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『星降る夜に』7話を考察 鈴を人殺し呼ばわりする伴(ムロツヨシ)の救いとなるのは彼の幼い娘か

 吉高由里子演じる産婦人科医と北村匠海演じる遺品整理士のラブストーリー『星降る夜に』(テレビ朝日系 火曜よる9時〜)。脚本は来年のNHK大河ドラマ『光る君へ』(吉高由里子主演)を手掛けることでも話題のベテラン・大石静。『鎌倉殿の13人』の全話レビューを担当したライター・近藤正高さんが7話を考察します。雪宮鈴を誹謗中傷し続けていたのは伴宗一郎(ムロツヨシ)、5年前に鈴を訴えた人物でした。伴の恨みが消えることはないでしょうか? 今夜8話放送。

因縁の相手がいきなり襲来!

『星降る夜に』では前回のラスト、産院に勤務中の雪宮鈴(吉高由里子)の前に、これまで彼女を執拗に攻撃し続けてきた人物が突然現れた。その男――伴宗一郎(ムロツヨシ)は5年前、妊娠中の妻(大場美奈)が担当医の勧めで大学病院に移され、鈴の診療を受けるも、容体が急変して亡くなっていた。

 もともと難しい症状であったにもかかわらず、鈴には転院前の担当医(鈴の学生時代の同期)から事前に知らされていなかったこともあり、悲しい結末になってしまったとはいえ最後まで治療を続けた彼女に落ち度はなかった。しかし、妻の死を受け入れられない伴は、鈴を裁判に訴える。訴えは棄却されるが、伴は逆恨みし、ついには誹謗中傷や自宅襲撃に及んだあげく、彼女の前に5年ぶりに姿を現したのだった。

 鈴の勤務先にまで押しかけてきた伴は、今回(第7話)の冒頭、あいかわず彼女を人殺し呼ばわりしたうえ、恋人の柊一星(北村匠海)や同僚の佐々木深夜(ディーン・フジオカ)との関係を詮索したり、顔を手でなでたりして、鈴を文字どおり震え上がらせる。そこへたまたま深夜が来てくれたおかげで、伴はいったん引き下がった。深夜はその夜、彼女のために一星を呼んで家まで送らせるという心配りも見せる。一星もまた、鈴のためドレスを見立てたうえ、高そうなレストランに誘い、励ましてくれた。

 主人公の因縁の相手がいきなり襲来! というドラマのターニングポイントだけに、並みの脚本家なら、今回はこのまま伴の話だけで引っ張るところだろう。しかし、このドラマを手がける大石静はそうしない。大ベテランならではの余裕というべきか、物語を性急に進めたりはせず、いったん伴を引っ込めて、鈴と一星それぞれの職場での他愛もないエピソードを描いてみせたのだ。

 一星は今回、遺品整理ではなく殺人現場の特殊清掃を、勤務先の社長・北斗千明(水野美紀)と同僚の佐藤春(千葉雄大)と一緒に請け負う。その際、一星が作業をしていると、背後から何者かが包丁を持って迫り寄り、すわっ犯人が戻ってきたか!? と思わせたが、じつは春が現場で包丁を見つけ、事件で使われた凶器ではないかとうろたえていただけだった。

 前々から気になっていたのだが、『星降る夜に』では、この手の思わせぶりなカメラワークによる演出が目立つ。第5話でも、春の妻・うた(若月佑美)が退院する際、深夜がおめでとうと言いに来るシーンで、深夜の姿が映し出されるより先にカメラが夫婦のいる病室にずんずん入っていったので、一瞬何事かと思わせた。今回も、深夜が千明とその娘の桜(吉柳咲良)に家まで害虫の退治のため呼び出されたとき、カメラが虫の目線から深夜を捉えるという演出がとられていた。こちらは虫の姿を映さないという配慮だったのだろう。

 結局、春の見つけた包丁は事件とは何の関係もなく、無事に作業を終えた3人に、デリバリーのバイトをするチャーリー(駒木根葵汰)が食事を届けてくれた。そのメニューはといえば、一星と春がさっき見たばかりの血痕の残った床を思い起こさせるような、真っ赤なキムチチゲラーメンだった……というオチ(?)がつく。

オタク用語をここぞとばかりに

 一方、鈴の産院では、新人看護師の伊達麻里奈(中村里帆)の具合が悪そうなので、鈴が問いただしたところ妊娠しているとわかった。しかし、伊達は同棲中の彼氏にそのことを言えずにいた。それというのも彼氏はラノベ(ライトノベル)作家になるのを夢見て、目下第1作を執筆中で、そのために自分が財布代わりとなって支えているのに、いま出産すれば収入が断たれてしまうからだという。これを聞いて、産院の院長の麻呂川(光石研)が「そんな男に娘はやれない」と怒り出し(もちろん伊達は院長の娘ではない)、看護師の蜂須賀(長井短)も同調して「あっしが一言物申してやる」と息巻いたため、彼氏を伊達と別れさせるべく直談判に赴くことになる。なぜか鈴も伊達の担当医として参加させられるはめに。

 実際に会った彼氏・シンスケは、彼女のカードで高級イチゴを買ってくるようなダメっぷりながら、根はやさしい青年だった。伊達から妊娠したことを打ち明けられると、すっかり感激して、彼女と別れると言い出すどころかプロポーズする。

 この展開に鈴があっけにとられていると、さらにややこしいことに蜂須賀が「尊い!」と感動し、伊達と彼氏の関係を、自分の推すミュージカル俳優への想いと重ね合わせて滔々と語るのだった。ラノベや推し活といった最近の流行りもの(というにはもはや世の中に定着した感はあるが)に、「尊い」だの「にわか」だのオタク用語をここぞとばかりに盛り込み、大石静が若い者には負けんとアピールするかのような場面であった。

 ちなみに、彼氏役の俳優に何だか見覚えがあると思ったら、昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で坂口健太郎演じる北条泰時の幼馴染・平盛綱を演じていた、きづきだった。承久の乱で致命傷を負うも、奇跡的に復活を遂げた盛綱だが、転生してラノベ作家志望のダメ男になっていたと想像すると何だかおかしい。

幼い少女が「お父さん」

 第7話はこうして途中、コメディタッチで展開したが、そんなのんきな空気を吹き飛ばすように、再び伴が産院にやって来て暴れまわる。これに対し元レディースの総長である看護師長の犬山(猫背椿)が応戦したが、あっさり倒された。続けて向かった深夜も案の定投げ飛ばされ、またしてもケガを負う。さらに伊達が伴の前に立ちふさがり、鈴を守ろうとしたところ、腕をつかまれてしまった。だが、鈴がとっさに「やめて、その人のお腹には赤ちゃんがいるの!」と叫ぶと、伴は手を離す。

 それでも伴の恨み節は止まらない。自分は被害者なのに、鈴のほうがみんなから守られ、正義みたいな顔をしているのは理不尽だとばかり、「おかしいだろっ!」と絶叫する。そこへ「お父さん」と幼い少女が不安そうな表情で声をかけた。亡くなった妻の遺した伴の娘だ。彼女は父のやることの一部始終を見ていたのだろうか。娘からは続けて「帰ろう」と言われ、さすがに伴も引き下がらざるをえなかった。

 伴が娘を連れて出ていき、騒ぎが収まったあとで、鈴はひたすらにみんなに謝り続ける。このまま終わってしまっては後味が悪いが、ラストシーンでは一星が鈴と深夜も誘ってキャンプをすることに。どうやら一星と深夜のあいだに友情が芽生えつつあるらしい。

 夜になって3人で花火をするなか、鈴はなぜか涙が止まらなくなる。その理由はおそらく彼女にもうまく説明がつかないのだろうが、伴をあそこまで追い詰めてしまったという自責の念もあったのではないか。ラストでの鈴の心のつぶやき「何でだろう、あの人もここにいたらよかったのかなと、ふと思った」が、そんな彼女の思いをほのめかすようであった。

 伴の鈴に対する一連の行動はたしかにひどく、もはや警察を呼ばないといけないレベルだが、いまの彼にはそうすることしか心のやり場がないのだと思うとちょっとやるせない。それに加えて、彼が幼い娘と一緒に歩く後ろ姿を見ると、また哀愁というか悲壮感が漂い、一方的に責めにくくなってしまう。鈴も、娘が産院に現れたのを見て、おそらく同じことを感じたはずである。

 深夜もまた妊娠していた妻を亡くしているだけに、伴のつらさがわかると、今回の劇中で千明に打ち明けていた。このとき、一歩間違えば自分も伴と同じことをしていたかもしれないとつぶやいた彼に、千明は「その一歩には天と地の差がある」と言って、妻と同じような人を2度と出さないため、努力して医者に転身した深夜を褒める。

 ただ、深夜に言わせると、医者になったのはそういうわけでもなく、研修医時代の鈴が妻の遺体を見送ってくれたときに泣く姿を見て、「あの涙の意味を知りたかっただけなのかもしれない」という。逆にいえば、伴には、深夜にとっての鈴のような存在がいなかったがゆえに、5年経っても傷が癒えず、怨念を抱き続けているのだろう。いまからでも遅くないから、伴にも救いとなるような存在が現れてほしい。いや、その役割を果たす存在こそ、幼い娘のような気がするのだが……。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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