「息子が新居に呼んでくれないのは、妻の考えなのか」と嘆く女性に毒蝮三太夫がエールを送る|「マムちゃんの毒入り相談室」第39回
たとえ親子でも、相手の本当の気持ちはなかなかわからない。「長男夫婦が家を買って半年になるけど、一度も呼んでくれない」と嘆く82歳の女性。どうして呼んでくれないのか、それは妻の考えなのかなどと考えて、モヤモヤした日々が続いている。「憶測で怒ってても仕方ない。息子に気持ちを伝えよう」とマムシさんが背中を押す。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「長男夫婦が家を買ったが一度も見せてくれない」
悲しいニュースが続くね。安倍元首相、エリザベス女王、六代目三遊亭円楽さん、ザ・ドリフターズの仲本工事さん……。俺も『笑点』の初期に座布団運びをしてたから、円楽さんとは特番とかでいっしょになったことがある。頭のいい人だったし、落語に対する熱い想いを持った人だった。番組への復帰を楽しみにしてたんだけどな。
仲本さんの訃報を聞いたときは、50年以上前の記憶が蘇ってきた。まだ『8時だョ!全員集合』が始まる前の話だけど、売り出し中のドリフが人気番組の『大正テレビ寄席』に出てたことがある。俺も談志に言われて何度か出たんだけど、ドリフと同じ日ではなかったかな。テレビで見てて「面白いグループが出てきたな」と思ったね。
人間には必ず寿命があるんだけど、悔いのない寿命もあれば、悔いのある寿命もある。それを運命というのかなあ。じゃあ、今回の相談に行ってみようか。
「長男54歳が、私の家から車で1時間半のところに家を購入して半年になります。お祝いを持っていきたいと言ったら、片づいていないことを理由に断られました。いつごろ呼んでくれるのかの回答もありません。私は主人を亡くして三年になります。長男は引っ越し前にはもちろん招待すると言っていましたので、妻の考えのようです。訪問しても長居をする気はありません。後にも先にも一度だけの訪問と思っています。
こうして書いていて、少し血圧が上がってきました。この件は忘れたいのですが、代わりに打ち込むことも今は見つかりません。忘れて晴れやかに暮らしたいです。一人になりまだ辛い日々です。ご回答をお願いいたします」
回答:「息子に自分の気持ちをはっきり伝えよう。憶測は誤解の元だよ」
親としては息子が建てた家を見たいと思うのは当然だし、お祝いだってしてあげたいよね。半年たっても一度も呼んでくれないっていうのは、たしかにちょっと不自然だ。
あなたは「妻の考えのようです」と書いてるけど、前からお嫁さんと折り合いが悪かったのかな。「長居をする気はない」とか「後にも先にも一度だけ」とか、最初からずいぶんよそよそしいよね。妙に意地を張ってるようにも見える。お嫁さんだけじゃなくて、息子ともいろいろあったのかな。
いや、勝手に憶測して申し訳ない。「ぜんぜん違います」って言われるかもね。そう、憶測っていうのは誤解の元だし、悪いほうに悪いほうに考えがふくらんでしまう。「どうして家に呼んでくれないのかしら」って頭の中でいくら考えても、本当のところはわからない。ただムカムカしてくるだけだ。
これは息子に自分の心情をはっきり伝えたほうがいいよ。「死ぬ前にあなたが建てた家を見てみたい。お祝いも持っていきたい」って。車で1時間半もかかる距離なんだから、息子に迎えに来てもらおう。あれこれ理由をつけて来て欲しくなさそうなら、「家も見せてもらえないなんて親として情けない。もう親でもなければ子でもない」ぐらい言ってやれ。
たとえ渋々でも見せてくれるってことになったら、お嫁さんが留守の日に行くんじゃなくて、夫婦で迎えてもらおう。もしかしたら、夫婦仲がよくなくて親を呼びたくなかったのかもしれない。そんな気配を感じたら、こう言ってみよう。
「あんたたちがちゃんとやってくれないと、私も安心して冥土に行けないわ。仲良くやってちょうだい。縁あって夫婦になったんだから」
そこでふたりが反省してくれたら、子は鎹(かすがい)じゃなくて、親が鎹になれる。
もし、お嫁さんが露骨に嫌な顔をしてお茶も出さない、息子もそんな様子を見て何も言わないようなら、「もうあんたたちとは縁を切る」って伝える覚悟で行ったほうがいいね。
逆に、全部が取り越し苦労で、息子は単に面倒だから先延ばしにしてただけで、お嫁さんもちゃんと話せば「あら、意外にちゃんとしてるのね」と思う可能性だってある。どっちにしても、まずは息子に「家に行きたい」って言わないと始まらない。このまま体が動かなくなって、行きたくても行けないなんてことになったら、大きな悔いが残っちゃうよ。
「なんだ、そんなに来たかったの」とすんなり招いてくれるかもしれないし、拒否されるかもしれない。拒否されたら理由を聞いてみる。いつも言っているように、人生は納得づくで生きることが大事だ。拒否される原因が自分にあるなら、つらいけど受け止めるしかない。情のかけらもない息子だとわかったら、そんなふうに育てたのは自分なんだと思って諦めよう。あれこれ憶測して思い悩んでいるより、よっぽどスッキリするよ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。86歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。大沢悠里さんとの80代コンビによるポッドキャスト配信番組「大沢悠里と毒蝮三太夫のGG放談」も絶好調(毎週土曜日午後3時)。ストリーミングサービス「スポティファイ」で過去の回も含めて無料で楽しめる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。