猫が母になつきません 第389話「こぜに」
母はよく「もったいない」と言う人でした。それなのに認知症になって買い物の時にとっさの計算ができなくなり、小銭を使えなくなり、財布からそれを出していつもその辺に適当に置くようになりました。それが床に落ちてまるでゴミみたいにばらまかれていることもあり「お金持ちだから小銭は捨てるんだね」と嫌味を言っても「ふふん」と言うだけで改善はされませんでした。スーパーのプリペイドカードを作ったりもしましたが、すべてのお店のカードを作るというわけにもいかず、小銭はどんどん貯まっていきました。
缶が小銭でいっぱいになるとジッパーつきの袋にいれて保管していましたが、袋が三つになったところで銀行にもっていくことにしました。大量の硬貨を持ち込んだ場合、たとえ自分の口座に預け入れるとしても手数料がかかることが多いです。(50枚までは無料とか、ATMに入れた場合は無料だけど一度に入れられる枚数には制限があるとか、金融機関によって対応はまちまち)
ずっしり重たい硬貨がつまった袋をカウンターで預けて機械で数えてもらうと1365枚でした。集金とかで少しは使っていたと思うので実際に私が拾った数はもっとだと思います。我ながらよく拾ったもんだ(涙)。私が行った金融機関では手数料1650円、全額を母の口座に振り込みました。硬貨1365枚といっても10円玉が一番多かったので入金額は3万ちょっとくらいでした。
以前同じ銀行でおじいさんが1円玉ばかりがつまったビニール袋を抱えて銀行員の女性と話しているのを見かけたことがあります。女性は「手数料がかかるので、1円玉だと預ける額より手数料のほうが高くなっちゃうからそのまま持ってたほうがいいですよ」と説明していました。1円玉500枚だとしたら、その500円を預け入れ(もしくは払込み)するのにその金融機関では825円かかるのです。おじいさんはその説明に意外そうな顔をした後、肩を落として1円玉のかたまりを抱えて帰っていきました。現金を自分の口座に入れるのにお金がかかるなんて思いもしなかっただろうし、大量の1円玉を自分で使うしかないなんて気が遠くなります。
金融機関のシステムはどんどんデジタル化され、その複雑さは私でもついていくのがやっとといった感じです。自分が高齢者になったときにちゃんと管理できる自信は全くありません。銀行で額面どおりに受け取ってもらえないおじいさんの一円玉は、高齢者の金融問題の一番手前にある現実のように見えました。おうちで瓶や缶に小銭をため込んでいるひとーっ、明日からどんどん使うべしっ!
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作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。