倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.32「もしも夫と私の立場が逆だったら」
漫画家の倉田真由美さんの夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん。すい臓がんにより帰らぬ人となったのは、2024年2月16日のこと。冬から春、夏へと季節が巡り――。夫を失った苦しみや悲しみとどう向き合っていくべきなのか、いま想うこととは?
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
一度も泣かずに過ごせた日はない
夫がいなくなってそろそろ4か月が経ちます。
一度も泣かずに過ごせた日は、まだありません。1日のうち何度か、夫のことを思い出してメソメソしてしまいます。今もこれを書きながら、いろいろ思い出して泣いてしまいます。涙腺がすっかり壊れてしまったみたいです。
9年前、子供の頃世界で一番好きな人だった祖母を亡くした時も、一昨年父を亡くした時も、ここまで悲しみを引っ張ることはありませんでした。葬儀では涙を流したけど、それ以降は穏やかな気持ちで故人を想うことができていました。
夫のことだけが、違うんです。強く後悔していることがあるわけでもないのに、もう泣いても仕方ないのに、すぐに胸が苦しくなって涙が流れます。「涙って熱いんだな」というのをはっきりと自覚したのも、夫の死後、あまりにも何度も泣くようになってからです。夫を失って、私の生きる世界はこれまでと別物になってしまいました。
私自身、感受性も考え方も以前とは違っています。例えば音楽、夫がいた頃までと同じようには聞けなくなりました。多くの曲が、夫のことを歌っているように聞こえてしまうんです。
苦しみや悲しみを抱えている人へ
未だこんな日々ではありますが、起きている間中泣いているわけではありません。夫のことを忘れている時間もあります。それが一番顕著なのは、誰か、人と一緒にいる時です。
3日前まで、妹が泊まりに来ていました。妹と一緒に近所のレストランにランチしに行ったり、銭湯に行ったり。都内にある有名な観光スポットにもなっているお寺へ行き、散策したり美味しい蕎麦を食べたりもしました。
妹がいる間、夫の思い出に沈み込む時間が減りました。妹が帰ってしまってしばらくは寂しさに少し落ち込みましたが、とてもありがたかったです。
3月、4月頃までは元気が出ずそれほど人と会う時間を作れませんでしたが、5月以降は積極的に予定を作りいろんな人と会うようにしています。
先週は高校時代の同窓会にも出ました。三十年以上ぶりに会う旧友たちはさすがに見た目がかなり変わっていて、分からない人も多くいました。そんな衝撃もあって、しばし夫のことは忘れて美味しいお酒を酌み交わすことができました。
人と会うって莫大な情報量が流れ込んでくるので、その日は寝る前も同窓生たちのことが頭に散らついて夫のことを考える隙があまりありませんでした。
人と会うのが一番、気が紛れます。独り家の中で苦しみや悲しみを抱えている人は、誰かと会って、話して、交流してみてほしいと思います。皆がそれで救われるわけではないだろうけど、私は少し楽になれる時間が増えました。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』