比叡山大阿闍梨・光永圓道師の教え「正しい姿勢」と「美しい所作」は自分自身を大切にするために
仏教の世界では一に掃除、二に看経(お勤め)、三に学問というように、掃除が一番重要視されている。難行苦行を重ねた僧侶である比叡山大阿闍梨(ひえいざんだいあじゃり)・光永圓道(みつながえんどう)さんは掃除をする上で大切なことは「正しい姿勢」と「正しい所作」だと教えてくれた。掃除の姿勢? 所作? それはどういう事なのか、詳しい話を聞いていこう。
美しい姿勢と所作は目的ではなく結果です
僧侶の背筋はピンと伸びています。仏さまや皆さまに対しているのだから、それが礼儀なのだとお考えになるでしょうか。本当は、それだけが理由ではないのです。指先まで意識が行き渡った状態で美しい姿勢を保つ行為は、日常において皆さんの身体を守ってくれます。
たとえば掃除機をかけるとき、どちらかの足を前に踏み出すのが面倒になって、両足を揃えたまま片手を伸ばすとしましょう。これは結果的に、腰痛の原因になってしまうこともあります。
美しい所作とはパフォーマンスではなく、合理性です。千日回峰行で、身体を痛めることなく毎日歩き続けるためには、あごを引いて背筋を伸ばさねばなりません。両膝を交互に派手に上げるのではなく、低くスムーズに地面と平行に動かす。美しさは目的ではなく、結果なのです。これは掃除をはじめとした日常の所作についても変わりません。
他人の視線ではなく、あなた自身の身体を大切にするために、合理的な動きの形を身につけてください。
阿闍梨の教え:立ち姿勢
お尻に力を入れ、背筋を伸ばす
「気をつけ」のポーズをとり、かかと同士をつける。お尻をキュッと締めると背筋は自然と伸びる。
足を開く角度は拳1個分。天台宗では、手に何も持っていなければ、左手が上で右手が下にして手を組み、親指は入れて指を揃えて、みぞおちにつける(叉手(さしゅ))。
あごは引くこと。これが基本姿勢となる。
座る際には右足をひいて腰を落とす。
阿闍梨の教え:座り姿勢
あごを引いて、目線は正面からそらさない
立ち姿勢と同様に背筋をしっかりと伸ばすこと。
体を動かすベースは腰にあるため、意識を集中させ、上半身をしっかりと腰で支える。
お辞儀をするときにも腰からしっかりと曲げること。それができていれば大きな動作がなくとも所作が美しくなる。
阿闍梨の教え:掃く
ほうきはしっかりと立て、しならせない
体の正面でまっすぐにほうきを持ち、腰から上半身を動かして左右に掃く。その際にほうきの先端はまっすぐに立たせること。目地などに向きを合わせ立たせたまま静かに動かす。
【NG】ほうきをしならせると、ほこりやゴミが飛散し、かえって掃除の手間が増えてしまう。
阿闍梨の教え:拭く
一直線に姿勢を正せば余計な力は必要なし
立ち姿勢と同様に背筋はしっかりと伸ばし、頭からお尻までが一直線になるように。
均等に力が行き渡るよう、両手の指は開いて、両手の親指をくっつけるように置く。腕の力だけでなく、腰から体を動かし上半身の力で拭くことを心がける。
【NG】背中が曲がり、両手の間に隙間ができると、余計な力が必要となり疲れてしまうことに。
阿闍梨の教え:動かす
上半身は常にまっすぐに正したままで
床に落ちているものを拾うとき、家具などを持ち上げて動かすときも動作の起点は腰。上半身だけを曲げてものをとる動作を繰り返すと腰を痛めることにもなるため、上半身はまっすぐに正したまま膝を曲げて低い姿勢をとることで美しく疲れのない動作が生まれる。
教えてくれた人
光永圓道さん
覚性律庵 住職/比叡山麓 覚性律庵 滋賀県大津市仰木4-36-20
撮影/黒石あみ(本誌)
●比叡山大阿闍梨・光永圓道師が説く”掃除”の極意「毎日の掃除は良く生きるための儀式」