吉高由里子×北村匠海『星降る夜に』誤解だらけの5話を考察 誹謗中傷を繰り返すのは鈴を悪者にして面白がっている愉快犯か
吉高由里子演じる産婦人科医と北村匠海演じる遺品整理士のラブストーリー『星降る夜に』(テレビ朝日系 火曜よる9時〜)。脚本は来年のNHK大河ドラマ『光る君へ』(吉高由里子主演)を手掛けることでも話題のベテラン・大石静。『鎌倉殿の13人』の全話レビューを担当したライター・近藤正高さんが5話を考察します。今夜6話放送、SNSで雪宮鈴を誹謗中傷し続けているのは一体誰?
事故の一部始終
『星降る夜に』第5話は、登場人物のあいだで色々と誤解が生じた回だった。
主人公の産婦人科医・雪宮鈴(吉高由里子)は前回のラストで、柊一星(北村匠海)についにキスを許した。だが、その最中に勤務先のマロニエ産婦人科医院の同僚である佐々木深夜(ディーン・フジオカ)から電話が入る。それは妊娠中の佐藤うた(若月佑美)が倒れて搬送されてきたとの連絡で、鈴は応援のため、すぐに産院に戻る。
うたは、一星の遺品整理会社での同僚で親友である春(千葉雄大)の妻である。あまりに苦しそうなので流産が心配されたものの、虫垂炎……ようするに盲腸と診断され、出産には支障はないとわかった。
うたが倒れたと知らされ、一星も春を励まそうとしてか産院に駆けつけた。そこで彼は動揺する親友の姿を目の当たりにする。前回喧嘩してしまった一星と春だが、このあと2人で飲みに行き、前回、互いに自分の言葉で傷つけてしまったことを謝り、仲直りした。同時に一星は、春にうたときちんと話をしてみるようアドバイスする。後押しされた春は、改めてうたと話をし、いままで彼女と向き合うことから逃げていたと謝り、夫婦で生まれてくる子供と新たな人生を歩むことを誓うのだった。
ちょうどうたが産院に担ぎ込まれたころ、鈴にも深刻な事態が起きていた。何者かがSNSに「雪宮鈴は人殺し」と書き込んだのだ。翌朝、産院の看護師たちからそれを見せられ、鈴のなかで5年前に大学病院をやめる原因となった医療事故の記憶がよみがえる。
ここで初めて、事故の一部始終が描かれた。亡くなった患者は、鈴が別の病院に勤める同期の医師から診てもらいたいと頼まれ、引き受けたのだった。しかし、じつはその患者は危険な状態にあり(そのことを鈴は事前に伝えられず、病院に運ばれてきて初めて知った)、要はほかの病院がさじを投げたのを、鈴が押しつけられた格好であった。患者は結局、懸命の治療のかいなく死亡、病院側は、母体も胎児も死亡率が高かったにもかかわらず受け入れた鈴の責任を厳しく追及する。彼女が病院をやめたのは、遺族からの裁判以前に、こうした病院内での逆風に堪えられなかったということもありそうだ。
過去のつらい経験を思い出し、落ち込む鈴。そんな彼女を慮って、深夜がコーンポタージュ缶をあげたり、「大丈夫じゃないときは『大丈夫じゃない』って言って下さい」と声をかけたりとあれこれ気遣うのだが、それに対し鈴は努めて感情を抑え、平静さを装う(そんな微妙な心情を、さりげないしぐさや台詞回しで表現してみせる吉高由里子はやはりすごい)。
放送日はバレンタインデー
人前では気丈に振る舞っていた鈴だが、帰りがけ、一人で歩いていると、誰かにつけられていることに気づき、すっかりおびえる。やがて相手に追いつかれ腕をつかまれてしまうが、泣きながらその顔を見ると、それは心配してついてきた一星だった。
鈴が一星に会社のトラックで家まで送ってもらうと、玄関の前では何と深夜が待っていた。深夜もまた鈴を心配して家まで来てしまったのだ。深夜はこのとき初めて会った一星を、なぜか鈴の弟だと誤解する。一星も一星で、深夜が鈴に近づくのが許せず、彼女から引き離そうと手話で訴えるも、深夜には伝わらない。
このあと、鈴への攻撃はますますエスカレートしていく。SNSでは彼女が一星、深夜とそれぞれ2人きりでいるところを盗撮した画像が、「二股女」との書き込みとともに拡散される。ついには鈴の自宅も狙われ、玄関に誹謗中傷の言葉が書かれた紙が何枚も貼られているのに気づき、彼女は呆然と立ち尽くす。そこへ、例の画像を見た深夜が危険を察知してか駆けつけた。2人が家のなかに入ると、今度はレンガを投げ込まれ、鈴をかばおうとした深夜が少しケガを負う。
もはや警察を呼ばないといけない事態にもかかわらず、鈴も深夜もそうする気配がないのが不思議だが……それはともかく、深夜より少し遅れて一星も彼女を心配して駆けつけた。そこで深夜の姿を見つけた彼は、てっきり彼女が呼んだものと誤解してショックを受け、なぜ自分には何も言ってくれないかと不満を訴える。それとともに、耳の聞こえない自分には鈴を守れないと無力さを感じ、落ち込んでしまう。
それでも鈴の一星への思いは変わらなかった。翌日、「きのうはごめん」とメッセージを送ってきた彼に、「今夜会えない?」と誘う。放送日がちょうどバレンタインデーだったのに合わせ、劇中でも鈴が一星に会う前に、チョコを買い求めた。
だが、そこへ思わぬ恋敵が現れる。一星の働く遺品整理会社の社長・北斗千明の娘である高校生の桜(吉柳咲良)だ。桜もチョコを買った上、会社のトラックで鈴を迎えに行こうとしていた一星に、駅まで乗せていってほしいと半ば強引に頼んで2人きりの状態に持ち込む。間が悪いことにトラックが信号待ちしていたところ、運転席の一星に桜が顔を寄せるのを、交差点にいた鈴が目撃してしまう。鈴もまた、彼と桜の関係に誤解を抱いたに違いない。そう思わせながら、ドラマは今夜放送の第6話へと続く。
あいだに深夜や桜が入ってきて、ちょっとこじれそうな予感を抱かせる鈴と一星の関係だが、そもそも2人が付き合っていることを知っているのは、ここへいたっても春と、一星と同居する祖母(今回は出番なし)だけなのではないか。桜は薄々感づいてるようだが、母親の千明(水野美紀)は、SNSで鈴と一星の画像が拡散されているのを見ても、2人が付き合っていることまでは気づかなかった様子である。
一方、マロニエ産婦人科では、看護師たちが鈴は深夜といい関係になっていると勘違いしている感じである。深夜にいたっては、さっきも書いたとおり一星をすっかり鈴の弟と思い込み、彼氏とは思いもよらない。どうも深夜は思い込みの激しいところがある。もっとも、そうでもなければ、30代半ばにもなっていきなり公務員をやめて医者になろうと決意し、実現することなどできなかったのだろうが。
当の鈴と一星も、自分たちが付き合っていることを周囲に伝えるチャンスがおそらくなかなか見出せないのだろう。そのなかで、もう1人、彼女たちの関係を知る者がいることに気づいた。それは、なおも正体を現さないまま鈴を攻撃する例の謎の人物だ。2人が付き合っていることが、親しい人たちよりも先に、この人物に知られてしまった(鈴が深夜と二股をかけていると誤解したとはいえ)のは何やら皮肉にも思え、モヤモヤさせる。
一体、この人物は何者なのか。医療事故で鈴を訴えた遺族である可能性は捨てきれないが、だとすれば、今回の彼女への一連の攻撃はあまりに目立ちすぎ、警察にすぐに身元を突き止められてしまうのではないか。そう考えると、この人物はまったくの第三者で、鈴を悪者に仕立てて面白がっている愉快犯という線もあるような気もしてきた。果たして正解は――? 気になるところだが、まだ当分は引っ張るんでしょうねえ。
文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)
ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。