考察『ゆりあ先生の赤い糸』4話。夫の介護のために同居する愛人や謎の親子と家族のような関係性が生まれる
自宅で刺繍を教えているゆりあ(菅野美穂)は、くも膜下出血で倒れて要介護5の状態になった夫の吾良(田中哲司)を自宅介護する決意をした。しかし、おかしななりゆきで、倒れたときに一緒にいた美青年(鈴鹿央士)、夫のことを「吾良さんパパ」と呼ぶふたりの娘を連れた謎の女性(松岡茉優)、もとから同居していた姑(三田佳子)との不思議な同居生活が始まった。ドラマに詳しいライター・近藤正高さんが『ゆりあ先生の赤い糸』(テレビ朝日系 木曜よる9時〜)4話を振り返ります。
「シェアハウスなんですよ、この家」
『ゆりあ先生の赤い糸』第4話は、ゆりあ(菅野美穂)や箭内稟久(鈴鹿央士)がその場を取り繕うべく、嘘や言い訳を口にするものの、そこには真実や本心も多少なりとも混じっているように思われた回であった。
ゆりあは便利屋の優弥(木戸大聖)と前回あんなことがあってから帰宅した晩、珍しく居残っていた稟久から相談を受ける。聞けば、郷里で旅館を営む母親(麻生祐未)に彼が会社を辞めたと伝えたところ、だったら実家に戻って来なさいと言われたので、つい、いま介護の勉強をしていると言ってしまったらしい。しかし、信じてもらえず、直接確かめるため母が明日やって来るという。そこで稟久はゆりあに対し「僕は介護の研修中で、もともとの知り合いである吾良さん(田中哲司)のところで実習も兼ねてお手伝いをしているということにしておいてほしい」というのだ。「それってお母さんに嘘をつけってことだよね!?」とゆりあは慌てるが、彼は「いいんですか、僕がここに来なくなっても?」と半ば脅して押し通してしまう。
翌日、稟久の母親(以下、稟久ママと略)がゆりあ宅に襲来する。稟久ママは、息子がゆりあと一緒にてきぱきと吾良の介護をする様子を見届けると、意外にもあっさり帰って行った。駅までは稟久とゆりあの姑(三田佳子)が送っていき、ゆりあはホッと一息……と思いきや、フェイントをかけるように稟久ママが一人で戻ってきた。どうやら、ゆりあと二人きりで話をしたかったらしい。
稟久ママは、先に息子から「介護の勉強を始めたばかりだから、手伝いに行っている伊沢さん(ゆりあ・吾良夫妻)の家に住む」と伝えられ、疑いつつも自分なりに考えた結果、彼はゆりあのことを愛しているからそんなことを言い出したのだという結論に達していた。それというのも、彼女は、稟久がゆりあについて「奥さんのゆりさんは昔の武士のような人だから、男に甘えたり、当てにするような女性じゃないよ」「ゆりさんは……まっすぐな人です、旦那さん思いの」と話すのを聞いていたからだった。
まさか稟久がゆりあのことをそんなふうに見ていたとは驚きである。このときは母親を説得するための方便かとも思ったが、その後の場面で、彼が脱衣場で一糸まとわぬゆりあと出くわし、あとで吾良相手に「隠そうともしないで直立不動だったよ。そういうところがゆりさんらしいんだけど」と話しかけていたところを見ると、本心なのだろう。だが、稟久ママは、息子がゆりあを褒めたのを、彼女のことが好きなのだと勘違いしてしまった(もっとも、相手はゆりあでこそないものの、稟久が伊沢家に住むと決めたそもそもの理由が恋心にあったことは事実ではあるが)。
そんなふうに稟久ママに追及されたあげく、そこへ同居するみちる(松岡茉優)の娘たちが現れたため、ゆりあはますます弁解に苦しむ。焦った末、とっさに「お母さん、ご心配なく。シェアハウスなんですよ、この家」と口にすると、「うちは夫がこういう状態なので、介護のお手伝いをしていただく代わりに月々2万で一緒に住んでくれる人を探してるんですよ。稟久君だけじゃないんですよ」と言い訳した。とはいえ、けっして嘘ではない。シェアハウスというのも、まさに“物は言い様”である。
結局、ゆりあの「稟久君みたいな20代イケメン男子がこんなおばさん相手にしますか? しないでしょう」というダメ押しも効いて、稟久ママは納得して再び帰って行った。そして、これを機に稟久はようやく住んでいたマンションを引き払い、伊沢家に引っ越してきたのである。
姑(三田佳子)の意外な変化
ところで、ここまでの流れで稟久の言葉とともに驚いたことがもう一つあった。それは、稟久ママが一度家をあとにしたとき、ゆりあの姑が近所においしいお団子屋さんがあると言って、ママを駅まで送りに出かけたことだ。あれだけ人見知りで、息子の吾良のヘルパーが一日に複数回来宅するのさえ拒んでいたあの姑が、変われば変わるものである。そう思っていたら、当の姑も「最初はね、他人と一緒に住むのは何だか気が進まなかったんですけど、何だか家族が増えたみたいで」と、往診に来た吾良の主治医の有香(志田未来)にうれしそうに語っていた。稟久やみちる親子を住まわせたことは、この家を結構よい方向へと導いているのかもしれない。
姑の件にしてもそうだが、今回は、ゆりあが「シェアハウスなんですよ、この家は」と言ったせいか、ホームドラマ色が濃く感じられた。たとえば、みちるの下の娘・みのんがベッド上の吾良の体にまたがって、彼にせんべいをくわえさせると、稟久が「喉に詰まらせたらどうすんの!」と烈火のごとく怒った(当たり前だ)。泣き出すみのんを、ゆりあが抱きかかえて手際よく風呂へと連れて行く。混沌とはしているけれど、微笑ましい光景である。
ゆりあは、みちるの上の娘・まに(白山乃愛)に対しても、「可愛いものは自分には似合わないし、好きじゃない」と彼女が言うのを聞き、子供の頃の自分と似ているような気がして、自分と同じくバレエを習ってみてはどうかと勧めた。本人はさほど乗り気ではないようだけれども、実際にバレエ教室を見学すれば気持ちも変わるかもしれない。
みちる親子、吾良と姑以外は誰も血はつながっていないが、ゆりあの家に集まった者たちのあいだに、家族のようなつながりがどうやら生まれつつあるらしい。みちるもまた、ゆりあとの距離が縮まるにつれ思いがけない姿を見せる。ある晩遅く、みちるがケガをして帰宅した。気づいたゆりあが訊くと、勤務先のスナックで常連客にいきなり唇を奪われ、早く帰ってうがいをしたいと思って走っていたらコケてしまったのだという。
このあと、ゆりあと二人きりでお茶を飲んでいたところ、みちるはいきなり彼女に抱きついた。そして、じつは男とスルのが好きではないと明かすと「こうして、ギューッとしてるのが好きぃ」と言うので、ゆりあも思わず彼女を抱きしめ「元気出せ」と励ます。するとみちるは、この人になら心を預けられると思ったのか、「あーあ、私、自分のお店やりたいなあ」と口にしたのだった。いや、それって、若い子がオッサンにたかるときに言うセリフだよね!?
一体、みちるはゆりあに甘えているだけなのか、それとも恋心を抱きつつあるのか。疑問が湧いたところで、さらに翌朝、彼女は、まだ寝ているゆりあに「知ってるよー、ゆりあさん。誰か好きな人できたでしょう」と声をかけたかと思うと、その頬にキスをする。これまたどういう気持ちからそうしたのか図りかねる。ゆりあの恋を応援する気持ちでそうしたのか、それとも、ゆりあが好きになった相手への嫉妬からなのか。
ただ、みちるの言っていたことは図星であった。ゆりあは優弥と前回の一件でダメになったかと思われたが、今回終盤に来て再び二人で会うことになり関係が再燃する。このままダブル不倫に進展! ということになってしまうのか。ホームドラマにして昼ドラ的展開もありと、せわしなくはあるけれど、そのあいだで揺れ動くゆりあにますます目が離せない。
文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)
ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。
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