首こりでうつに?実は怖い「頚筋うつ」首が軽くなるネックリラクゼーションのやり方を医師が解説
「体がだるくて起きられない」「何もする気になれない」。急に暑くなって体も心もついていけない。しかしその不調、「首のこり」が原因だと知る人は少ないだろう。そのまま放っておくと、取り返しのつかないことになりかねない「頚筋うつ」という知られざる病とは――。
気分が落ち込むのは“首のこり”が原因かも
千葉県在住の高岡麻子さん(49才・仮名)は頭を悩ませる。
「ここ数年、強いだるさに襲われます。とはいえ、やらなければならないことが多いのでがまんして家事をしていますが、そのうち激しく気分が落ち込んでしまい、寝込むことも。更年期障害を疑って婦人科を受診しましたが、ホルモン検査には異常がなく、うつ病の薬を処方されました。でも、一向に症状がよくなっている気がしません」
高岡さんのように梅雨から初夏にかけ、全身倦怠感や気分が落ち込むという症状に悩む人が増える。その原因のほとんどが「首のこりにある」と断言するのは、東京脳神経センター理事長で脳神経外科医の松井孝嘉さんだ。
「この病気は先に倦怠感が出て、その後にうつ症状が表れるのが特徴です。現代のうつの95%は首のこりが原因で起きており、特に気圧の変動が激しい6月からの数か月は症状が表れやすく、だるさを訴えて受診する人が増える時期です」(松井さん・以下同)
倦怠感やうつのほかにも、めまいや頭痛、ドライアイ、ドライマウス、線維筋痛症などと診断された人も首こりが原因である可能性が高い。
「私が大学病院に勤務していた頃、不定愁訴(ふていしゅうそ)といって、なんとなく全身の体調が悪いけれど原因がわからないという人が多数来院しました。しかし、そのときは有効な治療法がなかった。なんとか原因を解明しようと、診察と研究を重ねたところ、“首のこり”が原因であることを突き止めたのです」
松井さんは首のこりによる「うつ病」を「頚筋うつ」と呼ぶ。だが、なぜ首のこりで気分が落ち込むのか。
「首は脳と全身をつなぐ重要なパイプラインですが、細くて弱い。また、首は頚椎や気道、食道のほか自律神経が密集している繊細な部位で、首の筋肉がこると、副交感神経が働かなくなる。特に女性は筋肉がか細いのに頭の重さは男性と変わらないので、首こりになる傾向が強いのです」
松井さんによれば、首にこりがあるとリラックスしたときに優位になるはずの副交感神経の働きが悪くなるという。その結果、自律神経のバランスを崩してしまい、自律神経失調症の状態に近づく。
「重症化すれば、血圧が不安定になって脳卒中や心筋梗塞を引き起こし、命を落としかねません。さらにはこの頚筋うつがきっかけで自ら命を絶つ人も少なくありません」
精神疾患のうつ病に比べ自殺リスクは5倍も高い
いま、うつ病やうつ状態の人は増加している。OECD(経済協力開発機構)の国際調査によれば、日本でうつ病やうつ状態を訴える人の割合は2013年には7.9%だったが、2020年には17.3%と2倍以上になっている。
しかし、精神疾患のうつ病が急に増えたりしないことは、専門家の間では知られていることだと松井さんは言う。
「精神疾患のうつ病は遺伝的要因が大きく、いま、急増しているうつ病は、この精神疾患のうつ病ではありません。これまでの診療の結果によると、95%のうつ病が首こりによるものであり、しかもその数は毎年スマホやパソコンの使いすぎで増えているのです」
頚筋うつと精神疾患のうつ病の鑑別は専門家でも難しいが、見分け方がある。松井さんが続ける。
「精神疾患のうつ病であれば、体をどれだけ調べてもまったく異常が見つからない。また、原因がないにもかかわらず悲しみの感情がわくという特徴があります。
しかし、頚筋うつには、原因のない悲しさといった感情は表れません。また、首の筋肉の後ろ側を中心に異常が出ています。さらに、全身倦怠感を中心とした身体症状が続いた後に、うつ症状が表れるのも頚筋うつの特徴です。問題なのは、ほとんどの医師が頚筋うつについて知らないことです。そのため、医師は不調が精神疾患のうつ病であると誤診し、抗うつ新薬を処方することが多い。しかし、頚筋異常が原因のために、当然、薬の効果はありません。当院を受診した患者さんのほとんどが、前の病院で効果が表れないからと、医師から投薬量を2倍、3倍と増やされていました。いくら薬をのんでも、そもそもまったく別の疾患なので効果は表れない。ところが、薬をのむことで行動力が出てしまうため、かえって自殺の決行につながりやすいのです。こうした間違った治療の悪循環のため、頚筋うつは一般的なうつ病に比べ、5倍もの自殺を引き起こしています」
首こりは自然に治らない要因について、松井さんはこう説明する。
「成人の頭は6kgとボウリングの球ほどの重さがあり、それを細い首で常に支えているので、首こりが起こると首の筋肉のバランスが崩れて、自然には治りません。長い間バランスを崩すと、特定の筋肉だけを使って負担をかけることもある。筋肉は、休みながら使えば半永久的に使えるものですが、休まないとすぐに限界が来てしまうのです」
マッサージやつぼ押しはしてはいけない
怖い首こりだが、首を温めたり、横になって休ませることで、ある程度改善する。そのほか松井さんが理事長を務める東京脳神経センターでは、特殊な低周波を加える治療を受けることができる。
「重症化すると入院になる場合もありますが、指示通りの治療を受けた場合の改善率は98%、治癒率は9割以上にのぼります」
治療を受けた人のなかには、高校時代から15年以上にわたって頭痛や吐き気、食欲不振などに悩まされ、抗うつ薬を服用してきた女性や、自殺未遂を経験した男性がいた。いずれも首のこりをとる治療を受けると、モヤが晴れるかのように症状が軽減したという。
言い換えれば、きちんと首をケアすれば、うつ病をはじめとした諸症状を吹き飛ばすことができるということだ。首こりにならないためには、セルフケアで首を休ませる習慣をつけることも重要だ。
「うつむいた姿勢はまっすぐな姿勢に比べて、3倍ほど首に負担がかかります。仕事でパソコンを使う人も多いでしょうが、どうしてもうつむきがちになるノート型ではなく、デスクトップ型をおすすめします。モニターは目線の高さに置き、うつむかなくてもいい高さにしましょう。スマホや携帯ゲーム機は使わないに越したことはありませんが現代社会ではなかなか難しい。せめて、使用時間を減らしてください。いずれにしても、15分作業したら30秒首を休める『ネックレストタイム』をとることが重要です」
どうしてもスマホ利用や読書をするなら、目線の高さまで上げたり、頭の重さを支えるネックレストのある椅子や背もたれのあるソファに寄りかかれば、首の負担を減らすことができる。
さらに、頭を反らせるだけの「ネックリラクゼーション」も効果的だ。どこでも簡単にできるので、試してみて欲しい。だが、首については「やった方がいいこと」と「絶対にやってはいけないこと」があり、素人判断は禁物だ。
「何より、首は冷やしてはいけません。不調を感じた場合は必ず、温めること。お風呂は半身浴ではなく、全身浴で首までしっかりつかりましょう。風呂上がり後も要注意。首の後ろ側の筋肉が特に重要なので、冷やさないために入浴後はドライヤーですぐに髪を乾かして」
これからの時期は冷房が効くので気をつけたい。
「エアコンで首が冷えないよう、スカーフなど首を守るものを用意しておくことをおすすめします」
首こりと聞くと揉みほぐしたくなるが、マッサージやつぼ押しは厳禁だ。
「首はデリケートな部位ですから、揉んだ直後は改善した気になっても、翌日にはかえって悪くなることが多く、直接揉んではいけません」
正しく首のこりをとって、ジメジメした季節も気分も乗り越えたい。
首が軽くなるネックリラクゼーション
松井さんが教える首が軽くなるネックリラクゼーション。椅子に座ったままでできるので気軽にやってみて。
【1】椅子に深く腰かけて背中を背もたれにつけた状態で、両手を頭の後ろで組む。
【2】頭を首が痛くなる手前までゆっくり後ろに倒していき、30秒維持した後、手で頭を押し上げるようにしながら、元の位置に戻す。
【重症度チェックリスト】あなたの「首こり度」は?
各質問ごとに1つでも□に当てはまれば、数字にチェックをつける。その数により、「首こり度」がわかる。東京脳神経センターの問診票をもとに作成。
【1】□ 頭が痛い □ 頭が重い
【2】□ 首が痛い □ 首が張る
【3】□ 肩がこる □ 肩が重い
【4】□ 風邪をひきやすい □ 風邪気味のことが多い
【5】□ めまいがある □ 天井が回った、外界が回った感じがある
【6】□ フワフワ感がある □ フラフラ感 □ なんとなく不安定
【7】□ 吐き気がある □ 食欲不振 □ 胃痛・不快感 □ 飲み込みにくい
【8】□ 夜、寝つきが悪い □ 夜中、目覚めることが多い
【9】□ 血圧が不安定である □ 血圧が200前後になる
【10】□ 暖かいところに長くいられない □ 寒いところに長くいられない
【11】□ 汗が出やすい □ 汗が出ない
【12】□ 静かにしているのに、急に心臓がどきどきする □ 急に脈が速くなる
【13】目が見えにくい □ 像がぼやける
【14】□ 目が疲れやすい □ 目が痛い
【15】□ まぶしい □ 目を開けていられない
【16】□ 目が乾燥する □ 涙が出すぎる
【17】□ 口がかわく、つばが出ない □ つばが多い
【18】□ 微熱が出る □ 微熱の原因が不明である
【19】□ 下痢をしやすい □ 便秘 □ 腹部症状がある(腹痛など胃腸症状)
【20】□ すぐ横になりたくなる □ 昼間から横になっている
【21】□ 疲れやすい(全身倦怠) □ 全身がだるい
【22】□ 何もする気が起きない □ 意欲または気力がない
【23】□ 天候悪化の前日、症状が強くなる
【24】□ 気分が落ち込む □ 気が滅入りそうだ
【25】□ 1つのことに集中できない
【26】□ わけもなく不安 □ いつも不安感がある
【27】□ イライラしている □ 焦燥感がある
【28】□ 根気がない □ 仕事や勉強を続けられない
【29】□ 頭がのぼせる □ 手足が冷たい □ 手足がしびれる
【30】□ 胸部が痛い □ 胸部圧迫感がある □ 胸がしびれる
1~4個:軽症 5~10個:中症 11個以上:要治療 18個以上:重症 23個以上:最重症
※11個以上の場合は治療の必要があるが、1、2個であっても症状が重い場合は受診した方がよい。
イラスト/飛鳥幸子
※女性セブン2022年7月7・14日号
https://josei7.com/
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