たまに来て親に贅沢をさせる長男夫婦にモヤモヤした気持ちを抱える女性を毒蝮三太夫が励ます|「マムちゃんの毒入り相談室」第46回
「親孝行」の形は人それぞれである。親にたっぷり贅沢をさせてあげる長男夫婦と、同じようにはできない次男夫婦の自分たち。しかも、長男夫婦はこちらにも細かい気配りをしてくれる“いい人”である。つい比べては複雑な気持ちになってしまう相談者に、マムシさんは「張り合おうなんて思っちゃダメだ」と励ましの喝を入れる。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「長男夫婦と自分たちを比べて引け目を感じてしまう」
いきなりだけど、この「相談室」を元にした本が出ることになった。5月18日発売で、タイトルは『70歳からの人生相談』(文春新書)だ。今までの連載をベースにした相談だけじゃなくて、70歳以上からの相談をたくさん加えてある。70歳以上はもちろん、70歳以上の親を持つ子ども世代にも、ぜひ読んでほしい。本が出るまでもう少し待っててくれ。
さて、今回の悩める子羊は、パートで働いている55歳の女性だ。なるほど、義兄さん夫婦と自分たち夫婦の「格差」にモヤモヤしているわけか。
「夫は次男で、夫の両親は車で15分くらいの距離に住んでいて、しょっちゅう様子を見に行っています。義父母は、私のことも実の娘のように接してくれます。でも、遠くに住んでいてたまに顔を出す長男夫婦が来ると、それはそれは嬉しそうです。
実際、長男夫婦はとてもいい人たちで、『なかなか来られないから来たときくらいは……』と言って、鰻とかお寿司とか、義父母の好きなものを持ってきたり、外食に連れて行ったり、お小遣いも渡しているようです。
我が家は大学生の息子もいて、私もパートをしながら生活を支えている状況なので、義父母に贅沢をさせてあげる余裕はありません。長男の奥さんは気さくで親しみやすいタイプ、私にもいつも感謝とねぎらいの言葉をかけてくれます。わが家にもお土産をたくさん持ってきてくれます。要するに非の打ち所がないのです。
でも、すごく嬉しそうにしている義父母をみると、引け目というか、ちょっと複雑な気持ちになってしまいます。こんな自分が嫌だし情けないのですが、それでもやはりうらやむ気持ちがなくなりません。心の狭い私に渇を入れてください」
回答:「親孝行のやり方はいろいろある。張り合わなくていいだよ。あなたのしている親孝行に胸を張ってほしい」
けっこうな話じゃない! 長男夫婦がこうやって両親を喜ばせてくれたら、自分たちは大助かりだ。長男夫婦はゆとりがあるから、うまいもんを食わせたり小遣いを渡したりしてる。張り合おうなんて思う必要はない。甘えるだけ甘えればいいよ。
談志もよく言ってた。「あげる喜びってのがあるんだぞ」って。もらう喜びもあるけど、あげる喜びもある。お義兄さん夫婦は、旦那の両親にいろんなことをしてあげてることで喜びを感じているんだから、こっちが申し訳なく思わなくていいし引け目を感じる必要もない。向こうは「自分たちばっかり損してる」なんて、これっぽっちも思っちゃいないよ。
「人間はみんな平等だ」って言うけど、それは尊厳とか心持ちとかの話だ。金があるとかないとか健康だとかそうでもないとか、人それぞれ状況が違う。「対等」や「公平」にこだわる必要はない。収入が多い相手と同じことをしようとしたり、同じようにしなきゃいけないなんて思ったら、こっちばっかり苦しむことになる。それこそ不公平だ。
親孝行のやり方は、いろいろあっていいんだよ。鰻や寿司は食いに連れて行ってやれなくても、家で鍋を囲んで仲良くつつくことはできる。親としては、どっちも同じぐらい嬉しいはずだ。感謝する気持ちも同じだ。人間は他人と張り合うことがいちばん辛いし、いちばん虚しい。身の丈に合わないことをしても、親はけっして喜ばないよ。
たとえば、長男の嫁さんがあなたに嫌味を言ってくるタイプだったら、そりゃ心穏やかじゃいられない。だけど、そうじゃないんだろ。あなたが勝手に引け目をふくらませて、長男夫婦に「ウチは何もできないから申し訳なくて……」なんて言ったら、長男夫婦だって遠慮しなきゃいけなくなる。ご両親にしてみたら、鰻や寿司の回数が減ったり小遣いが減ったりして、とんだとばっちりだ。
あなたは、うらやんでしまう自分が嫌で情けないと言ってる。逆恨みして相手にマイナスの気持ちを抱くんじゃなくて、自分が変わろうとしているのは立派だよ。できるようで、なかなかできない。あなたを苦しめている諸悪の根源は「対抗意識」だ。「お義兄さんたちと同じことはできない」という前提で、自分たちにできることをすればいい。
近くにいてしょっちゅう様子を見に行くのだって、価値のある親孝行だ。金には換算できないよ。お義兄さんたちは「弟夫婦にばかりやらせて申し訳ない」って、引け目を感じているかもしれない。きっと感じているから、贅沢な食事で埋め合わせようとしてるんじゃないかな。だから、あなたも旦那も堂々と胸を張っていればいいんだよ。
ここは役割分担だ。長男夫婦に向かって、時々「お義父さんもお義母さんも、お義兄さんたちが来るとすごく嬉しそうで」とか何とか上手くおだてて、向こうにしかできない金のかかる親孝行をどんどんさせよう。こっちはしょっちゅう顔を出したり、食事の準備や掃除を手伝ったり、金のかからない親孝行をすればいい。兄夫婦と弟夫婦で力を合わせるわけだ。ご両親としては、こんな幸せなことはない。これからもみんなで仲良くやってくれ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。87歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が5月18日に発売。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。1月26日に最新刊『無理をしない快感‐「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。