眠れない夜の最終手段?「睡眠薬」は種類やリスクを知って正しく使う【薬剤師解説】
気象庁の調査によると熱帯夜、真夏日(30℃以上の日)、猛暑日(35℃以上の日)の年間日数が全国的に増加傾向にあるという。眠れない夜を悶々として過ごし続けるよりも、使用法や副作用を理解した上で「睡眠薬」を服用することも検討に入れて欲しい。「睡眠薬」の正しい使い方と注意点を薬剤師に聞いた。
睡眠薬の種類やリスクを薬剤師が解説
あらゆる手を尽くしても眠れない場合、がまんせずに睡眠薬を頼るのも一手。ただし使い方には注意が必要だ。薬剤師の三上彰貴子さんが解説する。
「睡眠に関する市販薬は、正式には『睡眠改善薬』といわれる『抗ヒスタミン薬』が主流です。鼻炎薬やかぜ薬などと同じ成分で、副作用である眠気を利用しています」
一方、医師から処方される薬は、大きく4種類の主成分に分けられる。
「近年特に処方されることが多いのが『メラトニン受容体作動薬』と『オレキシン受容体拮抗薬』の2種類。効き目は比較的おだやかですが、これらは寝つきをよくする一方で、眠りが浅くなって夢を見やすくなることも。心理状態によっては怖い夢を見てしまうので、副作用として『悪夢』があります」(三上さん・以下同)
昔からあるタイプの薬は「ベンゾジアゼピン系」といわれるもの。効き目が強い分、長期で服用すると効きにくくなることがあるほか、ほかの薬と比べると依存性も高い。
「のみ続けると認知症リスクを高める可能性があるという報告もあります。また一部のベンゾジアゼピン系睡眠薬には健忘の副作用があるものも。『非ベンゾジアゼピン系』は依存性は低いですが、こちらも副作用に健忘があり、服用後に意識がぼんやりすることもあります」
ベンゾジアゼピン系睡眠薬の副作用には「筋弛緩」や「呼吸抑制」もあるため、睡眠時無呼吸症候群の人が服用すると眠っている間に呼吸が止まる可能性があり、最悪の場合死に至ることも考えられる。
睡眠薬の正しいのみ方とは?
そもそも、薬はすべて体にとっては毒物だと、三上さんは話す。
「薬の持つ“毒性”は肝臓や腎臓で代謝されて、体外に排せつされます。そのため、薬によっては長期にわたってのみ続けることで、肝臓や腎臓に負担がかかります。むくみが出たり、疲れやすさやだるさなどの症状があれば、肝機能や腎機能に問題が出ている可能性があります」
薬の力を借りるなら、それらを”毒”にしないよう、正しいのみ方を守らなければならない。
基本的に、医師が処方したものを用法用量を守って服用すれば“最悪の事態”は避けることができる。だがどんな薬でも当然、体に合わないことはある。
「翌日も薬が体に残っている感覚や日中の眠気、寝起きの不快感、中途覚醒、イライラなどがあった場合、必ず医師に相談してください」
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睡眠薬服用の際に気をつけること
服用の際に重要なのは、睡眠薬をのんだら30分以内に布団に入ること。薬で眠くなり、ぼーっとしているときにお湯をわかして大やけどを負ったり、転倒して大けがをすることもありうる。
「睡眠薬は抗生物質などとは違い、のみ切る必要はほぼありません。自然な眠気があるなら、のまない選択もできます。反対にもし薬が効かなくても、勝手に量を増やすのは絶対にいけません。処方された薬を他人にゆずるのも、絶対にやめてください。受け取った人が大量服用する可能性がゼロでないのはもちろんのこと、副作用で呼吸が止まる恐れもある」
「最近なんとなく眠りが浅い」といった程度なら、サプリメントから試す選択肢もあるが、頼りすぎは禁物だ。
近年はGABAやテアニン、グリシンなど、睡眠をサポートする成分のサプリメントも増えているものの、サプリはあくまでも食品で、効果が立証されているものは少ない。
「プラセボ(暗示)でも、のむことで安心して眠れるなら、お守り代わりに頼ってもいいでしょう。『機能性表示食品』や『トクホ(特定保健用食品)』なら、即効性は難しくとも、体質の改善などによる効果は期待できるでしょう」