倉田真由美さん「すい臓がんの夫と宣告余命後の日常」Vol.3「お腹から水が!? 点滴後のキャラメルラテ」
末期のすい臓と診断された夫、叶井俊太郎さん(56才)に寄り添い、闘病生活を支える漫画家の倉田真由美さん。夫のお腹に溜まってきた腹水を抜く治療に付き添い「少し楽になったかな?」と感じたのも束の間、新たな問題が発生し――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』は現在Amazonで無料で公開中。
「お腹から水が漏れてる!」
昨年12月半ばくらいから腹水が溜まり始めた夫。今年に入ってから「腹がパンパンに張って苦しい!もう我慢できない!」と、お腹に針を刺し腹水を抜くようになりました。1月は3回抜き、3回目は私も同行しました。
しかしこの3回目の腹水を抜いた2日後、大変なことが起きました。
朝、「わー!」と夫が叫ぶ声で夫の下へ飛んでいくと、「お腹から水が漏れてる!」と。
見ると部屋着の右側の裾が濡れています。慌てて裾をめくりお腹を確かめると、先日腹水を抜いた針の痕からじんわりと水が滲み出てくるのが分かりました。
「これは、どうすればいいか先生に聞かないとダメだわ」
夫に、施術してくれた医師に電話をかけてもらいました。先生は、「ガーゼを当てて様子を見て」と。あいにく休院日で、すぐに診てもらうことができません。
「仕方ない。とりあえずガーゼの上からタオル当てておこう」
私はこの時、「悪いことばかりじゃないかも、お腹の張りが緩和されて楽になるのでは」と状況を楽観視していました。漏れて出てくる水の量はほんの少しずつだし、しばらく経ったら止まるだろうし。
ところが、これは甘い見通しでした。
午後になっても、夜になっても水は流れ続けます。当ててあるタオルは2時間くらいでぐっしょり濡れてしまうため、しょっちゅう替えなくてはなりません。しかも、夫の元気がどんどんなくなっていくのです。
「何か食べる?」
「いらない。欲しくない」
「腹水が減ってお腹は楽になってるんじゃないの?硬くてパンパンだったけど、今は少し柔らかくなってるよ」
「張りは小さくなってるけど、だるい。何もできない」
「腹水は抜きすぎてはいけない」といわれているのは本当のようです。食欲もなく、ぐったりしている夫。夜中も度々様子を見に行きタオルを替えますが、腹水が溢れ出すのは止まりません。
人間にとって水は命!
お互いろくに眠れないままの翌朝、医師に再び電話しました。この日も休診日でしたが、医師が来て診てくれることになりました。
お昼過ぎに病院に行くことになり、私と夫は「それまで少しでも寝よう」と休むことにしました。
お互い起きたのは11時頃。夫のお腹を確認すると、タオルがあまり濡れていない。なんと水が止まっています。
「よかった、止まったよ!」
でも夫は元気がありません。丸1日以上水が出続けていたので、身体のバランスもおかしくなってしまっているんでしょう。
ご飯もいらない、とぐったりしています。
脱水が怖いのでジュースを飲ませ、イチゴを食べさせました。果物は食欲がない時でも割と食べてくれるので、助かります。
病院に行き、穴は塞がっていることを確認して点滴を打ってもらいました。
やはり脱水症状が出ていたようです。点滴後は、なんだかスッキリした感じの夫。
人間にとって、やはり水は命です。普段夫の不調の素になっている腹水とて、完全な悪者ではないんだと思い知りました。
病院の帰り、夫はカフェでケーキ2つとドーナツ、キャラメルラテをテイクアウトしました。
「またそんな甘いものばかり」と私は内心苦笑いしながらも、元気が戻ったことを確認し、行きよりも足取り軽く帰路につきました。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』