「夫が定年後、無気力になりお酒ばかり飲んでいる」憂う妻に毒蝮三太夫がアドバイス|「マムちゃんの毒入り相談室」第44回
「人生100年時代」と言われる。「老後を楽しく過ごしたい」は、誰にとっても大きな目標だ。夫婦の場合、自分とパートナーとのあいだで意識や体力にギャップが生じることもある。「生きる楽しみを無くしてしまった」ように見える夫との老後に不安を抱いている56歳の女性。マムシさんがあたたかく励ましつつ、打開策を提案する。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「何ごとにも無気力になった夫。老後を楽しく過ごしたいのに」
いつの間にか俺たち夫婦も、結婚60年を超えた。60年は「ダイヤモンド婚」って言うらしいね。年齢的には「老後」だけど、おかげさまで俺をまだ必要だって言ってくれる人がいるから、こうやって仕事を続けてる。カミさんはいつも「そろそろふたりでのんびり過ごしたい」と言ってるけど、仕事してるから元気なのかもしれないしな。難しいとこだ。
「理想の老後の過ごし方」は、夫婦によって違う。ただ、片っぽが極端に元気がない状態になっちゃったら理想も何もない。今回は56歳の女性からのそういう相談だ。
「来年で70歳になる夫のことで相談です。65歳でリタイアしてすぐの頃は、昔の友達と食事会を開いたり、家のリフォームをしたりと、わりと楽しそうに過ごしていたのですが、この1~2年、すっかり老け込んで、ほとんど家で過ごし、お酒ばかり飲んでいます。娘が一人いますが、就職して地方勤務になって家を出てからは、たまにしか顔を出さなくなりました。
夫は、もともと短気な性格ということもあって、友達付き合いもうまくいかないらしく、傍から見ていると、生きる楽しみを無くしてしまった感じなのです。私は、長年会社勤めをしているため、お互い別々に過ごすことも多く、別に仲が悪いというのでもないですが、私と出かけたりすることは好まない様子です。実際誘っても、断れてばかりです。むしろ、余計なお世話と思っているみたいです。
家族としては、もっと夫が人生前向きに明るく過ごして欲しいのですが、どういう風に接したらいいかわからなくなってしまいました。今後長い老後をふたりで楽しく過ごすためには、何を心がけたらいいのでしょうか」
回答:「共通の趣味を持つとか、何か一緒にできることを探しなさい。歩み寄りも大切だよ」
うーん、こういう夫婦は多いかもしれないな。もともと年齢差が10歳以上あるから、体力面のギャップもありそうだ。でも、ダンナだって70前なんだろ。まだまだ老け込む歳じゃない。さっさと老け込まれたら、老け込むほうはいいけど家族は困っちゃうよ。
人生100年時代なんて言われてるから、これからの道のりは長い。ダンナの元気のなさを嘆きながら過ごしてたってつまんないからね。ふたりで楽しい老後を過ごすために、とりあえずは現時点でダンナよりエネルギーがあるあなたが作戦を練ってみよう。
いちばんいいのは、共通の趣味を持つことだ。ダンナは、今までにやってた趣味は何かないのかな。ゴルフでも釣りでも旅行でも何でもいい。あるんだったら、またやってみれば元気になるんじゃないか。時間はたっぷりあるんだから、好きなだけやれる。それにあなたも付き合って、一緒に楽しめばいい。
これから新しく始めたって、ぜんぜん遅くはないよ。外に出るのが好きじゃないなら、囲碁でも将棋でも、何ならテレビゲームでもいい。ふたりで一緒にやれるような趣味を探してみよう。酒は好きみたいだけど、ただ飲んでるだけだとどんどん量が増えて体によくない。ダンナと一緒に、酒に合う料理を作ってみるのはどうだ。
俺の知り合いで会社の社長だったのがいるんだけど、リタイアしたあとに料理を始めたらすっかりハマっちゃった。「こんな楽しいことはない。女だけにやらせておくなんてもったいない」なんて言ってる。料理は手先も頭も使うから、ボケ防止によさそうだ。まんまとハマってくれたら、あなたも楽ができて一石二鳥だしね。
「ええー、ダンナと同じ趣味を楽しむなんてわずらわしそう」とか「なんでダンナに合わせなきゃいけないの」と思うかもしれない。だけど、そんなこと言ってたら楽しい老後はどんどん遠ざかっていくだけだ。どんな人間関係も同じだけど、夫婦だって「譲り合い」と「歩み寄り」がないとうまくいかない。夫婦だと逆に、そのへんを疎かにしがちなんだよな。
それに夫婦がギクシャクしているときって、片方だけが100%悪いなんてことはまずない。相談にはダンナの気力のなさが問題みたいに書いてあるけど、自分にも反省すべき点がないか胸に手を当てて考えてみよう。たとえば、自分のペースでダンナを振り回すばっかりで、ダンナの話を聞いたりダンナの気持ちを考えたりするのが疎かになってるとかね。
相手のことがホトホト嫌になっているなら話は別だけど、そうじゃないなら、これからの長い老後を楽しく過ごせるように両方が努力しなきゃいけない。ここはあなたがひと肌脱いでやってくれ。落ち込んでるダンナを助けるためでもあるし、ひいては自分を助けることにもなる。ふたりで協力して、末永く仲よく楽しく暮らしてください。
毒蝮さんに、あなたの悩みや困ったこと、相談したいことをお寄せください。
※今後の記事中で、毒蝮さんがご相談にズバリ!アドバイスします。なお、ご相談内容、すべてにお答えすることはできませんことを、予めご了承ください。
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。86歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。大沢悠里さんとの80代コンビによるポッドキャスト配信番組「大沢悠里と毒蝮三太夫のGG放談」も絶好調(毎週土曜日午後3時)。ストリーミングサービス「スポティファイ」で過去の回も含めて無料で楽しめる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。『大人養成講座』『大人力検定』など著書多数。1月26日に最新刊『無理をしない快感‐「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が好評発売中。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。