【介護の戦友】松本方哉さん、車椅子の妻を介護
妻が2007年11月にくも膜下出血で倒れた、フジテレビ解説委員の松本方哉さん。松本さんは2003年から『ニュースJAPAN』のアンカーマンを務めていたが、妻の介護に専念するため、2009年に番組を離れている。現在は解説委員ではあるが、現実には介護で手一杯の生活を送っているという。そんな松本さんの生活を支えたのが、「車椅子の妻との買い物を快適にした2本のS字フック」だ。松本さんが介護グッズを語る。
* * *
私の妻は07年11月にくも膜下出血で倒れました。幸い一命をとりとめましたが、重い後遺症が残りました。
左半身に麻痺を負ったうえ、脳に損傷を受けたことで記憶や行動、情緒など複数の機能が阻害される高次脳機能障害を発症したんです。会話は普通にできますが、昔のことは覚えているのについさっきのことを忘れてしまったり、半側空間無視といって左側の空間が見えていても無視してしまう症状が現われています。洗濯も掃除も買い物も入浴も1人では難しいため、医師・看護師やヘルパーさんの手を借りながら、18歳になった息子と今も2人で協力して介護しています。
2003年から『ニュースJAPAN』のアンカーマンを務めていましたが、妻の介護に専念するため、2009年に番組を離れました。現在は解説委員ではありますが、現実には介護で手一杯の生活で、刀が錆(さ)びないように国際安全保障問題や医療介護分野の勉強を続けています。
病院でのリハビリの帰りなどに、妻の車椅子を押して買い物に行きます。スーパーでまとめ買いすることが多く、大きなビニール袋を2つ、車椅子のハンドルにぶら下げるのですが、車輪に引っかかって破れたり絡まったり。どうしたものかと困っている時に思いついたのがS字フックです。ハンドルにS字フックを引っかけてビニール袋を提げると車輪から距離ができるのでちょうどいいんです。外出時は2個必ず持っています。
妻は食事の際、箸を持つ右手しか使えないので、食器を押さえて食べることができません。そこで重宝するのが吸盤です。テーブルに固定すれば、食器をひっくり返してしまうことはありません。食器が滑らない粘着シートも便利です。
食事では髪留めも欠かせません。妻は左側の空間を認知しにくいため、スープを飲む時に左側の髪の毛が皿の中に入っても気づかない。女子高生が使うようなパッチン留めで左側の髪をまとめてあげるとその心配はありません。
リーチャー(マジックハンド)も妻の必需品です。妻はしゃがむのが困難なので、床に物を落としたら拾い上げるのにひと苦労します。でもリーチャーさえあれば、右手で操作して簡単に拾える。約1mと約60cmの2本を使い分けています。
介護グッズは介護の負担を緩和してくれますが、市販されている商品の多くは使いにくい。メーカーは不特定多数にとって便利なグッズを作ろうとしているのでしょうが、それゆえ一人ひとりの症状の「違い」を考慮していないことが多い。細かい配慮が行き届いていないと感じます。
10年後の2025年、日本は50歳以上と50歳以下の人口がほぼ同数になる超高齢化社会を迎えます。端的に言えば1人の赤ん坊が、50歳以上の大人を1人背負わないといけない。加えて介護ヘルパーが約30万人も不足する事態に直面します。介護現場のイノベーションは日本にとって避けて通れない喫緊の課題です。
介護グッズ開発でそうした動きはすでに始まっています。母校の上智大学理工学部では、部屋の天井に設置して人間の体温で行動を感知するセンサーや、座るだけで体調の変化を感知して遠隔地に知らせるセンサー付き座布団を開発中の研究室があります。在宅介護を下支えするうえで重要な介護グッズになると期待しています。
※週刊ポスト2015年4月24日号