倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.8「夫にかけた最期の言葉」
漫画家・倉田真由美さんの夫、叶井俊太郎さんは2024年2月16日に旅立った。「夫のこと、まだまだ書きたいことがたくさんある」という倉田さん。すい臓がんを抱える夫が、最期の時を迎えた日のこと、そして亡くなる前の日常を振り返り、想いを綴ってくれた。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
夫にかけた最期の言葉
2月16日夜、夫が永眠しました。
宣告された余命を遥かに超えていた夫、まだまだ生きるんだと勝手に思っていました。
身体は弱っていたけど、今年に入っても寝ついて起き上がれない日なんてなかったから。手洗いや入浴など基本的な自分のことは自分でできていたから。少ししか食べられないけど、「あれ食べたい」「これ飲みたい」と食欲もあったから。
なのにあの日、朦朧となって初めて意思疎通が困難になった日の夜中、私が見ている目の前で最期の息を引きとりました。
「父ちゃん、呼吸して!」これが夫にかけた最期の言葉になってしまいました。
呼吸をしなくなった後も、「父ちゃん!父ちゃん!」泣きながら何度も声をかけました。瞼に浮き出た血管が小さく脈動するのを見て、「まだ生きてるんじゃないか」と思いましたが戻ってくることはありませんでした。
夫のこと、まだまだ書きたいことがたくさんあります。もう少しだけ、こちらで伝えさせてください。
亡くなる4日前のこと
私に支えられながらだけど、ゆっくり歩いて駅前の本屋に行けたのは亡くなるたった4日前。
帰宅後にはパソコンを立ち上げキーボードをチャカチャカして、仕事をしていました。「歩いたから体調いいのかな」と問いかけると「そうかもね」と言いました。
→「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.7「最高の父ちゃん、最高の夫と。手を繋いで」
「ご飯何食べる?」
「久しぶりにウインナーが食べたい。◯◯のがいい。あと、目玉焼き」
ウインナーは元々夫の好物ですが、最近はまったく食べたがることがなかったものです。私は嬉しくなって、すぐに買いに出ました。一軒目には◯◯のウインナーがなかったのですが二軒目にはありました。
「何本食べる?」
「2本かな」
少し考えて、夫は答えました。元気な頃なら1袋はペロリと食べてしまうような夫でしたが、たった2本のリクエスト。炒めるより茹でたほうがいいというので茹でて、これも好物だったケチャップを添えて出しました。
でも、1本を食べたら「もう無理」と残してしまいました。目玉焼きも、黄身の部分しか食べていません。
この頃には本当に食が細くなってしまっていました。ほんのひと月前にはカップ麺(大きなサイズ)を食べちゃったりしていたのに。
でもこの日、夫が久しぶりのウインナーを頬張る姿を見られてよかったです。まだまだいろんなものを食べてほしい。美味しいと感じてほしい。そう思っていました。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』