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『OUT~妻たちの犯罪』一線を越えた主婦たちの過激な自立。女性を取り巻く問題はあれからマシになったのか

「過去の名作ドラマ」は世代を超えたコミュニケーションツール。懐かしさに駆られて観直すと、意外な発見することがあります。今月はライターのむらたえりかさんが『OUT~妻たちの犯罪』(1999年 フジテレビ系/FOD)を鑑賞、衝撃的なドラマを現在に照らしながら紹介します。

主婦たちによる「バラバラ死体遺棄」

 妻による夫殺しのドラマにワクワクしてしまうのは、それだけ「家」に押し込められた妻たちの苦しさを見てきたからだ。結婚によるキャリアの断絶、「嫁」が背負う親の介護、不公平感、そして夫による肉体的、精神的な暴力。追い詰められて「夫を殺したい」という思いがよぎってしまう妻の苦しみを、わたしは頭ごなしに否定できない。

 1999年放送のドラマ『OUT~妻たちの犯罪~』(フジテレビ系)は、同じ弁当工場の夜勤のパートで働く主婦たちの物語だ。パート仲間のひとり、山本弥生(原沙知絵)は夫・健司(逸見太郎)のギャンブルや暴力に悩み、彼を殺してしまう。それを打ち明けられた主人公の香取雅子(田中美佐子)は、弥生を助けると決めた。雅子は同僚の吾妻ヨシエ(渡辺えり子)に声をかけ、城之内邦子(高田聖子)を巻き込み、健司の死体をバラバラにして生ごみとして捨てる計画を進める。

 原作は、1997年に刊行された桐野夏生の書き下ろし小説『OUT』(講談社)。98年には直木賞候補にノミネートされている。しかし、直木賞、その後に候補になった吉川英治文学新人賞に落選。桐野は当時のことを〈賞にノミネートされる度に有望視された『OUT』は、その「反社会性」とやらで、メジャーの賞から弾き出されたのだ〉〈『OUT』は、私という作家をブレイクさせてくれた作品だが、同時に、私をOUTな作家にしてくれたらしい〉とエッセイ『白蛇教異端審問』(文春文庫)でつづっている(桐野夏生は、ドラマ『OUT~妻たちの犯罪~』が放送された1999年に『柔らかな頬』(講談社)で直木賞を受賞)。

 バラバラ死体の遺棄を隠し通そうとする犯罪者側のストーリーであるとともに、「パート主婦たちが夫を殺し、警察を欺くこと」が受け入れられない層がいたのではないかと想像する。『OUT』は、98年のうちに日本推理作家協会賞を受賞。7年後の2004年には、受賞は逃したものの米・ミステリー界のアカデミー賞といわれるエドガー賞長編賞にノミネートされ、受賞してもおかしくない作品であると評価されている。

 ドラマ版はというと、平均視聴率は12.8%、最高視聴率は16.1%。同年のヒット作には『古畑任三郎(第3シリーズ)』(フジテレビ系)や『魔女の条件』(TBS系)などがあり、どちらも平均視聴率が20%を超えている。「反社会性」への反感とともに、死体解体などのグロテスクなシーンへの忌避があったのかもしれない。ただ、この「大ヒットとはいかない」という点も、妻たちが社会からOUTしていく『OUT』の「らしさ」である。

キャリアを絶たれた雅子と仕事に生きる則子

 ドラマ版のオリジナルキャラクターとして、主人公・雅子の友人であり警察官の井口則子(飯島直子)が登場する。則子は少年課で雅子の息子・伸樹(石川伸一郎/現・石川シン)と知り合い、彼を心配しては度々雅子の家を訪れる。そして、念願の刑事課に配属された則子は、雅子やパートの仲間たちの異変を鋭く察知していく。

 パート主婦である雅子たちには時間がない。死体をバラバラにするなどの隠しごとは、夫やこどもたちが出かけて家にいない間、かつパートの勤務時間以外の時間に済ませなければいけない。寝たきりの姑を家で介護しているヨシエは、姑の世話の合間を縫う必要がある。女たちが夜勤明けのクタクタの体で、人ひとりを解体したり、それが明るみに出ないようにと神経を尖らせたりしていく。

 独身で仕事中もある程度は自分の裁量で外出できる則子。則子の自由さは、雅子たちの時間に追われる姿を際立たせていた。

 雅子はもともと、信用金庫に勤めるキャリアウーマンだった。しかし、優秀過ぎたために周囲の男性たちから煙たがられ、退職することになってしまう。

 雅子の夫・良樹(段田安則)は悪い人ではない。しかし、仕事を辞めた雅子には「専業主婦でいい」と言ったのに、刑事課に栄転した則子のキャリアや仕事の充実ぶりを褒めるなどの無神経なところがある。息子の伸樹は高校を退学し、実家で暮らしながらアルバイトをしている。退学以降、雅子と上手く接することができない。

 原作版の文庫解説で作家・松浦理英子は、雅子がキャリアを活かさず弁当工場の夜勤パート職に就いたことを「自らの能力を殺すという部分的〈自殺〉を行っている」と読み解いている。パートに特別なやりがいはなく、夫ともこどもとも心の溝を感じながら、雅子は自分を陰へ追いやるように暮らしていた。

 彼女の前に、ふたりの男性が現れる。同じ工場で働く日系ブラジル人の青年・宮森(伊藤英明)と、邦子に金を貸していた闇金業者の十文字(哀川翔)だ。宮森は雅子に思いを寄せている。十文字は、雅子が信金で働いていた頃に仕事で関わりのあった相手だ。

 ここで雅子は「年下のイケメンと主婦のロマンス」には傾かない。一方で、雅子の仕事ぶりを「すごい」「かっこいい」「一緒に仕事ができて嬉しかった」と賞賛する十文字に、雅子はいくらか心を許した態度で接する。宮森に簡単になびかず、ビジネスの話ができる十文字には信頼を置く。家庭に縛られていた彼女は、インディペンデント・ウーマンとなっていく。

「嫁だから」と我慢する介護のつらさ

 動けなくなる前に自分が入る老人ホームを探しておくことも、今では当たり前になった。しかし、ヨシエに自宅介護をされている姑・千代子(冨士眞奈美)は、老人ホームを嫌がる。ヨシエがせっかく新築のきれいな老人ホームを探してきても、千代子は「嫌だ」「姥捨て山」などと吐き捨てる。寝たきりで、事あるごとに「ヨシエ~!」と大声を出す。

 ヨシエは、嫁だから姑の介護はやって当たり前だ、と思い込もうとして生きてきた。生活保護を受けながら、それを打ち切られないギリギリの範囲でパートをし、姑と娘の世話をしているヨシエ。しかし、雅子と一緒に死体を解体したことで、自分の気持ちを強く持てるようになる。「家族だから」「嫁だから」と思い我慢してきたつらさを、徐々に吐き出せるようになる。

『OUT』は、「家庭」によって自分自身の気持ちや感情を見失っていた女性たちが、それらを取り戻して自立していく姿を描き出す。

 緊張感のあるシーンが続くなか、思わず笑ってしまう、気が抜ける場面も散りばめられていた。

 死体を前にして逃げ出そうとするヨシエに、雅子は大真面目な顔で「ついでじゃない、洋服切るだけ」と引き止め、家に来た「ついで」に解体を手伝わせようとする。「ついで」とか「だけ」とか、そんな気軽な感じで!

 雅子、ヨシエ、邦子が「私たちはお互い、命綱握り合ってるようなもんなんだから」とけん制し合う場面では、ヨシエが3人で手を合わせて「エイエイオー!」をやろうと言い出す。それを「映画とかで男たちがやってるやつ」と言うのが可笑しくて、ちょっと切ない。男性じゃないというだけで、一人前と見なされなかった時代。男たちのように「エイエイオー!」と大声を出して笑い転げる3人が不思議と愛おしい。

 則子も男社会の警察内で「ヒステリー」「生理か」などと馬鹿にされていた。そんな彼女が「女はキレると怖いよ。感情的になって、何するかわからない」とすごむシーンは皮肉が効いていた。これは皮肉であると気づかない人もいるだろうと思うほどの切れ味である。

女性が一線を越える時

 妻が夫を殺し、女同士で助け合ってそれを隠ぺいする。雅子たちの姿は、放送当時はセンセーショナルだった。

 その後も、どうしても夫を殺さざるを得ない理由を抱えた女性と、殺したその後の姿が描かれるドラマがつくられている。『ナオミとカナコ』(2016年 フジテレビ系)や『女囚セブン』(2017年 テレビ朝日系)などがそれにあたる。キャリアや成果を男性に奪われたり、介護の負担が妻だけにのしかかっていたりと、1999年に描かれていた問題はいまでも完全には解消されていない。

「男女雇用機会均等法」施行は1986年。則子は「女性を雇用している実績や見た目」のために刑事課に配属された。

 また、1989年の法改正で「定住者」の在留資格を得て日本に住みはじめた日系ブラジル人たちがいる。その多くは、宮森のように非正規雇用の仕事を転々として、そのまま高齢となった。そのため、現在は貯金も墓もないという問題に直面している。その現実が、ようやく問題提起されはじめた(「来日30年で顕在化 日系ブラジル人の墓問題」NHKオンライン 2021年7月21日より)。バブル期の日本を支えていたにも関わらず、労働者として使い捨てられ、生き死にの尊厳が守られない

 女が一線を越えるのは世の中のいろんなことに失望したときだ、と則子は言っていた。ただし、一線を越えればそれだけのリスクや罪を背負わなければならず、世の中から「OUT」せざるを得ないことも描かれていた。

ヨシエ「どんなことがあっても、私とあんたの友情は変わらないから」
雅子「うん、わかってる」
ヨシエ「じゃあ、地獄で会おう」

 ふたりの会話に、アメリカの編集者ヘレン・ガーリー・ブラウンが好んだ「Good girl go to heaven,Bad girl go everywhere(良い女の子は天国に行ける。悪い女の子はどこにでも行ける)」(1982年 The New York Times)という言葉を思い出す。女性が世の中に失望せず、一線を越えなくて済む環境をつくっていきたい。でも、もし失望してしまっても、わたしたちは自分の選択で自分の生き方を選んでいける。雅子たちのように。

文/むらたえりか

むらたえりか

ライター・編集者。ドラマ・映画レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。宮城県出身、1年間の韓国在住経験あり。

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