ふくらはぎヤセ&転倒防止のための足指トレーニング「すねの筋肉を鍛えるのが重要」医師解説
「ふくらはぎが太い」と悩んでいる人には、つまづきやすい傾向はないだろうか?健康のため、むくみのない美脚のために「ふくらはぎ」の筋肉を鍛えることは大事だが、やみくもに鍛えるのは逆効果かも。ふくらはぎの筋肉を効果的に鍛える方法や注意ポイントについて、整形外科医やスポーツインストラクターに取材。ふくらはぎをすっきりさせて、転倒防止にもなる足指のトレーニング方法を解説する。
「ふくらはぎの筋肉は不要」は本当?
筋肉の約70%は下半身に集中しているといわれる。運動不足や筋力の低下を解消するには、上半身より下半身を鍛えることがいまや常識だ。特に、足先にたまった血液を心臓へと戻すポンプのような役割を果たす「ふくらはぎ」の筋肉は、「第二の心臓」と呼ばれている。足首がむくんだ寸胴な“ゾウ足”を解消するには何が本当に有効なのだろう。
増本整形外科クリニック院長の増本項さんは、健康的に長生きするためにも下半身の筋肉を鍛えることを推奨する。
「体の組織が必要とする酸素や栄養分は、血液によって全身に運搬されます。末梢の細胞への血液は毛細血管が発達しているほど運搬されやすく、また、老廃物の回収もしやすくなります。20代と比べ、高齢者では毛細血管が4割近く減少するという報告もありますが、運動することで増やすことが可能です。毛細血管が発達すると血液が足先の方にもたくさん流れ込むようになるため、余計にむくみやすくなるのではと思うかもしれませんが、心臓への送り返しがスムーズになるための血管も増えるので、むくみの改善につながります。さらに、筋肉がつくと基礎代謝が上がり、脂肪も燃焼されやすくなります」
むくみ解消にも、ダイエットにも効果的とされる“脚”の筋肉だが、若い女性の間では「ふくらはぎの筋肉は不要」とする声がある。都内在住の30代の女性はこう話す。
「ヒップアップのために下半身の筋トレを始め、普段から階段を使ったり、なるべく歩くように心がけていたのですが、思いがけずふくらはぎの筋肉が大きく盛り上がってしまって…。私はO脚ぎみなので、ふくらはぎの筋肉が張ると脚がゆがんで見えるのも悩みです。膝下がスラッとしている人は、ふくらはぎに筋肉の張りがない。美容クリニックでボトックス注射を打つか迷っています」
ボトックス注射は、ボツリヌス菌が作り出す天然のたんぱく質を薬剤として利用し、筋肉の働きを弱めることができる。発達したふくらはぎの筋肉に注入することで、ほっそりした脚になれると人気の施術だ。しかし、数万円と高額な施術で、持続期間は半年程度とされる。
「一時的に筋肉をヤセさせても、生活が変わらなければ必ず元に戻ります。保険も適用されないので、おすすめはできません」(増本さん)
スタジオリーフのピラティスインストラクター・miyukiさんは、マッサージも一時的だと続ける。
「マッサージを受けた直後はすっきりして気持ちいいですが、姿勢や生活習慣が変わらなければ、また翌日から疲労が蓄積して脚は太くなります。世の中にはさまざまな体のケア方法がありますが、最も手っ取り早いのは“姿勢”の改善です」
ふくらはぎが太い人の姿勢には、ある特徴がある。
つまずきやすい人はふくらはぎが太い
「ふくらはぎが太い」と悩んでいる人は、何もないところや、ちょっとした段差でつまずきやすい傾向はないだろうか。これは、「すね」の筋肉が弱っている可能性が大きい。
「“美脚トレーニング”というと、太ももやふくらはぎの筋肉が注目されやすいですが、お腹と背中の筋肉が助け合って姿勢を保持しているように、正しく歩いたり、安定して立つためには“すね”と“ふくらはぎ”の筋肉がバランスよくついていることが大切です。
『前脛骨筋(ぜいけいこつきん)』というすねの骨の外側にある筋肉が弱っている人は、つま先が浮いた状態になっていて、歩くときに地面をしっかり蹴ることができない。前脛骨筋はつま先で地面を蹴ることで強くなるので、そのままではますます弱くなります。すると、下腿三頭筋(かたいさんとうきん)というふくらはぎの筋肉に必要以上に力が入り、肥大化する原因になります」(miyukiさん・以下同)
すねの筋肉を使って歩くためには、履き物も重要なポイントだ。
「歩くときに膝が曲がりっぱなしの人、前のめりで歩く人もふくらはぎに負担がかかりやすい。ヒールを履くとそれがダブルで起こります。夏場はサンダルを履く人も多いですが、かかとがパカパカするものは地面をうまく蹴れず、ふくらはぎの筋肉に負担をかけています」
転倒防止に「すね」を鍛えるトレーニングを
すねの筋肉を鍛えるため、miyukiさんは“足指”の運動をすすめる(下図)。
「指を1本1本バラバラに動かせるなら、そもそも、すねの筋肉が強いと思って大丈夫。できない人は、指を動かしているうちに足の甲や足の裏の筋肉も強くなり、重心のバランスを取りやすくなります」
★ふくらはぎヤセ、転倒防止にも! 「すね」を鍛える足指トレーニング
まずは親指のつけ根「母趾球」、小指のつけ根「小趾球」、かかとに均等に重心を乗せて立つ。転倒しそうな人は壁などに手をついて行おう。
【1】小指から順に1本ずつ床に下ろす
母趾球、小趾球、かかとを床につけたまま、両足の足指をすべて浮かせ、小指から親指まで1本ずつ順番に床に下ろす。5回繰り返す。
【2】親指のみ上げ下げする
母趾球、小趾球、かかとを床につけたまま、両足の親指だけ浮かせて下ろす。親指以外の4本は床につけて浮かさないこと。
【3】親指以外の4本を上げ下げする
【2】とは逆に親指だけ床につけ、残りの4本の指を浮かせる。下ろすときは小指から1本ずつ下ろす。【2】~【3】を1セットで5回繰り返す。
【4】左右交互につま先を上げ下げする
かかとは床につけ、片足のつま先を上げる。下ろしたら、反対のつま先を上げる。できそうならスピードアップして10セット繰り返す。
ふくらはぎ”部分ヤセ”は可能?
筋肉肥大のほか、ふくらはぎを太くする原因は「脂肪」に起因することが大きい。ただし、「部分ヤセ」は難しい。
「脂肪はつきやすいところからつき、いらない部分から落ちていく。狙った部位を優先して消費するのは医学的には困難とされています」(増本さん・以下同)
“ふくらはぎにラップを巻く”といった部分ヤセの方法は、汗をかくだけで残念ながら効果が期待できそうにない。また、筋肉には収縮速度の速い「速筋(そっきん)」と、速度が遅い「遅筋(ちきん)」があり、どちらを鍛えるかによってふくらはぎの太さが変わってくる。
「ハードな筋トレで主に鍛えられるのが速筋ですが、速筋は太くなりやすい。ヤセたくて筋トレをしたら脚が太くなったという人は、軽度のランニングやウオーキングなどの有酸素運動がいい。遅筋を中心に鍛えられるため、ふくらはぎをあまり太くせずダイエットが可能です」
ふくらはぎを美しくしたいなら足裏をもむ
立ち仕事や運動の後、ふくらはぎにだるさやむくみを感じることもある。その際はマッサージをするのも悪くないが、「部分ヤセ」同様、ふくらはぎをピンポイントでもんでも不充分だ。
「体は全身つながっているので、部位ごとに考えてはいけません。腰痛の原因が、実は太ももの裏側の筋肉疲労だったということもあります。足裏からふくらはぎ、さらに背中まで筋膜はつながっているので、ふくらはぎを美しくしたい場合は優先的に足裏をもみましょう。ふくらはぎをいくらほぐしても、足裏が硬いとすぐに元に戻ります」(miyukiさん)
筋力の低下もむくみの原因だが、運動不足の中高年は「テニスレッグ」と呼ばれるふくらはぎの肉離れを起こしやすいので注意が必要だ。
「肉離れの原因は完全に解明されていませんが、そもそも肉離れは筋力が強くなければ起こりません。にもかかわらず運動不足の中高年が『テニスレッグ』になるのは、筋肉をコントロールする神経と筋肉の連動(協調運動)がうまくいかず、チグハグに筋肉が動いて過剰な負荷がかかってしまうからです」(増本さん・以下同)
テニスレッグは完治までに約1か月もかかる。
「運動の前後はもちろん、できれば1日1回、5分程度でもいいのでストレッチを行いましょう。また、静脈瘤が原因で血行不良を起こしてむくんでいる場合は、血管外科で適切な治療を受けて」
健康のためにも、むくみのない美脚になるためにも、ふくらはぎの筋肉は必要不可欠。やみくもに鍛えるのは逆効果になることも肝に銘じたい。
教えてくれた人
増本項さん/増本整形外科クリニック院長、miyukiさん/スタジオリーフ・ピラティスインストラクター
イラスト/あべゆきこ 写真/PIXTA
※女性セブン2022年8月4日号
https://josei7.com/