車いすでも要介護でも旅を快適に!東京都発「アクセシブル・ツーリズム」最前線をレポート
「アクセシブル・ツーリズム」という言葉をご存じだろうか? 障がい者や高齢者など移動やコミュニケーションが困難な人でも旅を楽しめることを目的に行う取り組みのこと。現在、東京都が主体となり、さまざまな企業や有識者を巻き込んで、大きなプロジェクトが始動している。そこで、東京都が開催した「アクセシブル・ツーリズム推進シンポジウム」で記者が注目した製品や取り組みをピックアップしてレポートする。
アクセシブル・ツーリズムとは?
「誰もがあきらめずに旅行ができることが大切です」
こう語るのは、東京都主催の「アクセシブル・ツーリズム推進シンポジウム」でパネルディスカッションに登壇した「NPO法人高齢者・障がい者の旅をサポートする会」専任講師・栗木敏男さんだ。
幼少時に病気で右上肢不自由となった栗木さんは、大学卒業後に日本航空に勤め、「プライオリティ・ゲストセンター」※の立ち上げを担当したひとりだ。
※1994年に日本航空が業界初の取り組みとして、障がいのある人や病気などで移動がしにくい人たちが快適な旅を楽しむための相談窓口を設置した。
栗木さんが、「誰もがあきらめずに旅行できるように」と語るように、今、東京都が力を注いでいるのが「アクセシブル・ツーリズム」だ。
「アクセシビリティ」は英語のAccessibilityからきていて、「利用しやすさ、便利さ、近づきやすさ」を意味する。
「アクセシブル・ツーリズム」とは、障がいや病気、高齢化などで移動やコミュニケーションが困難になった人でも「旅を楽しめること」を目的として、現在、東京都が積極的に環境整備を進めている。
具体的な活動としては、2021年に東京で開催したオリンピック・パラリンピックでも、交通機関・宿泊施設のバリアフリー化などの環境整備を進めた。また、コロナ禍で停滞した観光業を盛り上げるため、来日した人たちが安心して観光を楽しめるよう、これからも官民協力して取り組んでいくという。
「アクセシブル・ツーリズム」を実践するうえでさまざまな企業が協力し、シンポジウムの会場にも多彩な製品が展示されていた。中でも記者が着目したのが「車いす」をサポートする機器を開発しているJINRIKI(ジンリキ)だ。
車いすに取り付ける機器『JINRIKI』で旅をあきらめない!
「日本には自然環境や文化遺産保護の理由で、バリアフリー化が難しいところがあります。神社やお寺など砂利道や階段が多い場所での車いすの移動はとても大変です。そのため旅行をあきらめていた方が多くいました。
そこで、車いすに“けん引バー”を取り付けることで、テコの原理で前輪を軽く浮かせて引っ張り、ラクに運べるようにしたんです」
こう話すのは、けん引式車いす補助装置『JINRIKI』を考案したJINRIKI代表の中村正善さんだ。同社は、「高齢者や障がい者でも、車いすでも旅行をあきらめない」をモットーに、製品開発やツアーを企画するなどのサポートもしている。
「『JINRIKI』は、災害時の緊急避難装置としても活用されています。実際に災害時には、要援護者を救出するために介護者たちが被害に合うケースがありました。車いす本来の『押す』という機能に『引く+前輪を浮かせる』機能をプラスすることで、介助する側の不便や危険性を大きく改善しました」と、中村さんは話す。
『JINRIKI』は、自分の車いす※に簡単に取り付けられることが特長。世界特許を取得したこの技術によって、車いすを人力車のように引くことで手軽に移動の手助けができる。
※フレームサイズが径17~25mmの車いすに対応。機種によって取り付けができない場合もある。
【データ】
JINRIKI
価格:5万4780円
販売:JINRIKI
「アクセシブル・ツーリズム」をサポートする製品のほかにも、ユニークな旅の取り組みを企画している企業の展示も。外出が困難な人でも旅を楽しめるサービスを紹介する。
車いすのまま海に入れる『モビチェアー』
「車いすでも海に入りたい」という願いを叶えたのが、NPO法人・湘南バリアフリーツアーセンターだ。「行きたい場所に行けるお手伝いをしたい」と、神奈川県の湘南地域を中心に活動している。海で浮遊できる浮きをつけた特別な車いす『モビチェアー』で、海に入り波しぶきを体感できるイベント「バリアフリービーチ」を開催している。
【データ】
湘南バリアフリーツアーセンター
モビチェアー販売・レンタル元:Obvious事業部(https://obvious-shonan.jp/)
※料金についてはObvious事業部へお問い合わせください。
バリアフリーなキャンプ場でアウトドアを満喫!
「プライベース河口湖」は、身体の不自由な人たちが家族や友人と一緒に楽しめるユニバーサルなキャンプ場。1日1組限定なので、ゆっくりとキャンプを楽しめる。
敷地内のトレーラーハウスには、バリアフリーなトイレとシャワースペース、床ずれ防止エアマットと電動ベッドを完備。そのほか段差を最小限化したウッドデッキや、車いすやバギーで利用できる平らなキャンプサイトなどがある。キャンプ用品は無料貸し出し可。
【データ】
PRI-BASE (プライベース)河口湖
運営:A-Connect Camp
料金:1泊(土日祝)5万円、1泊(平日)4万円
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このほかにも、展示コーナーでは、アクセシブル・ツーリズムを推進する企業が全国から集まった。介護タクシーで旅ができる介護付旅行サービス『東京さんぽ』(合同会社アクセシブル・ツーリズム東京)のほか、福祉車両にも積みやすい世界最小クラスの車いす『スワニーミニ」(スワニー)、近距離モビリティとして話題の電動車いす『WHILL Model C2」(WHILL)などの試乗も体験できた。
また、車いすの来場者には訪問介護サービス『クラウドケア』のヘルパーがサポートするなど、多くの企業と協力して、「アクセシブル・ツーリズム」を盛り上げていた。また、東京都が民間と協力して実証実験をしたドローンのモニターツアーも紹介されるなど、官民連携のこのシンポジウムから「誰もがあきらめない旅行」への可能性を感じた。
■東京都主催「アクセシブル・ツーリズム推進シンポジウム」
https://www.ats-tokyo-2022.com/
シンポジウムの様子は2月28日(火)までアーカイブで配信。
撮影・取材・文/本上夕貴