倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.18「闘病中の夫が好んだソーダ味のアイス」
すい臓がんにより2月に旅立った夫、叶井俊太郎さんに寄り添ってきた漫画家の倉田真由美さん。夫が闘病中に好んで食べていたものがあるという。がん闘病中の「嗜好の変化」について振り返る。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
「私がいてよかった」
夫のことを綴った簡単な日記…というかメモは、半分くらい食べ物のことで占められています。
昨年、まだ元気だった頃の夫、恐れていた痛みはほとんど出なかったものの、体重が減り食べるもののバリエーションと量は日に日に減っていました。
大好物だった鰻や焼肉やすき焼きは食べられなくなり、でもなぜか家で焼いたステーキはたまに食べたり。逆に、以前あんまり食べなかった果物を好んで食べるようになったり。毎晩のように季節の果物を剥いてやりながら、「私がいてよかった」と思っていました。
包丁を使うことをしない夫は、きっと私がいなかったら果物を食べることはほとんどなかっただろうから。「桃、食べたいけど皮剥くの面倒だからいいや」という人だったから。
嗜好が変化したもの、他にはアイスクリームがあります。下戸で甘党の夫はアイスクリームは元々好きでしたが、好きなアイスの種類が変わっていきました。
以前はチョコやバニラ、キャラメルといった濃厚なアイスクリームが好みでしたが、いつの間にかそういうものはダメになり、「さっぱりしたのがいい」とシャリっとしたシャーベット系ばかり食べるようになりました。
ある時期、「ガツン、とみかん」という棒つきのアイスキャンディーが大好きになり、そればかり食べていたりもしました。
毎日のように食べていたもの
今年に入ってから毎日のように食べていたのは「ガリガリ君」ソーダ味です。
2月の大雪の日の夜、「どうしても食べたい」という夫のためにコンビニにガリガリ君を買いに行ったことはまだ記憶に新しいです。ソーダ味とキウイ味を買って帰り、「キウイ味も食べてみたら。さっぱり酸味もありそうだし」と食べさせてみましたが、「いや、これじゃない。ソーダ味がいい」と夫は首を振ってソーダ味を食べました。
後日その話を、自宅に夫を看に来た訪問医にしたところ、「身体が弱った患者さん、なぜかガリガリ君は食べられるという人多いんですよ」という意外な話が返ってきました。
「へえ。やっぱりソーダ味ですか」私が尋ねると、「ええ。ソーダ味がいいみたいです」と頷きました。「ソーダ味うまいんだよ」と、夫も心得顔で言いました。
夫がいなくなってしばらく経った先日、SNSでとあるがん患者さんが「ガリガリ君ソーダ味だけは食べられる」と書いてあるのが流れてきて、「夫と同じだ」とまたその時のことを思い出しました。
今もうちの冷凍庫には、買い置きしていたガリガリ君ソーダ味が残っています。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』