猫が母になつきません 第368話「ふおん_その2」
施設に近い認知症外来を受診したのは入所から2週間後のことでした。精神科や心療内科などがあるその地域では認知医療の中心になっている病院でした。施設から一応こちらで認知症の検査をしておきましょうということで受診することになったのです。《長谷川式》と言われる簡単な質問をしたり、問題を出したり、記憶させたりする一般的な検査をしてMRIを撮りしました。それらは初めてではなかったので結果も意外なものではありませんでした。母は《アルツハイマー型認知症》です。脳の萎縮が進み、症状も徐々に進行します。診察の結果ここで最初に処方された薬は3種類。《向精神薬》といわれるもの2種類と寝つきをよくするための眠剤1種類でした。10日ほど経ってまた受診したときに薬は4種類に増え、最初にもらったのと同じ薬の用量は倍に増やされました。母の《不穏》がおさまらないということでその10日後にまた母と施設の人だけで受診し、頓服といわれる《不穏時》にだけ飲む薬をもらい、次の週に強い向精神薬がさらに追加されていました。車椅子に座った母を見て私はとても驚きましたが、母がふらふらで立てないのも当然でした。どの薬も「ふらつき」や「めまい」の副作用がある薬です。《傾眠(けいみん)》といわれるうとうとするような軽い意識障害も出ていて、母はそういう症状に抗って「私なんか変よね」と一生懸命話そうとしたり、車椅子から立ち上がろうとしたりしました。自分はどうしちゃったんだろうというとまどいと不安が伝わって来ました。無理もない…ついこの前まで走れていたのです。母に与えられていた薬について、私はあまりにも無知でした。つづく
【関連の回】
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。