意外と知られていない抗菌薬(抗生物質)で風邪は治らないという事実 改めて学びたい「細菌」と「ウイルス」の違い
年末年始の暴飲暴食や寝正月の影響で生活リズムが崩れ、正月明けは体調を崩す人も多い。発熱やのどの痛みなど風邪のような症状に気づいたら早く治したいものだが、症状を抑えるために「抗菌薬(抗生物質)」に頼るのは間違った使い方なので要注意!風邪と抗菌薬の関係性について専門家に解説してもらった。
→抗菌薬と抗生物質の違いは?してはいけない薬ののみ方NG例<薬の疑問>に医師がアンサー
教えてくれた人
藤友結実子さん/国立国際医療研究センター病院・AMR臨床リファレンスセンター情報・教育支援室長。専門分野は臨床感染症、感染対策、呼吸器疾患。
抗菌薬は風邪に効果あり?なし?
風邪の薬には、細菌をやっつける抗菌薬、ウイルスに効く抗ウイルス薬のほか、熱を下げる解熱剤や咳止めなどがあり、それぞれの症状や病原体に合った薬を、用法・用量を守って正しく使うことが大原則だ。
ところが、「風邪で抗生物質をもらって治ったよ」などと誤解している人が少なからずいる。これはなぜか?
「そもそも、風邪は<コモンコールド>といい、世の中でいちばん多い病気です。原因はウイルスなので、抗菌薬は風邪に効きません。ただ、昔はあまりデータがなく、風邪が重症化して肺炎になるのではないか、実は細菌感染なのではないかということで、風邪でも念のため抗菌薬を処方する臨床現場があったのも事実です。しかし現在では、8割以上の医師が風邪には抗菌薬は処方しないと回答しています(*)。かつて抗菌薬をもらって風邪が治ったと感じた人がいるのは自然治癒力でちょうど治る頃だったからだと考えられます」(藤友結実子さん・以下同)
つまり、ウイルスが原因の風邪で、細菌に効く抗菌薬をのむのは、不適切で不必要な間違った抗菌薬の使い方の最たるものといってもいい。
(*)AMR臨床リファレンスセンターによる2022年の意識調査で、82.4%の医師が「風邪で抗菌薬は処方しない」と回答。
世の中でいちばん多い疾患「風邪」を徹底解説!
【子供の場合】平均年6~8回ひく
【大人の場合】平均年2~4回ひく
<風邪の定義(ハリソン内科学書より)>
【1】上気道の症状を呈する(鼻水、鼻詰まり、くしゃみ、咽頭痛、咳など)
【2】多くは無治療で自然寛解(かんかい)する
【3】原因は、異なる種類に属する多数のウイルス
感染症の原因となる「細菌」と「ウイルス」の違いとは?
そもそも私たちは、細菌とウイルスを混同しがちだが、下の比較を見ると、ウイルスは細菌の100分の1ほどの小ささで、形状も違う。細菌が自己増殖できるのに対し、ウイルスは宿主がないと増殖できず、それによる代表的疾患も異なることがわかる。
【細菌の特徴】
<大きさ>
大きさは1ミクロン程度(1/1000mm。ウイルスの100倍の大きさ)。
<形状>
<特徴>
単細胞の生物。生物なので、細胞分裂によって増殖する。抗菌薬(抗生物質)が効くのはこちら。
<代表的な疾患>
●肺炎
●腎盂腎炎(じんうじんえん)
●胆管炎
●蜂窩織炎(ほうかしきえん) など
【ウイルスの特徴】
<大きさ>
0.01ミクロン(細菌をソフトボールだとすれば、ウイルスは米粒大とされる)。
<形状>
<特徴>
生物と非生物の中間的な存在。生物の細胞内に入って、細胞に依存しながら増殖する。抗菌薬は効かない。
<代表的な疾患>
いわゆる“○○風邪”
●のど風邪、鼻風邪、咳風邪
●胃腸風邪
●帯状疱疹 など
※AMR臨床リファレンスセンター制作リーフレットより一部抜粋
【結論】
風邪に抗菌薬は効果がない。風邪のときに抗菌薬をのんでも早く治らない。
風邪薬も風邪を根本的に治療する薬ではない
こうなると、風邪に効く抗ウイルス薬が欲しいところだが、抗ウイルス薬はインフルエンザ、HIV、ヘルペス、C型肝炎、コロナなど限られたものしかない。
「抗ウイルス薬は数が少なく、新型コロナのときもそうでしたが、ウイルスはすぐに変異するので、ずっと効き続ける薬を作るのは難しく大変です。では風邪薬は何かというと、咳を止める、鼻水を止める、熱を下げるなどの、いわゆる対症療法薬。つらい症状をやわらげるもので、根本的に解決する薬ではないのです」
取材・文/北武司 図版・イラスト/勝山英幸
※女性セブン2024年1月4・11日号
https://josei7.com/
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