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「病院の待合室から母の姿が消えた!」高次脳機能障害の母の通院介助にまつわる悩みと対処法

 高次脳機能障害の母を幼い頃からケアしているたろべえさんこと、高橋唯さん。母の通院に付き添っているのだが、あるとき母の姿が病院から見えなくなって――。たろべえさんが直面している通院介助の悩みとは。介護やケアが必要な人の通院介助には、さまざまな問題がありそうだ。どんな対策があるのだろうか?

文/たろべえ(高橋唯)さん

「たろべえ」の名で、ケアラーとしての体験をもとにブログやSNSなどで情報を発信。本名は高橋唯(高ははしごだか)。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。ヤングケアラーに関する講演や活動も積極的に行うほか、著書『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。 https://ameblo.jp/tarobee1515/

母の通院介助「待合室で母の姿が見当たらない」

 先日、びっくりしたことがあった。

 2、3か月に1度、母は血圧の薬をもらうために通院している。

 母の通う病院では、道路を挟んで向かい側の薬局に処方箋を持って行って薬を受け取る仕組みになっている。母に道路を渡らせるのは大変なので、私だけが薬局に行って薬を受け取り、その間、母には病院の待合室で待ってもらっている。

 この日も同じように、母を病院に残して私だけ薬局に行った。いつもより混んでいて時間がかかったが、薬をもらって病院に戻ると、待合室に母の姿が見当たらない。トイレにいるのかも?と探しに行ったが、見つからない。

 病院内をぐるっと1周したがどこにもいない。

 受付のスタッフに「杖をついている女性、いませんでしたか?」と聞いてみた。

 すると「ここから1番近いタクシーを呼んでほしいと言われたので、お呼びしました。さっき着いたので、もう帰られてると思いますよ」とのこと。

 ――えっ?なぜ?母には財布も家の鍵も持たせていないのに?

 急いで家に帰ると、家の前にタクシーが停まっていて、母が玄関の前で立っていた。すぐにタクシーの運転手に謝ってお金を払い、母にどうしてひとりで帰ってしまったのか聞くと、

「たろべえが先に帰ってしまったと思ったから」とのこと。

 もう3年以上同じ病院に通院しているが、こんなことは初めてだったのでとてもびっくりした。

母の病院の付き添いにまつわる困ったこと

 私が子どもの頃は父が母の通院に付き添っていた。しかし、私が運転免許を取得してからは私が母の通院に付き添うことが多くなった。

 私ひとりでもやってやれなくはないが、もうひとり母のことを見ていてくれる人がいれば楽なのに…といつも思う。

・母が出かける準備が大変

 通院介助は出かける前から大変だ。

 母はいろいろな物をカバンいっぱいに持っていこうとする。通院には私が運転する車で行っているが、母は後部座席でカバンの中身を広げて車内に落としてしまったり、財布や鍵をどこかになくしてきたりするので、通院に必要な物だけを持っていくように説得するが、大抵は「全部必要なのに!」と怒りだしてしまう。

 タクシーで帰ってしまった日も母は病院にいろいろと持っていこうとしていた。

「病院ではなにも使わないよ。必要なものは私が持っているから、お母さんは荷物を置いていって」と話すと、珍しく納得して、カバンを私の車の中に置いて、母は手ぶらで病院に行った。

 タクシーを呼んだことについて 、

「鍵を持っていないから家に入れないし、財布もないからお金も払えないのに、どうするつもりだったの?」と聞いたら、

「たろべえが家にいるから鍵は開いていると思ったし、お金もたろべえが払ってくれると思った」と言っていた。

・私が運転中の母の行動が心配

 車に乗っているとき、母は勝手にシートベルトを外してしまうこともあるので運転中も気が気ではない。同じことを何度も聞いてくるので、相手をしながら運転していることでも気が散ってしまい、やばい、運転に集中しなくちゃ!とヒヤヒヤする。

・駐車に手間取ることもある

 病院が混んでいると近くの駐車場に車を停められず、母だけ病院前に降ろして私は遠くの駐車場に車を停めに行くこともあるが、母をひとりにしておくことは不安だ。

 かと言って、病院内まで私もついて行って、スタッフに母を見ておいてもらえるよう頼みに行きたくても、その間に車が病院前の道路に停めっぱなしになってしまう。狭い道で、かつ通行量が多いので、早く車をどかさないと迷惑になる。

・車内で母がひとりになる時間がある

 病院から駐車場に行くまで、病院の車いすを借りたこともあるが、車いすを返す時に母は車内でひとりになってしまう。母は車内のスイッチをいじってしまうこともあるので、なるべく車内で待たせたくない。

通院介助の困りごと、対処法はあるのだろうか?

 現在の通院の頻度は他の病院と合わせても月1回程度だが、一時期は毎週通院していた。さすがに毎週仕事を休んで母についていくのは大変だと思ったので、通院介助の福祉サービスが使えないか市に問い合わせた。

・通院介助サービスを利用する難しさ

 母は現在、障害福祉サービスを利用している。障害福祉サービスの中にも通院に付き添ってくれるサービスはあるが、母の場合は条件を満たしていないため使えないとのこと。

 そこで、民間の通院介助サービスを利用することをすすめられた。

 民間の介護サービスは、事業所にもよるが1時間3000円が目安のようだ。残念ながら我が家には毎回の通院で利用できるだけの金銭的な余裕がないので利用を断念した。

→介護保険外サービスは1時間3000円が目安 その種類と賢い利用方法「模様替え、買い物代行、病院の介添えも」

・介護タクシー(福祉タクシー)は病院内まで付き添えない

 市で運営している福祉タクシーの利用も検討したが、こちらも利用できなかった。

 私の住んでいる市では「障害者手帳による自動車税の減免を受けていない人」が福祉タクシーの利用対象者になる。母自身は車の運転はしないが「障害のある家族の移動のために使う自動車」ということで、我が家の車は自動車税の減免を受けているので、母は福祉タクシーの利用対象者にはあてはまらないのだ。

 たしかに母の移動のための車があるのだから、福祉タクシーが使えないのはごもっともだ。とはいえ、私だっていつでも母の専属ドライバーになれるわけではなく、仕事にも行かなくてはならないのに、とも正直思う。

 仮に福祉タクシーが利用できたとしても、基本的には病院内での介助はお願いできないということから、母が福祉タクシーだけを利用して通院するのは難しそうだ。

 そもそも、通院では普段の様子を医師に伝えたり、医師の話を聞いたりする必要がある。本人にそれが難しい以上、やはり毎日様子を見ている家族が付き添う必要がある場面が多いのだ。

→介護タクシーとは「料金は?家族も乗れる?介護保険は使える?」|介護の疑問を専門家に直撃!

母の通院介助にまつわる医師のアドバイス「メモの活用」

 冒頭のひとりでタクシーで帰ってしまった話を物忘れ外来の医師に話したところ、

「娘さんが薬局に行っている間、お母さんに待っていてもらうようにメモを書いて、それを持っていてもらいましょう」とアドバイスを受けた。

 メモ以外にも、自分が母の近くを離れるときは病院の職員に母を見ていてもらえるようお願いしたり、車いすを購入したり、ときには民間の通院サービスの利用も検討しながら工夫していくしかなさそうだ。

→たろべえさんのほかの記事を読む

ヤングケアラーに関する基本情報

言葉の意味や相談窓口はこちら!

・ヤングケアラーとは

 日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。

・ヤングケアラーの定義

『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。

・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている

・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている

・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている

・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている

・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている

・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている

・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している

・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている

・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている

・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている

・相談窓口

・厚生労働省「子どもが子どもでいられる街に。」

児童相談所の無料電話:0120-189-783

https://www.mhlw.go.jp/young-carer/

■文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310

https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm

■法務省「子供の人権110番」:0120-007-110

https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html

■東京都ヤングアラー相談支援等補助事業 LINEで相談ができる「けあバナ」
運営:一般社団法人ケアラーワークス

https://lin.ee/C5zlydz

●母の「障害福祉サービス」区分変更調査に立ち会った元ヤングケアラーが戸惑いと罪悪感を感じた理由

●ヤングケアラーの現状と課題 当事者と専門家の対談で見えてきた「今できる支援」とは

●「過去を捉え直すことで意味づけができる」思考をハッピーに変える術 看護師が30年にわたる母のケア経験から得た気づき

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