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考察『ゆりあ先生の赤い糸』3話。目覚めない夫、接近する若い男…「いま、私は女の子だ」ゆりあ(菅野美穂)の危険な恋は始まるのか

 自宅で刺繍を教えているゆりあ(菅野美穂)は、くも膜下出血で倒れて要介護5の状態になった夫を自宅介護する決意をした。そのゆりあに新たな恋の予感? 自宅作業を頼んだ便利屋の優弥(木戸大聖)の息子の名前が同じ「ゆりあ」であったことをきっかけに、優弥に刺繍を教えることになり、ふたりの関係が急接近……。ドラマに詳しいライター・近藤正高さんが『ゆりあ先生の赤い糸』(テレビ朝日系 木曜よる9時〜)3話を振り返ります。

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優弥(木戸大聖)に特別な感情を抱き始めたゆりあ(菅野美穂)

『ゆりあ先生の赤い糸』第3話は、ゆりあ(菅野美穂)と便利屋の伴優弥(木戸大聖)が急接近! の回だった。

 発端は、ゆりあが自ら刺繍した子供用の手提げ袋を、自宅へ作業のため来てくれた優弥にプレゼントしたことだ。その手提げは、ゆりあが自分の刺繍教室のサンプルとしてつくったもので、「ゆりあ」と刺繍してあった。優弥の息子もたまたま同じ名前(漢字で書くと「優里亜」)ということで、ほんの感謝の気持ちのつもりで渡したところ、思いがけず優弥が食いついてきた。何と、自分にも刺繍ができないかと訊いてきたのだ。ゆりあはこれに「じゃあ教えようか、私が」と軽く応じてみせる。

 後日、ゆりあのスマホに優弥から、明日にも刺繍を始めたいからまず何を買えばいいのかとメッセージが来る。これに、ゆりあは、何なら私が手芸店に一緒に行って教えましょうかと返信し、会うことになった。

 ゆりあとしては優弥と初めて二人きりで会うので、ひそかに期待するところだったろう。しかし、優弥はまさかの子連れでやって来た。手芸店で走り回る息子の優里亜に、ゆりあはどこかに遊びに行こうかと誘い出す。“二人のゆりあ”は自然豊かな公園で一緒に滑り台やアスレチックで遊ぶうち、すっかり打ち解ける。原作コミックの同シーンではそういう様子は描かれていないのだが、ゆりあ役の菅野美穂は私生活では子育ての最中とあってか、子供と遊ぶ姿が自然だ。

 このあと、ゆりあは優弥と話をするなかで初めて彼の家庭についてを知る。妻が育児のプレッシャーから鬱っぽくなって家を出て行ってしまい、この1年、子供は保育園と、便利屋の仕事を手伝ってもらっている弟夫婦の世話になっているというのだ。

 彼はそんな不甲斐ない自分をゆりあとくらべると、「いやー、すごいな先生。うちなんか結婚2年目ぐらいからもうぐちゃぐちゃでさ」と感心してみせる。夫の吾良(田中哲司)が寝たきりになっても面倒を見続けるゆりあを尊敬しているし、憧れだというのだ。

 これにゆりあは「別に思いやりでも愛でも何でもないですよ。毎日を習慣としてこなしてるだけで、そうするしかないからです」と正直に打ち明け、「第一、いまのあの人を置いては行けない。いや、これはきれいごとじゃなくて、途中で投げ出すのは、自分がかっこ悪くなるみたいでクソむかつくから」「旦那のためじゃないよ、自分のため」と、介護を始めるに際して抱いた決意を吐露してみせた。優弥にはドン引きされるかと思えば、まったく逆で、そんな彼女がかっこいいと言う。「自分のためでも、結局、人のためになってるって、よくないですか」という彼の言葉には、そういう見方もあったか! とハッとなった。

 だが、ゆりあは、優弥が続けざまに口にした「いてくださいよ、憧れの夫婦で」の一言にイラッとしてしまう。憧れだなんて、自分は「(恋愛)圏外の人間」だと言われたように思われたからだ。そう思いいたって、彼女は自分が優弥に女としてみられたかったのだと気づく。それでも別れ際、次回はファミレスででも刺繍を教えてほしいと言われ、彼とは引き続き会うことになった。

 後日また優弥から明日急に時間ができたとのメッセージを受け、ゆりあはソワソワし出す。「圏外」と言われた気がして、ますます心に火がついたのか、彼に特別な感情を抱き始めたのはあきらかだ。返信するときの心の声もよそ行きの声だし、自室で急に慣れないメイクを始めたのを、先日から家に住まわせているみちる(松岡茉優)に見つかり、「お手伝いしましょうか?」とお節介を焼かれてしまう(みちるはこの時点で、ゆりあが恋をしていることにおそらく勘づいていた。本当に油断ならない……)。

優弥はどこでゆりあに惹かれたのか

 2度目に外で会った優弥は子連れではなく一人だった。彼はファミレスに入ると、息子はきょう、明日と妻の家に預けてきたと伝える。刺繍を教えるに際しても、ゆりあの向かい側ではなく隣りに座り、グイグイ体を寄せてくる。何やら先日とは雰囲気が違う。さらに刺繍の個人授業が終わり、きょうはこれで……というところで、優弥のほうから飲みに誘ってきた。

 というわけで店を変えて、ビールジョッキを交わす二人。ゆりあからすれば久々の家を離れて、羽を伸ばせるひとときだ。優弥も酒も手伝って調子づいたのか、スマホで妻の写真を見せてくれる。意外にも恰幅がよく(失礼!)夫の尻を叩いてくれそうなタイプであった(ちなみに妻に扮していたのは、お笑いコンビ・マリーマリーのえびちゃんである)。

 写真を見せてから彼がふと、これを撮ったときは平和だったのが「たった3年でこんなんになっちゃってさー」としみじみ言うので、ゆりあも思わず「幸せにしてやるのに」と口走ってしまう。瞬間、表情が固まる優弥。ゆりあはそれに気づくや慌てて「あ……ほら、私、息子がほしかったんだよねー」と優弥を自分の息子のように見ていたのだとごまかす。彼も「びっくりしたー、告られたかと思った」と笑いながら返す。

 店を出て、二人で写真を撮るうち、酔った彼の落としたスマホをすかさずゆりあがキャッチするが、彼女も酔っているせいかすぐには立ち上がれない。そこで優弥が手を差し伸べて引っ張り上げると、いきなりハグをする。そのタイミングでゆりあに電話がかかってきたので一旦は離れるも、優弥は今度はキスしてきた。しかも2回も! ここぞとばかりに流れた「これは愛? それとも呪い?」という矢井田瞳の主題歌の詞が見事にハマる。

 ゆりあは驚いて優弥を思わず突き飛ばし、「こんなのやだ」「私、毎日しんどくて、さみしいから、何か楽しいことがほしくてきょうもこうやって出てきちゃったけど、あんなこと言っちゃったから、遊ぶのにちょうどいいと思ったかもしれないけど、さみしいだけの慰め合いみたいなのだったらいらないから!」ときっぱり伝える。しかし、彼は「何で遊ぶのにちょうどいいとか、慰め合いとか決めつけんの?……俺、きょう先生に会いたいから来たんだけど」と告白したかと思うと、そのまま立ち去っていった。

 それにしても一体、優弥はどの時点でゆりあに心が傾いていったのだろうか。刺繍をやってみたいというのは純粋な思いだったのだろうが、ゆりあと親しくなりたいという気持ちは何となくあったはずだ。スイッチが入ったのは、最初に息子を連れて会ったときかもしれない。このときゆりあの子供との接し方を見て、彼はだんだん彼女に惹かれていったのではないか。

 とはいえ、優弥は、ゆりあの夫が寝たきりであることは知っているものの、彼女が夫の浮気相手であるみちる親子や稟久(鈴鹿央士)の面倒まで見ようとしていることはまだ知らない。そんなカオスと化したゆりあの家を、吾良の目が開いたので往診に来た主治医の有香(志田未来)は何となく不審そうに見ていたし、いつもはふてぶてしい小姑の志生里(宮澤エマ)も久々に顔を出したかと思えば、あきれて早々に退散してしまったほどである。ゆりあの背負ったものの大きさを知ったとき、優弥はどんな反応を示すのだろうか。そのときこそ彼の本気度があきらかになるはずだ。

「いま、私は女の子だ……」

 当のゆりあの今後の動きも気になるところである。ラストで「いま、私は女の子だ……」という彼女の心のセリフがあったが、果たしてその気持ちを抑えることができるのか。そういえば、彼女は今回、姉の蘭(吉瀬美智子)から、「あんな家、旦那と愛人どもにくれてやって、さっさと出ちゃいなよ」「あんたも男つくって、よろしくやんなよ」などと言われていた。それと同時に、大工だった父親(長田庄平)がかつて、若い女性と浮気していたという衝撃の事実を知らされる。真面目だった父は、相手との関係も遊びでは済ますことができなかったらしい。そんな父に対し、母(安藤聖)は家ではいつもイライラしていたという。何事も本気になるタチの父と、家族のために犠牲になっていた母と、おそらくゆりあはその両方の性格を引き継いでいる。ひょっとすると、このときの姉の言葉が、優弥との今後を決断する引き金になるのだろうか。

 今回は、稟久に目立った出番がなかった。せいぜい、みちるの長女・まに(白山乃愛)がたまたまバレエのDVDを見つけたとき、彼もゆりあもバレエ経験者とわかり、しばし盛り上がったぐらいだ。しかし、4話は彼の母親が登場するという。演じるのは、激しやすい人物に扮したら鬼気迫るものがある麻生祐未とあって、場を思い切りかき乱してくれそうである。

→「ゆりあ先生の赤い糸」のレビュー―を読む

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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