難聴を放置すると認知症や要介護リスク増 耳の老化を防ぐ対策「速聴トレーニングと井戸端会議」を医師が解説
一般的に聴覚の衰えは40代から始まるといわれているが、近年、難聴の人はますます増えているという。65才の9割が難聴を自覚しているといわれる中、放っておけば「認知症」や「要介護」のリスクが増えると医師が指摘する。専門家に耳の老化を予防する対策について教えてもらった。
教えてくれた人
坂田英明さん/川越耳科学クリニック院長
今野清志さん/耳の治療院「日本リバース」院長、整体師
望月理恵子さん/管理栄養士
難聴予防に「速聴トレーニング」と「井戸端会議」
耳が聞こえにくくなって人とコミュニケーションを取るのが難しくなると、意欲や活動量が低下し、抑うつや社会的孤立につながり、次第に認知機能が低下してしまう。難聴の人はそうでない人に比べて、1.9倍も認知症になりやすいとの研究もある。
活動量が低下すると、加齢に伴う虚弱状態である『フレイル』や要介護のリスクも高くなり、聞こえづらさを放置すると老化を加速させるどころか寿命を縮めることにつながりかねない。
体を作る、栄養豊富な食生活へと見直すと同時に、耳そのものへのアプローチも行おう。川越耳科学クリニック院長の坂田英明さんが推奨するのは「速聴トレーニング」と「井戸端会議」だ。
「好きな曲や録音したラジオなど何でもいいので、言葉が入っている音を1.5倍速で聞き取りましょう。
集中して聞き取る練習を繰り返すことで脳が活性化して、通常スピードでの会話がゆっくり聞こえるようになります。井戸端会議は1対1ではなく、3~4人のグループでおしゃべりするのがいい。複数人の誰が話すかわからない状況で“話をする”“聞く”“考える”を行うと脳が刺激されます」
お天気コーナーなど、5分程度の番組に集中するのもいいと耳の治療院「日本リバース」院長で整体師の今野清志さんは言う。
「ポイントは短い時間でいいので、一生懸命聞くこと。お気に入りのアナウンサーの声だと長続きしやすい。聞こえるようになってきたら、少しずつ音を小さくしてみてください」
耳ツボマッサージで血流改善へ
耳の血流を改善するために、手軽にできるツボマッサージも取り入れたい。管理栄養士の望月理恵子さんは2つの耳ツボが有効だと紹介する。
「耳の後ろの骨と耳たぶの間にある『翳風』のツボは、耳鳴りや難聴など耳の不調にいいといわれています。『聴宮(ちょうきゅう)』のツボがあるのは耳の軟骨前、口を開けるとくぼむ部分。疲労やストレス、加齢などが原因の耳鳴りの症状が軽減するといわれています。どちらもゆっくり指の腹で圧を加えて、イタ気持ちいいくらいの強さで約5秒キープして」
難聴を防ぐにはウオーキングやエア縄跳びも
体を動かして、血行を改善するのも効果的。今野さんは「全身を動かせるウオーキングがベスト」と話す。
「有酸素運動をすると心肺機能が高まり、血行がよくなる。実際に歩くだけで自律神経が整って、難聴がよくなるケースもあります。『エア縄跳び』にもぜひチャレンジしてほしい。縄を持っているかのように手を回してジャンプするだけなので、すきま時間にいつでも行えます。縄跳びのように体を上下に揺らす運動は胃腸を刺激して血流がアップするので、自律神経のバランスも整いやすい」
血行改善には、半身浴も効果的。
「38℃で10~15分程度が目安。マグネシウム入りの入浴剤を使うと皮膚からマグネシウムが吸収されて、さらに血流改善効果が期待できます」(坂田さん)
覚えておきたいのは早期の対策がいちばんの難聴予防につながること。「まだまだ自分の耳は健康」と思っていても、知らない間に難聴が進んでいることはある。新中野耳鼻咽喉科クリニック院長の陣内賢さんは、「“聞こえにくい”という感覚を大事にしてほしい」とアドバイスする。
「健康診断などで正常だと言われたとしても、聞こえにくいと感じるようであれば一度、病院を受診した方がいい。健康診断の目的は明らかな異常がある人を判定することなので、判定基準が甘めに設定されていることが多いです。難聴なら早めに対応しなければ症状は悪化するし、難聴ではなくほかの病気が隠れている可能性もある」
補聴器に頼ることも検討して
セルフチェックとして、オンラインやアプリで聴力を測ることもできる。難聴と診断され、聞き返すことも多くなったら早めに補聴器に頼る方がいいと陣内さんは続ける。
「補聴器を使い始めると、数か月で認知機能が回復するケースもあります」
補聴器の種類は大きく分けて3つ。耳の後ろにかける「耳かけタイプ」、イヤホンのように耳に入れる「耳穴タイプ」、本体をポケットに入れる「箱型タイプ」だ。
「箱型タイプは安価ですが、本体を持ち歩かなければいけないのがデメリット。耳穴タイプは汗などで故障しやすいので、おすすめは耳かけタイプです。耳にかけると目立つから嫌だというかたもいますが、最近の補聴器は小さくて軽いので思っている以上に目立ちません」(坂田さん・以下同)
金額は数万円から100万円以上と幅広いが、片耳10万円くらいであれば標準機能を満たしているという。
「決して安くはない金額ですが、健康寿命を考えた自己投資だと考えてほしい。自治体によっては補助金が出ることもあります。残念ながら、日本では補聴器が必要な人のうち約15%しかつけていない。普及率が高いイギリスでは、53%が利用しています」
ただし、ただつければいいというものではない。補聴器はメガネを作るときに視力を測るのと同じように、聴力を測ってその人の症状に合わせて作るもの。「合わなければかえって耳を悪くする恐れがある」と愛知医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科特任教授の内田育恵さんは指摘する。
「補聴器をその人の聴力に適切に合わせるには、専門的な技術が必要になります。補聴器相談医がいる耳鼻科で診察を受け、病院を通して購入するか、医師から補聴器技能者がいるお店を紹介してもらうのがいいでしょう。合っていないものを買わされるケースもあるので、注意してほしい」(内田さん・以下同)
集音器には気をつけよう
通販で販売されているような安価な「集音器」にも気をつけよう。
「補聴器は大きすぎる音を制限する機能がある一方、集音器の機能は一般的に音を大きくするだけ。例えば周囲で大きな音が聞こえているとき、補聴器は大きな音を絞って耳の負担にならないように調整しますが、集音器は大きな音も音量を上げる。そのため、人によっては音響暴露で難聴が進行することがあります」
加齢性難聴の場合は手術や投薬治療ではなく、補聴器による治療が基本となる。
「重度の難聴で補聴器でも聞きとりづらい場合は、人工内耳の手術を受けることもありますが、加齢性難聴は手術ではよくなりません。突発性難聴にはステロイドの投薬治療が行われることもありますが、頻回・長期の服用はやめた方がいい。同じ薬を漫然と長期にのんで、難聴が改善することはまずありません。まずは日常生活の見直しと聴覚トレーニングを大事にしてほしい。数値上での聴力は戻らなくても、聞きとる力は80才、90才でも高めることができます」(坂田さん)
いくつになっても遅すぎることはない。「100年聞こえる耳」の作り方に耳を向けて、実践あるのみ。
※女性セブン2024年4月18日号
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