先進的な取り組みをしている介護付有料老人ホーム【まとめ】
介護の質向上はもちろん、人手不足や入居者の獲得競争など、様々な要因を背景に新しい技術の導入に積極的な高齢者向け施設も増えている。
オープン間近の話題の施設や評判の高いホームなど、カテゴリーを問わず高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップし、実際に訪問して詳細にレポートしている「注目施設ウォッチング」シリーズ、今回は「危険検知機能を併せ持ったシステムを居室に導入」「スマートフォン1台で入居者の様子などを管理」「体圧分散計も使用したスリープマネジメント」など先進的な取り組みを行っている介護付有料老人ホームをピックアップしてご紹介していく。
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危険検知機能を併せ持ったシステムを居室に導入している「カーサプラチナみなとみらい」
高齢者の一人暮らしで心配なことの1つが、室内での転倒や体調の変化を誰にも連絡できず、状況が悪化してしまうことだ。すぐに他者が対応していれば問題ないようなことでも、時間が経ってしまうと、その後の生活に影響を及ぼすような状態になってしまう場合もある。離れて住む家族は様子を四六時中確認できないので、心配なことのひとつだろう。
2018年4月にオープンした「カーサプラチナみなとみらい」では、緊急通報装置に加えて、危険検知機能を併せ持ったシステムを居室に導入している。天井に取り付けられたセンサーが、入居者の起床、離床、転倒やベッドからの転落などを検知し、異変があればスタッフが持つスマートフォンに情報を送信してくれる。スタッフは映像でその様子を確認できるので、異変があればすぐに駆けつけられるという。
プライバシーへの配慮がされていることも、このシステムのポイント。危険を検知した場合や入居者が緊急通報した場合のみ、スタッフが持つスマートフォンに映像が送信される。スタッフがスマートフォンを操作しても居室内を見ることはできないようになっているという。どのような行動を検知するのかは、入居者の状態に合わせて、相談をして個別に設定するそうだ。
いざという時の安心が担保されている居室には、介護用ベッドや車椅子対応の洗面化粧台などの設備も整っている。床暖房やクローゼット、エアコンも備え付けられているので、快適に過ごせそうだ。2人部屋にはシャワーやユニットバスもあり、入居者のうち1人は自立でも住むことが可能とのこと。
上質な暮らしのためにハードとソフトの両面からサポートしてくれる「カーサプラチナみなとみらい」。システムに頼るだけではなく、人にしかできない部分も重視している。1ヶ月に1回、一人ひとりの入居者の様子を書いた「プラチナレポート」を家族に送っている。”プラチナサポート”と銘打ったこのような細やかな心配りで、入居者の日々の暮らしを支えている。
→看護師が24時間、理学療法士も常勤!きめ細やかな対応をする介護付有料老人ホーム<前編>
→見守りシステム付き居室の横浜みなとみらい複合施設にある介護付有料老人ホーム<後編>
夜間の転倒事故がシステム導入前の半分程度に減少した「アズハイム練馬ガーデン」
「株式会社アズパートナ―ズ」は2017年、介護におけるICT/IoTシステム「EGAO link(エガオリンク)」を導入した。同システムは、センサーを用いた見守り支援システムとナースコール、記録管理システムを連動させ、入居者の状態把握やコール対応、記録入力などをスタッフに配布したスマートフォン1台で行えるようにした、業界初のシステムだ。先行して導入した「アズハイム町田」では、施設全体で1日あたり約17時間の労働時間を減らすことができたという。
「EGAO link」を構成する機能の1つに「眠りSCAN」というセンサーがある。これにより、入居者の睡眠・覚醒状態に加え、ベッドでの起き上がり、離床、そして1分間の呼吸・脈拍数まで感知し、それらをスマートフォン、パソコン画面でリアルタイムに把握できる。そのため、入居者からのアクションが起きてから行動するのではなく、先手を打ってアプローチできるようになったという。その結果、アズハイム町田では1日あたりのナースコールが90回から25回に減少するという効果が出ているそうだ。
「アズハイム練馬ガーデン」にもその「EGAO link」が導入されている。ホーム長の小川恵子さんに話をうかがった。
「夜間の決まった時間に『巡視』をするのですが、扉を開ける音などでご入居者の眠りを妨げてしまうことがありました。『EGAO link』を導入したことで、睡眠状態が一目で分かりますので、熟睡されている方を無理に起こさずに安否確認ができるようになりました」(小川さん)
実際にベッドで寝起きをしてもらい、眠りSCANのセンサーが感知した情報がどのようにスマートフォンに送られるのかを目の前で見せてもらった。ベッドに寝た状態から体を起こすと、スマートフォンにリアルタイムで情報が共有され、イラストで状態を視覚的に確認できる。各自が常に携帯しているスマートフォンにコール通知されるので、見落としの心配もない。コール通知の設定は、各入居者の状態に合わせて、「起き上がり」や「離床」、「通知不要」など個別設定できるという。
「熟睡している」「ベッドの上で体を起こしている」などの様子も分かるので、スタッフは精神的にも余裕を持って対処ができる。また、入居者の様子を正確に把握できるので、対応が後手に回ることなく行えるようになったという。ちなみにアズハイム町田では、夜間の転倒事故がシステム導入前の半分程度に減少するなどの効果が出ているそうだ。
こうした業務効率化によって、機能訓練指導員は入居者ごとの生活リハビリ方法をスタッフに指導する時間をより多く確保できるようになり、スタッフもそれを実践する時間、回数を増やすことができた。アズハイム町田では、リハビリの実施回数が導入前と比べて3倍以上に増えているという。例えば、今までは食事場所に移動する際に歩くと時間がかかるため、車椅子を利用していたのを、生活リハビリの一環としてゆっくり歩くようにすることも可能に──こういった積み重ねが、生活の質を向上させていくことにつながる。
→最新の介護ICT/IoTシステムを導入した介護付有料老人ホーム<前編>
→最新の介護ICT/IoTシステムを導入した介護付有料老人ホーム<後編>
体圧分散計も使用したスリープマネジメントを導入している「ソナーレ浦和」
「ソナーレ浦和」は入居者の睡眠にこだわっており、午前中に散歩をすることや夕方のレクリエーションなどにも積極的に取り組んでいる。日中の生活サイクルを整えることで、睡眠の質が向上するのだという。また、こうした「スリープマネジメント」のために、ベッドのマットレス調整の考え方など細部に至るまで、スタッフが日々議論をしているのだそう。つい先日も「ソナーレ祖師ヶ谷大蔵」の作業療法士が「ソナーレ浦和」を訪れ、これまでの実績をもとに、情報交換をしたという。
「当社のご用意しているマットレスは3層構造です。さらに、1番上の階層は10個に分割されており、硬さの違う4種類を組み合わせてご利用いただけます。そのため、お一人おひとりに合わせてカスタマイズが可能なので、両ホームの作業療法士と連携し、むくみの強い方にはこういう並べ方をするといいなど、情報交換をしています」(副ホーム長兼ライフマネージャーの豊島隆史さん)
「ソナーレ浦和」では体圧分散計を使って、入居者がベッドに寝たときにどのような負担がかかっているのかを入居時にチェックしている。身体の一部分に過剰な圧力がかかっていると眠りに影響が出るので、3層構造のマットレスの硬さを細かく調整して、提案するとのこと。仰向けで寝る人、横向きで寝る人などそれぞれの寝方に合わせ、身体状態の変化にも気を配って、マットレスの硬さを調整してくれるのだ。
ベッドはドイツのフェルカー社と日本製のパラマウントベッド社、2種類を導入。加えて、睡眠計を用いた眠りの「見える化」にも取り組んでいる。経験や勘に頼るのではなく、医学的、科学的根拠に基づいたスリープマネジメントが推進されているのだ。
睡眠へのこだわりはお風呂の時間にも。お風呂の時間が決められている高齢者向け施設が多いが、ここでは入居者の希望にできるだけ沿うようにしている。また、身体状態に関わらず大浴場での入浴ができるように、リフトを導入しているほか、大浴場には大画面の液晶モニターがあり、露天風呂感覚で様々な景色の映像を見ながら入浴を楽しめる。
ここまで睡眠にこだわるのには、理由がある。睡眠を整えると、日々の生活を健やかに過ごすことにつながる。そして、日中の生活リズムが整うと、夜に向けてリラックスした環境を作れるので、睡眠の質が向上する。昼と夜の過ごし方には相乗効果があるのだ。睡眠は高齢者の生活に大きな影響を及ぼす。昼夜逆転による夜間徘徊の防止、生活習慣病の予防、うつ病予防、生活意欲向上、脳の活性化と認知症予防、コミュニケーション意欲の向上による社会性維持…など、多岐にわたることが、睡眠の質を向上させる効果として期待される。
→睡眠と食、生活の継続性にこだわった介護付有料老人ホーム<前編>
→睡眠と食、生活の継続性にこだわった介護付有料老人ホーム<後編>
いかがだっただろうか。それぞれの施設が実施している先進的な取り組みからは、入居者に提供したサービスのポリシーが明確に伝わってくる。丁寧に見ていくと施設選びの情報の一つとして活用できそうだ。
撮影/津野貴生
※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。
※過去の記事を元に再構成しています。サービス内容等が変わっていることもありますので、詳細については各施設にお問合せください。