軽度アルコール依存症の治療|減酒効果が期待できる新薬が国内初承認
アルコール依存症は長期の飲酒習慣で、飲酒をコントロールできなくなる疾病だ。重症では肝障害や脳出血、うつ病など心身の合併症、家族や周囲への暴力、飲酒運転など社会的な問題を引き起こす。
治療は断酒が主だが、減酒という選択肢もある。今年、飲酒量低減薬が承認された。飲酒欲求に関わる脳のオピオイドに作用するもので、軽症アルコール依存症患者を中心に効果が期待される。
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飲酒問題が軽症なうちに受診できる減酒外来
アルコール依存症は長期間飲酒を続けるうちに、飲酒のコントロールができなくなる疾病である。多量の飲酒による心身の合併症以外にも、仕事の生産性低下で失業したり、家族や周囲への暴力など社会問題を引き起こすケースが多い。昔は中高年男性の依存症患者が中心だったが、現在は主婦など女性にも増えている。
国内のアルコール依存症患者は約107万人と推計されるが、医療機関を受診しているのはそのうち数%だ。
久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)の精神科専門医の湯本洋介医師に聞いた。
「潜在的な依存症患者は多いのに、医療機関の受診が少ないのは『アル中』と決めつけられることや、治療として断酒を強いられるなどの理由が大きいと考えられます。そこで当病院では全国に先駆け、2017年4月から減酒外来を開設しました。受診者の背景として社会的生活は保たれているものの、時々お酒のコントロールを欠く飲み方をしてしまうといった、飲酒問題が軽症なうちに受診する方が多いという印象です」
減酒外来では、まず依存症かどうかの判定と重症度を評価するテストや、血液検査なども実施し、減酒が可能か判断する。それらの結果をもとに、受診者と治療方針について相談する。
治療は受診者自身が飲酒の量や頻度などの目標を決め、飲酒記録をつけ、定期的な受診によるフィードバックを行なう。
アルコールは1日60gを超えると社会生活に悪影響
昨年、こうした飲酒を減らすコンセプトについて日本アルコール・アディクション医学会と日本アルコール関連問題学会は「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン」を改訂した。
軽症の依存症で、合併症がない場合は飲酒量低減が治療目標になりうるという方針が盛り込まれ、国内でも減酒のコンセプトが広まりつつある。
飲酒はアルコールに換算して1日60gを超えると多量飲酒といわれ、健康への悪影響のみならず、仕事の生産性低下などが懸念される。また男性は1日40g、女性では20gで生活習慣病のリスクが上がり、日本酒1合はアルコール換算で20gとなる。
アルコールのグラム数換算一覧
量(ml)×アルコール度数(0.××)×0.8(比重)=アルコールグラム数
1日60g以上のアルコールを飲むと心身の健康を害したり、社会的生活に支障を生じるリスクが高まる。
●日本酒(アルコール度数15%)
1合:180ml→22g
●ウイスキー(アルコール度数43%)
ダブル1杯:60ml→20g
●ビール(アルコール度数5%)
ジョッキ1杯:500ml→20g
●缶酎ハイ(アルコール度数7%)
1缶:350ml→20g
●焼酎・泡盛(アルコール度数25%)
コップ半分:100ml→20g
●ワイン(アルコール度数12%)
グラス2杯:200ml→20g
飲酒の抑制を目的とした飲酒量低減薬「ナルメフェン」が承認された
「今年1月、飲酒の抑制を目的とした飲酒量低減薬・ナルメフェンが承認されました。この薬は飲酒のコントロールに係わる脳のオピオイドに作用し、バランスをとることで、飲酒欲求を抑える効果があり、飲酒の1〜2時間前に服用します。特に軽症の患者への減酒効果が期待されています」(湯本医師)
アルコール依存症患者約660人を対象としたナルメフェンの臨床試験ではプラセボ群(偽薬)と比較してナルメフェン群は多量飲酒の日数が有意に減少、その効果は24週間持続する結果となった。
アルコール依存症は進行するため、早期の対策で重症化を防ぎ、最終的には断酒に到達できればベストだ。
※週刊ポスト2019年6月7日号
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