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暮らし

大掃除のかがみ姿勢、飲酒、インフルエンザ…心臓発作はこの季節要注意!天皇陛下執刀医が解説

 がんとともに一向に減少の兆しが見えない心臓病。平均寿命が延び、がんと心臓病はこれからますます増えていくとみられている。しかも、心臓病が増えているのは高齢者だけではなく、昨今、20~30代の若い世代にも増えているため注意が必要だ。

 寒さが増すこれからの季節は、心臓発作を発症する可能性が高くなる。そこで、『100年を生きる 心臓との付き合い方』(セブン&アイ出版)を上梓した天皇陛下執刀医で順天堂医院院長の天野篤医師に、寒い季節に心臓を守る方法について聞いた。

心臓発作を招くヒートショック・かがみ姿勢・脱水

 心臓に負担がかかる寒い季節、ヒートショックに注意することはもちろんだが、「前かがみ」「しゃがむ」「脱水」などにも注意をすべき、と天野さんは語る。

「寒くなると、体の熱を逃がさないように血管が収縮するため、血圧が上昇します。心臓発作は、早朝や起床直後に起こりやすいというデータがあります。早朝の外の掃除や運動を習慣としている人は、血圧の急上昇による心臓発作に気をつけましょう。温かい室内から外に出るときにはしっかりと厚着をし、急に体を動かしたり、重い物を持ちあげるなど力を入れて踏ん張るような行動を避けるようにしてください」(天野さん、以下「」同)

 入浴時は特に、ヒートショックによる心臓発作で突然死が起きやすい状況として注意喚起されている。寒い脱衣所から急に熱い湯船につかり、風呂場を出て再び寒い脱衣所に出ると、急激な血圧の上下動を繰り返して心臓に大きな負担がかかる。脱衣所に暖房器具を置いて気温の変化を一定にしたり、入浴前には浴室をシャワーでしっかり暖める、湯船に入る前に手足にかけ湯をする、などを心がけるといいという。

大掃除中、知らず知らず心臓に負担が…

 年末の大掃除にも要注意。拭き掃除のときに冷たい水に触れたり、かがみながら掃除をするなど、普段意識をしていないが心臓に負担をかける動作は意外とある。

「冷たい水に触れるだけでも心臓に負担がかかります。拭き掃除など、前かがみのしゃがみこむ姿勢も、心臓が圧迫されて呼吸がしづらくなり、血圧の変化が強く出るので避けましょう。実は“心臓病患者が一番やってはいけない姿勢”といわれているほどです」

 冬は乾燥する上に、暖房器具を長時間使うことによる脱水にも注意が必要だ。

「高齢者の心臓は脱水にかなり弱いので、こまめに水分補給をするようにしてください。特に、年末年始はお酒を飲む機会も増えますから、脱水状態になりやすい状況が揃います。寒さ、暴飲暴食、夜更かし、飲酒…と、冬は心臓に負担かかる状況が多い季節ですので、今から心臓の“冬支度”を始めましょう。お酒による心臓への影響は、飲み過ぎて蓄積しても悪いですし、適度に飲むことも良いので難しいところですが、ほどほどの飲酒なら良いでしょう」

冬の便秘が心臓に悪影響

 心臓疾患を抱える人や、高血圧、高血糖、高LDLコレステロールといった心臓疾患の危険因子を指摘されている人は、冬の「便秘」にも注意を。

「乾燥によって体内の水分が減ると、便通も悪くなります。そんな状態でトイレでいきむと、血圧が高まって心臓に大きな負担がかかります。便秘によるいきむ行為は、想像以上に心臓にダメージを与えますから、余計な負担をかけないためにも、食物繊維や乳酸菌が豊富な発酵食品を摂って、まず便秘を予防しましょう」

インフルエンザや花粉症は心臓病の大敵

 これからインフルエンザが流行する季節を迎えるが、心臓病を持っている人にとって、インフルエンザはときに命にかかわる危険があるので注意が必要だという。

「肺炎などを併発して重症化するリスクが高いという報告や、心臓発作の誘発率を倍増させるというデータもありますから、心臓病を持っている人や高齢の方は気をつけてほしいですね。インフルエンザのようなウイルス性疾患は、血圧や心拍数をアップさせるので、心臓に大きな負担がかかります。それまで心臓にトラブルがなくても、急に心不全や心房細動を起こして、最悪の場合は死に至るケースもある病気です。ただの風邪だと軽く考えていたら、実は心筋症で、そのまま放置していたために心不全を起こして亡くなってしまった方もいます。

 風邪をひいてから動悸や息切れなどの症状があれば、早い段階で循環器内科を受診することをおすすめします。心臓にトラブルがある人は心臓そのものだけでなく、治療にも悪影響を及ぼしますから、特にインフルエンザは徹底予防を心がけてください」

 花粉症も、心臓に大きな負担をかける。

「花粉症によって引き起こされる呼吸のしづらさにより、心臓から肺に流れる血流が制限され、不整脈につながることにもなります。また、花粉症の患者さんは睡眠時無呼吸症候群にもかかりやすくなり、そこから狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの重大な合併症や高血圧、心房細動が起こりやすくなります。また、花粉症の薬の多くは、全身の血管を収縮させるため、結果として血圧の上昇を招きます。薬との飲み合わせによる作用で、重度の不整脈で死亡する事例も起きていますので、心臓疾患を抱えている人は、薬の飲み合わせにも特に注意してください」

 直接的に心臓と関わらなくても、実は心臓に大きなダメージを与えるものは意外と多い。この長寿時代を健康に生き抜くためにも、早い内から心臓を守る知識を蓄え、実践しよう。

天皇陛下執刀医で順天堂医院院長の天野篤医師

撮影/疋田千里

■天野篤(あまの・あつし)
1955年生まれ。埼玉県出身。心臓血管外科医。順天堂大学医学部附属順天堂医院院長。日本大学医学部卒業後、医師国家試験合格。関東逓信病院(現・NTT東日本関東病院)、亀田総合病院、新東京病院などを経て、2002年、順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月、東京大学医学部附属病院で行われた天皇陛下の心臓手術(冠動脈バイパス手術)を執刀。2016年4月より、順天堂大学医学部附属順天堂医院院長。心臓を動かした状態で行う「オフポンプ術」の第一人者で、これまでに8000例を超える手術を執刀し、98%以上の成功率を誇る。


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