【介護の戦友】新田恵利さんは、介護ベッドにひと工夫
政府は在宅介護を推進するが、仕事と介護の両立に四苦八苦している人は多い。そんな疲弊する介護現場で活躍するのが、アイデアと技術力の結晶である介護グッズだ。著名人に「介護の戦友」を聞いた。タレント・新田恵利の場合、「骨折で寝たきりになった母の楽しみが詰まったベッド脇のカゴ」だった。
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昨年9月に、当時85歳だった母が入院しました。私が舞台公演で留守の間に、自宅で圧迫骨折したんです。20年ほど前に骨粗鬆症と診断され、これまでも4~5回は骨折していました。
最初の頃の骨折は重い物を持ち上げた衝撃などが原因でしたが、80歳を過ぎると普段の生活の中で突然折れてしまうようになったんです。今回もこれといった原因はなく、しばらく絶対安静にしていれば痛みが消えた頃には普通の生活に戻れると信じていましたが、今回は戻れなかった。要介護4と判定されて、現在も母は自宅で寝たきりの状態です。
それから半年が経ち、介護生活にも徐々に慣れてきました。私が使っている介護グッズは、あれです、あのひょうたん型の…あ、「うがい受け」ですか? 介護グッズって、名前がわからないものが多い。家で使っているうがい受けは兄が見つけてきたんですが、買うまでは兄妹で「これ、こんなやつ」ってジェスチャー大会ですよ(笑い)。いざ介護が始まっても、どこで何を買っていいかもわからなくて戸惑いました。
介護用ベッドが届いてすぐ使い始めたのが、ベッド脇のカゴです。母からのリクエストがきっかけで、100円ショップで買いました。電話の子機と、照明とテレビのリモコンの3点セットが必ず入っています。母はNHKラジオが大好きなので、愛用のAMラジオや新聞を読むためのメガネなども入っています。
家族がベッドの左側を通るので、邪魔にならない右側の柵部分に結束バンドで固定しています。フックも試したんですが、揺れて扱いにくい。使いながら今のスタイルに落ち着きました。
食事の時にはピンクのタオルをエプロン代わりに使っています。母が骨折した時に私が出ていた舞台の題名をプリントして配ったものです。肩にかけ、胸元でV字に折り返して使います。
食事用のエプロンを買おうと思っていたんです。でも、母が気に入るものがなくて。使い捨てエプロンは無地や無色透明だし、病院で使うタイプはいかにも介護用品といった印象が強い。母は認知症ではないからそのあたりはこだわります。
訪問入浴のサービスを受けているのですが、その時に母は顔のピーリングをしているんです。今朝も、「恵利ちゃん、そろそろピーリングの化粧品がなくなるんだけど」なんて(笑い)。そんな母なので“ザ・介護用”というグッズは、入院していれば割り切って使えても、自宅で使うとなるとちょっと……。タオルは毎回新しいものに替えられるし、そのまま口も拭けるので、母も「いいわね」と気に入ってくれています。
寝たきりになっただけで体は元気なので、すぐにでも立てる気がするらしいんです。でも立てないから悔しくて涙を流す。寝ていたら、目にする世界が変わらなくて、退屈するみたい。だから春になって明るい色のかけ布団を出しただけで、すごく喜びます。気分がリフレッシュされるんですって。
そんな姿をみると、私も嬉しくなります。食事用のエプロンは、母の好みに合わせて手作りするつもりです。介護には必ず終わりが来ますが、それがいつかはわからない。先が見えないのに頑張るのはしんどいですよね。身近なグッズで家族が笑顔になることで、寄り添う私たちも一緒に笑顔になれるのかな、と感じています。
※週刊ポスト2015年4月24日号
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