「女性は痛みに強い」「恋愛すると女性ホルモンが増える」女性の健康知識の誤解を医師が解説
「秋なすは嫁に食わすな」「女心と秋の空」ほか、女性の体やメンタルについては、さまざまな慣用句がある。古来、それだけ関心を持たれる対象だったということだろうが、そうした「言い伝え」の中には現代の医学や研究によって否定されているものも多い。
生理や更年期障害、貧血に冷え症…ホルモンの変化の影響を強く受ける女性の体は常に不安定。経済産業省の発表によれば、女性の月経に伴う体調不調で見込まれる労働損失は年間5000億円にのぼるといい、社会に与える影響は決して小さくない。
“損失”を少しでも埋めるため、生理休暇を取り入れる企業が増えたり、更年期対策をうたうサプリメントや温活グッズが開発されるなど、制度やサービスが充実し、私たちの体をとりまく環境は段階的に快適になっている。
しかしその一方で、間違った知識や古い情報をもとにした無駄で危険な「健康常識」もはびこっているのだ。
女性の体と健康にまつわる大きな誤解
【1】出産の苦しみに耐えられる女性は、男性よりも痛みに強い──古くからまるで「言い伝え」のように喧伝されてきたこの言説は、もはや都市伝説レベル。東邦大学医療センター大橋病院・産婦人科医の高橋怜奈さんが解説する。
「痛みへの耐性は個人差が大きく、女性が痛みに強いというエビデンスはない。むしろ、男性ホルモンのアンドロゲンには痛みの知覚を抑える効果があるといわれているため、生物学的な視点から考えれば、男性の方が痛みに強いとも言えます」
日本ではがまんを美徳とする風潮があるが、痛みに耐えることでかえって健康を損なうと成城松村クリニック院長で婦人科医の松村圭子さんは警鐘を鳴らす。
「生理痛や陣痛など、女性の人生には痛みを伴う瞬間が多いです。しかし無理にがまんしてもメリットはない。何も対処せずやりすごそうとすれば、かえって痛みに過敏になることもあります。『【2】出産の痛みに耐えてこそ母性が生まれる』という考えも、ナンセンス。無痛分娩はれっきとした医療行為です」
耐えることを強いられているのは、痛みだけではない。日本人は世界的にみても睡眠時間が少なく、2021年のOECDの調査によれば平均睡眠時間は33か国中で最短の7時間22分。そのうえ女性は男性より13分短かった。理由は女性の家事負担の大きさにあるといわれており、【3】女性にショートスリーパーが多いというわけでは、決してない。
さとうヘルスクリニック院長で内科医の左藤桂子さんは必要な睡眠時間に性差はないと指摘する。
「男性も女性も、睡眠が足りなければ、成長ホルモンの分泌量が減少して、自律神経の乱れにつながります。自律神経は内臓から髪の毛まで全身に影響を与えますが、体は生命維持のために内臓機能を優先的に維持しようとする。そのため、男女問わず髪の毛がパサついたり、皮膚がカサカサになるなど、外見に影響が出やすくなります」
「恋愛やセックスで女性ホルモンが増える」は真っ赤なウソ
<恋をするときれいになる>。テレビや雑誌ではしばしば、“恋をして女性ホルモンを活性化させること”が推奨されるが、産婦人科専門医の宋美玄さんはそれを真っ向から否定する。
「そもそも女性ホルモンは卵巣から淡々と分泌されるもので、著しく増減することはありません。つまり、【4】恋愛やセックスで女性ホルモンが増えるというのは真っ赤なウソ。主成分の『エストロゲン』により、リスクが高まるがんもあり、【5】多ければいいというわけではないのです」(宋さん)
一方で、体の色素と女性ホルモンには相関関係がある。
「デリケートゾーンや乳首など体の黒ずみは、女性ホルモンの分泌が多いと濃くなります。翻っていえば、20~30代や妊娠中は濃くなりやすく、【6】性行為の頻度とは関係がない。むしろ、閉経後に女性ホルモンの分泌量が低下すると、薄くなることもあります」(高橋さん)
【7】つまり年を取るほど黒ずむというのも間違い。
皮膚が薄く、粘膜に近いデリケートゾーンは間違ったケアがトラブルにつながるケースも少なくない。
「デリケートゾーンの肌は顔や体よりも敏感で、常にpH4の弱酸性を保っています。そのため、【8】体に使う石けんやボディソープで洗うのはNG。それらの多くはアルカリ性であり、常在菌まで洗浄してしまう可能性がある。専用の弱酸性のものを使うようにしましょう」(宋さん)
医学の進歩によって、身体的な特徴とかかりやすい病気の相関関係も明らかになりつつあるが、その中には誤った情報もある。ワーカーズクリニック銀座院長で産業医の石澤哲郎さんが解説する。
「【9】胸の大きさと乳がんの罹患率は比例する”という説は大きな間違いです。胸の大小は脂肪組織の量に左右されますが、乳がんは主に脂肪組織ではなく乳腺組織にできるため、直接の原因にはなりません」
つまり、女性であれば誰しも乳がんのリスクには留意すべきということ。気をつけるべきは歯の健康も同様。【10】口臭や歯周病などは男性の方が注意を喚起されがちだが、女性こそ口腔ケアに注意が必要だ。特に女性は男性よりも虫歯になりやすいことがわかっており、2012年に発表された厚生労働省の「歯科疾患実態調査」によると、平均虫歯数は男性14.7本に対して、女性は16.1本だった。
健康検定協会理事長で管理栄養士の望月理恵子さんが言う。
「女性は男性よりも歯を覆うエナメル質の硬度が低いことが、虫歯になりやすい理由の1つです。妊娠・出産を経て口腔内が酸化し、ホルモンバランスの乱れから細菌が増えることも虫歯につながります。加えて、エナメル質のすぐ下の組織である象牙質の厚さも薄いため、進行すると神経に到達しやすい。年を重ねると唾液量も減少するので、丁寧な歯磨きに加え、水をこまめに飲んだり、キシリトールガムを噛むことを意識してください」
教えてくれた人
高橋怜奈さん/東邦大学医療センター大橋病院・産婦人科医
宋美玄さん/産婦人科専門医
石澤哲郎さん/ワーカーズクリニック銀座院長で産業医
望月理恵子さん/健康検定協会理事長、管理栄養士
※女性セブン2023年3月30日・4月6日号
https://josei7.com/
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