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実はすでに売れっ子だった!「全員集合前夜のドリフ」を高木ブーが語り尽くす|連載 第79回 

「ドリフは『全員集合』の印象が強いだろうけど、その前からいろんなテレビ番組に出てたんだよね」と高木ブーさん。60歳より下の世代にとって、ドリフとの出会いといえば、圧倒的に「8時だョ!全員集合」である。しかし、それ以前からドリフはお茶の間を沸かせていた。知られざる「全員集合前夜のドリフ」について高木さんが語る。(聞き手・石原壮一郎)

ドリフは、ジャズ喫茶では引っ張りだこ。演芸番組でも人気を集めていた

「8時だョ!全員集合」って番組は、ドリフターズの代名詞みたいになってる。16年も続いたし視聴率もすごかったからね。「ドリフ大爆笑」も長くやってた人気番組だし、僕にとっては雷様という当たり役が生まれた大事な場所でもある。ただ、ドリフの番組をひとつだけあげるとしたら、やっぱり「全員集合」になっちゃうよね。

「全員集合」が始まったのは、1969(昭和44)年の10月。仲本(工事)が加わって、新生ドリフターズが誕生したのが1965年の1月。その間に5年近くあるわけだけど、けっして“下積み”だったわけじゃない。ジャズ喫茶では引っ張りだこだったし、テレビのレギュラー番組も何本ずつかはあったしね。

 僕が入る前の話だけど、ドリフが最初にレギュラーで出た番組は「味の素ホイホイ・ミュージック・スクール」だった。突然、メンバーがまとめて抜けちゃったんだけど、番組に穴はあけられない。長さん(いかりや長介)たちがあわてて代わりのメンバーを集めて、1964年の秋に僕や荒井(注)さんが入ることになった。

 だから僕は、ドリフに入った瞬間からレギュラー番組があったことになる。ドリフの役目は、新人のオーディションコーナーのバックバンド。加藤(茶)がちょび髭をつけて「カトちゃん、ペッ」ってやったのは、この番組が最初だった。限られた時間で何とかドリフならではの笑いを取れないものかと、長さんと番組のスタッフが頭をひねったらしい。

 1965年の秋には「歌え!一億」って歌謡番組が始まった。人気絶頂の伊東ゆかりさんとドリフが司会という大きい仕事だったんだけど、あんまり視聴率がよくなかったみたい。何カ月か放送して、局の偉い人やスポンサーの人たちと出演者で、内容を練り直す会議をやることになった。

 ドリフとしては肩身が狭い状況だよね。まずは放送を見てみようということで、みんなそろって暗い試写室に入った。そしたら、そこで僕がい大びきをかいて寝ちゃったらしい。局の人もスポンサーも激怒して、番組は打ち切りになった。長さんの自伝『だめだこりゃ』にも書いてあるから、たぶんそういうことだったんだろうと思う。でも正直に言うと、よく覚えてないんだよね。

 そんな失敗もあったけど、その後も「あなた出番です!」(1966~1969年)とか「ドリフターズドン!」(1967年)とか、いろんな番組に出た。ビートルズの日本公演の前座をやったのは1966年の夏かな。「いい湯だな」や「ミヨちゃん」のレコードが出たのも、「全員集合」が始まる前だったんだよね。

 お笑いのバンドとしてのドリフを広く知ってもらったのは、当時大ブームだったテレビの演芸番組だったと思う。その頃は「ボーイズ物」っていって、楽器を持ってグループでしゃべるスタイルが人気だった。ドリフがやっていることは、それとはちょっと違う。番組のスタッフにも視聴者にも、新鮮に映ったんじゃないかな。

 新生ドリフがスタートしたばかりの頃、歌やお笑いで10週勝ち抜きを目指す番組があった。それにドリフが出て、いつもジャズ喫茶で披露しているギャグやコントをやったら大ウケして、あれよあれよという間に10週勝ち抜いちゃったんだよね。ジャズ喫茶の場数は踏んでたからネタには困らなかったけど、テレビ番組でも結果を出せたのはメンバーにとって大きな自信になったと思う。

 牧伸二さんの司会で大人気だった「大正テレビ寄席」にも、何度か出ている。当時のお笑いタレントや芸人はこれに出るのが憧れだったんだから、僕が言うのも何だけど、ドリフターズの笑いは業界内でもお茶の間でも、ちゃんと評価されてたってことだよね。まあ、僕は長さんに言われたとおりに、あっちに走ったりこっちで転んだりしてただけだけど。

 そんな流れがあって、TBSから「全員集合」をやってみないかって声がかかった。大抜擢ではあったけど、まったく無名のグループに土曜日夜8時の番組を持たせようとは思わないよね。長さんとしては「もし失敗したらドリフはおしまいになる……」って、ずいぶん悩んだみたい。裏番組は人気絶頂のコント55号や巨人戦のナイターだったしね。

 長さんは、最後は「公開生放送でやる」っていうところに魅力を感じて「やってやろうじゃないか」と決断した。このへんの話はあとから知ったことだけどね。長さんは迷ったからって、メンバーに相談するタイプじゃない。ひとりで背負って、先頭に立ってみんなを引っ張っていく。そして結果的に番組を大成功させたんだから、つくづくすごい人だよ。

ブーさんからのひと言

「公開生放送で16年続けた『全員集合』は、いろんな意味ですごい番組だった。ドリフの歴史を話すことってなかなかないから、今回はいろいろと思い出せていい機会でした」

高木ブー(たかぎ・ぶー)

1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1964年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『Hawaiian Christmas』『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』『Life is Boo-tiful ~高木ブーベストコレクション』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。YouTube「【Aloha】高木ブー家を覗いてみよう」(イザワオフィス公式チャンネル内)も大好評。2021年6月に初めての画集『高木ブー画集 ドリフターズとともに』(ワニ・プラス)を上梓。毎月1回土曜日20時からニコニコ生放送で、ドリフの3人とももクロらが共演する「もリフのじかんチャンネル ~ももいろクローバーZ×ザ・ドリフターズ~」が放送中。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」が好評発売中。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。

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