出演本数ランキングを争った麒麟・川島とオードリー春日がMCを担当『ベスコングルメ』の絶対幸福
2022年番組出演ランキングベスト3に入った麒麟・川島明とオードリー春日俊彰が週替わりでMCを務める『ベスコングルメ~ベストコンディションで最高の瞬間を!~』(TBS/日曜夜6時30分~)の魅力を、テレビっ子ライター・井上マサキさんが解説します。
2022年「テレビの顔」2人
2022年もいよいよ大詰め。新語・流行語大賞だったり、「今年の漢字」だったり、1年間を振り返るもろもろが発表されるシーズンである。
で、テレビっ子がこの季節になると気になるのが「テレビ出演本数ランキング」。2022年、最もテレビに出ていたのは誰なのかが判明するランキングだ。集計方法はリサーチ会社によって微妙に異なり、ニホンモニターのランキングでは3位が春日俊彰(オードリー)、2位が川島明(麒麟)、1位が設楽統(バナナマン)。エム・データのランキングでは3位川島、2位設楽、1位春日という結果となっている。
このランキング、もちろん帯番組のMCを担当しているほうが有利になる。設楽統は『ノンストップ!』(フジ)、川島明は『ラヴィット!』(TBS)のMCだ。でもエム・データで1位になった春日は帯番組を持っておらず、自ら出演本数ランキング1位を目指して、この1年間さまざまな番組にゲスト出演して本数を稼いでいたのである。
『あちこちオードリー』(テレビ東京)に川島明がゲスト出演したときも、この1位争いについて語られていた。川島も1位を目指して出演本数を増やし、秋からはさらにレギュラー番組も増やしたそう。でもそのうち1つは週替わりのレギュラーMC。もう1人のMCは誰かなと思ったら、なんと春日だった。「それじゃ本数に差が付かないんだよ!」と憤る2人。
その番組こそが、今回紹介する『ベスコングルメ』(TBS)である。
最高の肉とビールのため
『ベスコングルメ』の「ベスコン」とは、「ベストコンディション」のこと。美味しいものを食べるときにベストなコンディションとはなにか。それは空腹と、何かを成し遂げたあとの達成感だろう。
……ということで、出演者たちは「ベスコン」状態になるべく、長い距離を全力でウォーキング。ゴールでは絶品グルメとキンキンに冷えたビールが待っている……という番組なのだ。
この「ウォーキング」がそこそこ長い。11月27日の川島回では赤羽から大塚の洋食屋まで約6.5km、12月4日の春日回では蒲田から川崎の牛タン屋まで約6.4kmを、MCとゲストたちが2時間近くかけて歩き続ける。
春日はピンクのTシャツ姿で、胸を張って元気に腕を振るウォーキングスタイル。横断歩道を渡るときはピン!と手を上に伸ばす。当然目立つので、公園の横を歩けば子どもたちが「春日だ!」「トゥース!」と寄ってくる。軽くトゥース!と返す春日。スターの振る舞いである。
一方、川島は蛍光グリーンのウェアで淡々と歩を進める。10時まで『ラヴィット!』の生放送をこなしてからの収録なので、ひと仕事を終えてからのウォーキング。ハードなスケジュールにも思えるが「この番組で歩く楽しさに目覚めてニューバランスを買った」とのこと。ベスコンになる準備は万端だ。
あえて商店街をコースに
この番組のクライマックスはもちろんゴールのグルメなのだけど、それまでひたすら歩く様子を延々と見せられても視聴者は困っちゃうだろう。かといって、ウォーキング中にわざわざ観光スポット的なところに寄ってレポートするのも変だ。
そこで番組は、あえて商店街をコースに入れるのである。
揚げたてのコロッケ、山盛りにされた焼鳥、和菓子屋に並ぶお団子……商店街には誘惑がいっぱい。見つけるたびに「うまそ~!」と駆け寄る一行だが、ベスコンのため途中の飲食はNG。「持っていって!」と言われても丁重にお断りしないといけない。
このくだり、出演者たちの「我慢の表情」を映し出せると共に、商店街の「グルメ情報」も伝えられる。あえて商店街を通ることで、テレビ的には一石二鳥の効果がある。
春日は「また来ますから!」と泣く泣く肉屋のおばちゃんに別れを告げ、川島はラーメン屋のダクトから出る排気を手にこすりつけて嗅ぎ、空腹を紛らわせる。商店街を抜ければ空腹はさらに進み、ベスコンへの仕上がりは極まる一方。
残り1kmを切ると、もはや「ハンバーグ……」「ビール……」ぐらいしかコメントが出ない。疲労と空腹がピークに達したそのとき、ようやく目の前に目的地が。歓喜に沸く一行のバックで高らかに流れるのは、Queen「We Are The Champions」だ。
今すぐベスコンになりたい!
『ベスコングルメ』はアサヒがスポンサーなので、お店ではスーパードライのグラスに並々と白い泡と黄金色のビールが注がれて出てきちゃう。もう絶対美味しいやつ。もう絶対美味しいやつ(2回目)。2時間ビールのことを考えながら歩いたのに、そのビールが美味しくないはずないじゃないですか……!
それはビールに口をつけた出演者たちの表情からもビンビンに伝わってくる。腹の底からの「プハ~ッ!」がそこにある。それまでどちらかというと動の春日・静の川島だったのに、ビールをひと口飲んだあとのリアクションは川島のほうがひときわ大きいのだ。目をひんむいての「うまぁぁぁぁ!」が本当に美味しそう。
そこにハンバーグや牛タンが加わるのだから、これ以上なにを望むというのか。どんなに言葉を尽くすより、2時間歩いた人が食べる表情のほうが雄弁だ。声にならない声をあげながら、肉とビールを染み渡らせている姿の、なんと幸福なことだろう。
この番組の放送時間は日曜日の18時30分から。本当にお腹が空く時間帯にこんなもの見せられたら、いてもたってもいられない。今すぐ2時間歩いてベスコンになりたい。忘年会の会場まで2時間歩いたっていい。この冬、どこかでベスコンになれないかとタイミングをうかがっています。
文/井上マサキ(いのうえ・まさき)
1975年 宮城県石巻市生まれ。神奈川県在住。二児の父。大学卒業後、大手SIerにてシステムエンジニアとして勤務。ブログ執筆などを経て、2015年よりフリーランスのライターに。企業広報やWebメディアなどで執筆するかたわら、「路線図マニア」としてメディアにも出演。著書に『日本の路線図』(三才ブックス)、『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』(ダイヤモンド社)など。