倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.31「夫がいない涙の運動会」
漫画家の倉田真由美さんの夫、叶井俊太郎さん(享年56)は子育てに熱心な人だった。娘のことをいつも気にかけ、運動会も欠かさず観に行っていたという。夫が旅立ってから、初めての運動会の日がやってきて――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
娘の運動会のこと
中学三年生の娘の運動会に行ってきました。
昨年は夫と行きました。夫は娘のイベントには、少々無理をしてでも顔を出す人でした。授業参観などは、何時間でも学校に居座って飽きずに娘の様子を観たり。
私はいつも先に帰宅し、後で夫から「こんなことがあったよ」「◯◯ママからこんな話を聞いたよ」と報告を受けるのが常でした。運動会も娘が幼稚園、小学校にいた頃は早朝からテント設営など準備を手伝ったりして、誰よりも早くから動き出すパパでした。
昨年の運動会はコロナ対策の影響で不参加の保護者が多かったのですが、夫は「観たいから行く」と即断しました。途中で疲れてしまって閉会式まではいられなかったけど、夫は娘が走る姿を見て、知り合いのママパパたちと楽しく雑談して帰路についたのを覚えています。一年前の夫は体重がかなり減っていたし体力は落ちていたけど、周囲の人に大病を患っているとは気づかれないくらい元気でした。
今年は夫がいない…
今年の運動会は、初めての「夫がいない運動会」です。
昨年より遥かに多くの保護者が来ていました。とはいえ私は夫よりかなりママ友が少ないため、見知った顔はあまりいません。そして生徒は生徒たちだけでお弁当を食べるので、保護者との接触はほぼないままです。
私は娘の出番が終わったら、閉会式を待たずそっと帰るつもりでした。でも、グラウンドにいる娘を見た時、その場を動けなくなってしまいました。
父ちゃんに、見せてやりたかったなあ。
昨年までの、夫と一緒に来ていた幼稚園、小学校のグラウンドの風景も思い出しました。誰よりも張り切って、イベントを楽しみにしていた夫。それにつられて私も、得意でもないお弁当作りや準備など案外楽しんでやれていたこと。今更ながら痛感しました。
娘は選抜リレーに選ばれ、皆の声援を受けながら走りました。
カメラを構えず、直接目でしっかりと娘の走る姿を追いました。夫がいたら、きっと大声で声援を送っていたと思います。私は嬉しそうに娘の姿を見る夫が大好きでした。
「父ちゃん、ほら、速いよ。一番のまま走り抜けたよ」
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
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