葬儀の最前線 ”火葬場待ち”が深刻化する中、注目の「安置ホテル」を専門家が解説
「人口動態統計速報」(厚生労働省・10月25日発表)によると、2022年1~8月の死亡者数は103万430人で、昨年の同期間より7万人以上増えている。「多死社会」が加速する一方、住宅事情の変化で自宅での一時安置が難しくなり、火葬場待ちの状況が深刻な地域も。そんな”火葬難民”に向けた新たなサービスについて、専門家に聞いた。
火葬場不足で1週間待ちというケースも
ここ数年、「火葬難民」などといわれるほど、火葬場待ちの状況が深刻な地域もある。
創業89年の『佐藤葬祭』(東京都世田谷区)代表で、「葬儀葬式ch」を運営する佐藤信顕さんは、遺体安置を巡る事情についてこう語る。
「確かに東京や横浜は火葬場の数が不足しており、1週間も待たなければならないケースがあります。また、かつては亡くなると自宅に安置するのが一般的でしたが、住宅事情の変化で自宅での一時安置が難しくなっているため、葬儀場などにある安置施設を利用する人が増えています」
ゆっくりお別れが出来る安置ホテルが人気
とはいえ、葬儀や火葬までの間、遺体安置施設に故人をひとりにするのは忍びないと考える人も多い。
「単なる保管にとどまらず、故人と遺族が一緒に過ごせる施設のニーズが高まっています。24時間いつでも面会できたり、同じ部屋で家族が付き添い、仮眠できたり。火葬までの間、故人と過ごす時間と空間を大切に考える人が増えています」
と、話すのは葬儀・お墓・終活ビジネスコンサルタントの吉川美津子さん。
『ラステル新横浜』(神奈川県横浜市)もその1つで、「故人があの世に旅立つ前に過ごす“ラストホテル”」がコンセプトになっている。
運営している『ニチリョク』常務取締役・尾上正幸さんは、次のように話す。
「一般のホテルのようにフロントがあり、手続きをすれば24時間いつでもご遺体と面会可能です。ご安置期間もできる限り故人と一緒にいたいというかたのために、ダイニングキッチンやリビングルームのある個室もご用意しています。個室で故人さまの好きな料理を作り、親族の皆さんで会食をされるかたがたもいらっしゃいます。
一般葬の場合は、参列者からお悔やみの言葉をかけられることが遺族の癒しにつながりますが、このような家族葬では、ご遺族が故人の死を時間をかけて受け入れることが大切です。最後の家族旅行に出かけるように、個室を利用し“長いお別れ”を慈しんでいただければと思います」
安置後は、家族だけで火葬式を行うことも、施設内のホールを利用して家族葬や一般葬を行うこともできるという。
旅立ち前のひとときを過ごすラストホテル
地上9階地下1階の建物の中に24時間利用できる安置・面会室6室、安置から出棺まで貸し切り利用できる個室面会室1室、4つの式場を備えた家族葬・直葬の館。
■ラステル新横浜
住所:神奈川県横浜市港北区新横浜2-15-19
料金:安置料1万1000円/1日、ドライアイス1万1000円/1日、寝台車お迎え(20km)3万9600円、棺13万2000円、白木位牌5500円、霊柩車(20km)5万9400円、骨壺セット1万3270円など。 火葬式(親族のみの葬儀・火葬)3泊4日の参考価格:27万9070円(会員25万4463円)
「故人と一緒」を大切にする家族のための滞在施設
安置期間中に故人と家族が同じ部屋でともに過ごせる滞在施設はほかにもある。『想送庵カノン』(東京都葛飾区)もその1つだ。
代表の三村麻子さんは、2016年に子供を亡くした際、葬儀までの5日間、遺体を自宅に安置した経験を持つ。
「夜は隣で眠り、日中は同級生らが次々とお別れに来てくれて、一緒に思い出話をしながら過ごしました。このことがきっかけで、安置する時間を大切にする施設を作りたいと思ったんです。遺族にとっての弔いは、葬儀などの儀式の時間だけではありません。看取ってからのすべての時間が大切なのです。大切な人の顔を見ていたいと思うのは当たり前のこと。お骨になってしまうまでの短い時間をともに過ごし、心のままに語り合うことは、とても必要な時間だと実感しています」(三村さん・以下同)
コロナ禍には、次のようなケースもあったという。
「コロナで亡くなったおばあさまを見送る前に一緒の時間を過ごせないかと、お孫さんから相談を受けました。感染症で亡くなられた場合もきちんと遺体衛生処置管理を行えば、同室での面会や宿泊が可能です。おばあさまは入院後、家族と会えないまま亡くなったそうですが、火葬までの2日間を家族が集まって過ごし、そのままお部屋で家族葬を行うことができて、皆さん喜んでおられました」
そのほか、棺に横たわる子供の顔を一晩中、撫でて過ごした弔いや、親しい友人たちが思い出の音楽をかけて夜通し語り合ったり、お酒が好きだった父を囲んで宴会のように過ごすなど、笑顔あふれる見送りもあったという。
「慌ただしい儀式が終わり、喪失感で悲しみから抜け出せないこともあるでしょう。儀式の時間は短くても、『安置』の間に長いお別れをすることは、故人と最後に過ごす宝物のような時間になると思います」
故人に寄り添って宿泊、安置葬ができる
出棺までの安置の期間に故人と家族が滞在できる施設で、20名まで安置可能。営業時間内に1日2回各30分面会できる「アネックス(冷蔵安置室)と面会室」3室に加え、同じ部屋で宿泊&家族葬ができる個室安置室は、30m2の「スタジオ(洋室・和室)」から150 m2の「カノンルーム」まで8部屋。無料のシャワールームも。
■想送庵カノン
住所:東京都葛飾区立石8-41-8
料金:スタジオ(洋室・和室) 7万7000円/15時~翌日14時まで、4万9500円/3時間の利用(営業時間内)寝具:3300円/1組、4名以上の夜間滞在は夜間使用料:2200円/1人。 アネックス(冷蔵安置室)と面会室 1万1000円/24時間毎(損傷遺体や感染症遺体など特別な対応が必要な場合は1万6500円/24時間毎)
教えてくれた人
佐藤信顕さん/佐藤葬祭・代表 https://satousousai.com/、吉川美津子さん/葬儀・お墓・終活ビジネスコンサルタント、尾上正幸さん/ニチリョク・常務取締役 https://lastel.jp/、三村麻子さん/想送庵カノン・代表 https://www.tokyo-kanon.com/index
取材・文/山下和恵
※女性セブン2022年12月1日号
https://josei7.com/
●「小さな葬儀」が急増!コンビニ跡地に立つ小規模の葬儀場のメリットを専門家が解説