利用者さんに僕のほうが励まされた」
お笑い芸人・ザブングルの加藤歩さんは、介護施設でのボランティア経験をもつ。3か月間、全国の施設を巡り、そのうち1か月は鹿児島の施設で毎日通って働いていた。当時の経験や想いを、訪問介護事業やデイサービスを展開する企業、土屋が主催したイベントで明かした。
僕がいなくなるのが「悔しいです!」と言われて涙
「1か月間、鹿児島にある介護施設で働いて、最終日に男性の利用者さんに、『加藤くん、今日で最後だねえ。悔しいです!』って言われて、泣きそうになりました」
こう話すのは、「(筋肉)カッチカチやで」「悔しいです!」などのギャグでおなじみ、ザブングル・加藤歩さん(以下、加藤さん)。2021年にザブングルは解散し、現在ピン芸人として活動している。東京・渋谷で行われたイベントで、介護施設でボランティアとして働いた当時の想いを語った。
イベントを主催したのは、岡山県を拠点に訪問介護やデイサービスなどを展開する土屋。「介護の人材不足にどう立ち向かうか」をテーマに、トークが繰り広げられた。
最初は戸惑ったお風呂介助のサポート
加藤さんが介護のボランティアを始めたのは、2019年、お笑い芸人の闇営業問題による謹慎期間だった。
「3か月の謹慎期間に、『自分たちにできることはありませんか?』と、事務所を通して募集したところ、全国の介護施設から働いて欲しいという依頼をたくさんいただいたんです。呼んでいただけるのなら喜んでと思って、介護施設でボランティア活動を始めました」
当初は、全国の施設を転々巡り、トークやゲームなどのレクリエーションを披露していたが、1か月毎日通った施設もあったという。
「1か月間、熊本県にある介護施設でボランティアさせてもらったんですが、一番印象に残っているのが、入浴の着替えのサポートですね。
僕は介護福祉の資格はもっていないので、入浴そのものの介助はできないので、服の着脱のお手伝いをさせていただきました。
午前中と午後に分けて、50名近い利用者さんのケアをさせていただきましたが、最初のうちはかなりしんどかったですね。
車いすを利用されているかたがほとんどで、脱衣後お風呂用の車いすに移動していただいて、お風呂から出てきたらバスタオルをひいた通常の車いすに移動してもらって体を拭いて、洋服を着ていただいたらドライヤーで髪を乾かします。肌がちょっとでも濡れていると靴下とか履きにくくて、慣れるまでは本当に大変でした。
一人ひとりお名前を覚えるのも必死でしたが、だんだんペースがつかめてきて、周囲のスタッフに自分が指示を出せるまでに急成長しました(笑い)」
――そして最終日のこと。
「普段は口数も少ないかたで、ずっと俺のこと知らんやろなぁって思っていた男性の利用者さんが、『お世話になりました、東京に帰ります』と挨拶した最終日、『加藤くん、今日で最後だよね、悔しいです!」って、僕のネタでいじってくれて。ほんま泣きそうになりましたね。これは一生忘れられない思い出です」
人生の先輩たちに学ぶ日々
「謹慎期間、当初は『俺の人生終わったな~』なんて暗い気持ちもあったんですけど、施設でボランティア活動を始めてから、80代の女性の利用者さんに『加藤くんはいくつなの?』と聞かれて、『45才です(当時)』と答えたら、『45才ってことは、あと3回人生をやり直せるわねえ』と言われて、ハッとしました。
何度でも人生はやり直せるんだと。この言葉に僕はとても救われたし、すごくヤル気が出たんです」と、加藤さんは熱く語った。
介護業界の人材不足は深刻な状況
イベントのメインテーマである「介護業界の人材不足」について、土屋・高浜将之さんは次のように述べた。
「厚生労働省の調査によると、介護事業所全体では約6割が深刻な人材不足に陥っています。訪問介護員にいたっては83%の事業所で人材が足りていないというのが現状です。
全企業における有効求人倍率は1.16倍ですが、介護業界は3.71倍になっています。つまり、1人の人材を3.7か所の事業所が欲しがっているという売り手市場なわけです。訪問介護においては、15.53倍となっていて、とにかく人が足りないんです」(高浜さん)
介護現場の運営側としての苦悩も
イベントのトークショーに参加した、『認知症の人の「かたくなな気持ち」が驚くほどすーっと穏やかになる接し方』の著者で、認知症スペシャリストの坂本孝輔さんも、介護施設やデイサービスを運営する中で、人材の流出に悩まされた経験があるという。
「介護事業所の経営を始めた当初、僕自身一生懸命ではあったんですが、スタッフとのコミュニケーションがうまくとれず、事業所の雰囲気が悪化して人が辞めてしまうという危機を乗り越えた経験があります。
まず改めたのは、会社が目指す方針をしっかり考え、スタッフに共有しました。どんな介護を提供したくて、どんな人に働いて欲しいのか。どんなやりがいを持って欲しいのかということを、毎日スタッフと話し合いました。
そして、職場でアンケートを実施して、どうしたら働きやすくなるかを徹底的に考えました。社長である私自身、話しかけにくいという声が上がったので改めました。
どんなに忙しかったとしても、スタッフに『今、忙しいですよね?』と言われたら、『え?今超暇だよ』って笑って答えるようにました。常に笑顔でいることを改めて心がけるようにしたんです。経営者や上司が変われば、職場は変わると実感しました」
「職場のリーダーは、不機嫌そうな人よりも笑顔で明るい方がいいですよね。僕は顔が怖いと言われますけど(笑い)」と、加藤さん。
「そんなことないですよ、今日初めてお会いして、物腰が穏やかで安心できる印象ですよ。僕は以前、スタッフからちょっとした愚痴を言われたとき、解決策を提示しようとして正論ばかり言うような上司だったんです。相手は話を聞いてもらいたいだけだったのに。正論は、相手を追い詰めてしまうことにも繋がるんですよね」
「職場で正論で詰められたら、『それ正論や~ん! もうええっちゅーねん』って、僕なら明るく突っ込みますけどね(笑い)。
経験してみてわかりましたが、介護の仕事って面白いし、介護の現場はものすごいドラマがありますよね。どなたか半沢直樹のようなドラマを介護をテーマにして作っていただきたいです。決め台詞は『正論や~ん』、いやちゃうかな(笑い)。
僕は限られた期間でしたが、介護の仕事をして人生観が変わるとても良い経験をさせてもらいました。この業界で働く人が少しでも増えることを願っています」(加藤さん)
※記事は6月18日に開催されたイベントの取材をもとに再構成しています。
【データ】
株式会社土屋
構成・文/介護ポストセブン編集部
●新設介護法人が5年連続増加 競争激化の中で求められる経営効率化