倉田真由美さん「すい臓がんの夫と宣告余命後の日常」Vol.4 鰻屋さんの帰り道「この光景を一生忘れまい」
漫画家の倉田真由美さんの夫、映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(56才)は2022年6月にすい臓がんが発覚。「もってあと1年」と医師の余命宣告から1年半が過ぎた今、腹水が溜まり始めた夫の体調はめまぐるしく変化している。何を食べてもらうべきか、何が食べたいのか――。揺れる倉田さんの心境とは?
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』は現在Amazonで無料で公開中。
余命宣告を超えた夫の変化
夫の体形はこの1年半で激変しました。
元々は体格のいい人で、体重も85、6kgありました。3年前心筋梗塞を起こした際にも、「もう少し痩せた方がいい。食生活の見直しを」と言われていたけど、まったく気にすることなく好きなものを好きなように食べてきた夫です。
2022年初夏にすい臓がんが判明してからも、変わりませんでした。好きなものを好きなように食べる。余命宣告をされているし、我慢してストレスを溜めるより食べたいものを食べて満足すればいいと私も思っています。
でも、がんは内側から夫を変えていきました。
どんなにカロリーの高いものを食べても、じわじわ痩せていくのです。去年の秋頃には60kgをわり50kg台になっていました。
ここ最近は現実を数字で直視するのをやめて、夫も私も体重計は無視して生活しています。
さらに夫は、嗜好も変化しました。大好物だったものが食べられなくなってしまったのです。
代表例は、鰻。お酒を飲まない夫は甘いもの好きで、食事も「甘辛い」系が大好き。中でも鰻はその最高峰で、でも高価だし、しょっちゅうは食べられなくて、我が家では何か特別な日に食べてきました。
近所に、とびきり美味しい鰻屋さんがあるんです。そこの鰻丼をテイクアウトで持ち帰って食べるのが、たまの贅沢でした。
最後にそれをしたのは夫の余命宣告の数日後。娘と夫と私、3人で買いに行きました。
夫と、まだ何も知らない娘が並んで歩く後ろ姿を、「この光景を一生忘れまい」と眺めながらついて歩きました。
大好きだった鰻「食べたいけど、食べられない」
帰宅後に食べた鰻丼はやっぱり美味しくて、これからはしばしば買いに行こうと言っていたのに、夫は鰻を口にしなくなってしまいました。
「好きだったし食べたいんだけど、なんでだか食べられないんだよ」としょんぼり言います。
食べられるものが減り、体重が減ってしまったところに、腹水が溜まり始めてお腹だけが膨らんでしまった夫。先日、「ジーパンが履けなくなった」と嘆いていました。着道楽でオシャレ好きでもある夫は、着たい服が着られなくなることもとても辛いようです。
好きな服が着られない。身体もだるい。だから外出しなくなる。
ここ数日、特にこの悪循環が続いています。昨年まで毎日行っていた会社も、行かずにオンラインやメールですませることが多くなりました。
「先生も歩いたほうがいいって言ってたよね。散歩でも行かない?近所に買い物がてら」と誘っても、「いや、きついから無理」と断られてばかり。
歩かなくなると、てきめんに足の浮腫みがひどくなります。食欲も落ちます。だからちょっとでも歩いてほしいんだけど、無理やり引っ張り出すわけにもいきません。
たった1か月ちょっと前、今年の元旦には「初詣行こう!」と家族で一番活動的だったのに。末期がん患者の身体と心の調子は、目まぐるしく変わっていきます。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』