肺炎で亡くなった患者の9割以上が65才以上!「専門医でも見つけるのが難しい」肺炎と風邪、見分け方など医師が徹底解説
2020年以降、新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)を起因とする肺炎により死者が急増し、肺炎の恐ろしさに注目が集まった。しかしコロナ禍以前から、肺炎は日本人の死因5位。中でも亡くなった患者の9割以上が65才以上と、高齢者にとっては「死に至る病」とされてきた。コロナが落ち着いてきたからといって油断は禁物。“ただの風邪”かと思いきや肺炎となり、急死する例が多々あるという。肺炎の特徴や風邪とは異なる肺炎の発症メカニズムを専門家とともに紐解く。
教えてくれた人
大谷義夫さん/池袋大谷クリニック院長。日本呼吸器学会専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医。せきやぜんそくなどの疾患の診断、治療を行う。11月に新著『1日1万歩を続けなさい』(ダイヤモンド社)を発売予定。
免疫力が落ちると肺炎に二次感染しやすくなる
厚生労働省によると(※)、2022年に肺炎で亡くなった人は7万4002人で、日本人の死因では、悪性新生物(がん)、心疾患、老衰、脳血管疾患に続き5番目に多い。誤嚥(ごえん)性肺炎を含めると13万70人で、脳血管疾患(10万7473人)をしのぐ第4位になる。
そもそも、肺炎とはどのような病気で、なぜ高齢者ほど命を落としやすいのか。
「肺炎は感染症のひとつで、病原体によって細菌性肺炎、ウイルス性肺炎などに分けられます。誤解されがちなのですが、インフルエンザウイルスが直接的な原因で肺炎になることは極めてまれ。実際はインフルエンザを発症したことで免疫力が低下し、肺炎球菌などの細菌が侵入。“二次感染”した結果、肺炎を発症するケースが多くみられます」(池袋大谷クリニック院長の大谷義夫さん・以下同)
(※)「令和4年(2022) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」より
風邪だと放置した結果、肺炎で命を落とす人も
肺炎の症状は病原体によって異なるが、多くの場合、せきや発熱、全身の倦怠感、食欲不振など、風邪に似た症状が特徴だ。風邪との違いは発熱などの症状が長引くかどうかと、炎症が起こる場所だという。
「風邪はのどや鼻などの上気道に炎症が起きるため、口や鼻のあたりに症状が出ます。一方、肺炎は細菌などの病原体が気管の奥に入り、肺まで侵入して炎症を起こします。気道の先端には数億個もの『肺胞』がありますが、この肺胞で炎症を起こすのが、肺炎球菌などの細菌です」
肺炎を侮るな!病原体によって異なる11種類の症状
※病名・症状名/主な症状
【1】肺炎球菌性肺炎
肺炎ではもっとも多い原因菌である肺炎球菌に感染して発症する。せき、黄色から緑・鉄さび色のたん、発熱、倦怠感などの症状がみられる。免疫力が低下している高齢者は重症化しやすい。
【2】マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマという微生物に感染して発症する。くしゃみや鼻水は少なく、当初はたんの出ない空せきが特徴。進行すると眠れないほどのせき、38℃以上の高熱、全身のだるさ、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などを起こす。
【3】夏型過敏性肺炎
トリコスポロンというカビを吸い込むことで発症するアレルギー性肺炎。せきやたん、微熱、息切れなどが2週間以上治まらない。慢性化すると命にかかわることもある。
【4】鳥関連過敏性肺炎
鳥の羽毛やフンなどに含まれる微細な物質(鳥タンパク)を吸い込むことで発症。羽毛布団やダウンジャケットから吸い込むこともある。初期の症状として、せきや息切れなどがみられる。
【5】間質性肺炎
「間質」という肺胞の壁にあたる部分に炎症が起こり、肺が硬く縮む難病。アスベストの吸入によるもの、リウマチなどの膠原(こうげん)病に伴うもの、一部の抗がん剤や漢方薬など、薬剤のアレルギーによる薬剤性肺炎、過敏性肺炎などがある。発熱、せき、呼吸困難などの症状がみられる。原因不明の特発性間質性肺炎は指定難病。
【6】レジオネラ肺炎
レジオネラ菌の感染による肺炎。温泉や公衆浴場、温水シャワーなどの水回りに生息して繁殖することがある。全身のだるさ、頭痛、食欲不振、筋肉痛などから、38℃以上の高熱、悪寒、胸痛、呼吸困難、意識障害、手足のふるえなどがみられるようになる。
【7】肺アスペルギルス症
真菌(カビ)の一種、アスペルギルスに感染して発症。糖尿病、抗がん剤やステロイドで治療中など免疫力が低下した人の場合、肺や気管支に重篤な炎症を起こし、呼吸不全に陥ることもある。
【8】非結核性抗酸菌症
汚染された水や土壌にいるMAC菌などに感染して発症。長引くせきとたんが主な症状。40才以上のやせ型の女性に多くみられる。
【9】肺結核
肺結核に感染して発症。2週間以上続くせきとたん、血たん、倦怠感などから、発熱が続いたり、呼吸困難を起こすこともある。
【10】ウイルス性肺炎
インフルエンザウイルスやRSウイルス、麻疹(はしか)ウイルスなどに感染して、間質性肺炎を生じることがある。近年もっとも多いのは新型コロナウイルス感染症によるもので、特にワクチンを接種していないと発熱やせき、頭痛、倦怠感、味覚障害などの症状が1週間ほど続いた後、呼吸困難や息切れなど肺炎の症状が悪化することがある。免疫の暴走を引き起こし、多臓器不全を招くことも。
【11】誤嚥性肺炎
高齢者に多くみられる肺炎。細菌を含む唾液や飲食物などを誤嚥することによって起こる感染症。のどの機能の衰えや免疫力が低下する高齢者は特に注意が必要。
肺炎と風邪の違いは?肺炎を見つけるのは専門医でも難しい
とはいえ、素人が風邪か肺炎かを判別するのは難しい。実際、大谷さんのクリニックに風邪を訴えて来院した患者のうち、高齢者では5割近くが細菌性肺炎だったという。
「これはコロナ禍前の数値。コロナ禍以降は6~7割がコロナまたは細菌性肺炎でした。医師は、風邪に似た症状で、特にせきが長引く、発熱が数日続く患者さんには、インフルエンザとコロナの検査をし、どちらも陰性ならレントゲンを撮ります。ただ、肺炎球菌などの細菌性肺炎はエックス線検査やCTで画像を撮れば濃い白い影が写りますが、肺胞の壁やその周辺(間質)で炎症が起こる間質性肺炎の場合、薄くぼんやりした影しか写らず、軽症の場合はCTでなければ見つけられないこともあります」
専門医でも肺炎を見つけるのはこれだけ難しい。特に高齢者の場合、肺炎を起こしても高熱が出ず、微熱にとどまることもあるため、安易にとらえられがち。素人判断は本当に危険なのだ。
「長引くせきや発熱、呼吸が浅い・速い、食欲低下などの症状をはじめ、体の調子がいつもと違うと感じたらすぐに病院へ。軽症肺炎の場合、基本的に抗生物質を投与して治療を行いますが、重症化していれば入院しても治療が難しくなります」
風邪と肺炎では炎症が起こる場所が違う!
風邪:上気道で炎症が起こるのが風邪
肺炎:肺胞が感染して炎症を起こすのが肺炎
間質性肺炎:肺胞の壁とその周辺の間質で炎症が起こるのが間質性肺炎
風邪と肺炎の違い
★体温
風邪:微熱のことが多い
肺炎:38℃以上の高熱(高齢者では微熱もしくは発熱しないこともある)
★期間
風邪:数日
肺炎:数日~数週間と、長引く傾向