認知症の母の洗濯物にまつわる謎の行動に息子が取った対策 生乾き臭と消えた靴下の行方
岩手・盛岡でひとり暮らしをする認知症の母を、東京から遠距離介護している作家でブロガーのくどひろこと、工藤広伸さん。お母さんには、洗濯をするときに不思議な習慣が…。なぜか乾いていない洗濯物を取り込んでしまうという。今回は「認知症の母と息子の洗濯物をめぐる攻防戦」について執筆いただいた。
2012年から始まった在宅介護は、2022年で10年目に突入しました。今回お話しする洗濯物問題は2013年ぐらいから始まっていて、今もなお継続中です。
母とわたしの間で、どんな洗濯物の争いを繰り広げてきたのでしょうか?
母親のプライドで洗濯する
どんなに認知症が進行していても、母親としてのプライドはしっかり残っています。家族5人分の洗濯を一手に担ってきた母は、今でも洗濯は自分の仕事だと思っています。
しかし、洗剤を入れ忘れたり、洗濯が終わった洗濯物を洗濯機の中に何日も放置したり、尿や便で汚れた下着を下洗いしないまま洗濯したり、尿とりパッドやリハビリパンツを洗濯してしまい、洗濯機の中を吸水ポリマーだらけにしたりしてきました。
わたしが一緒のときは洗濯のやり直しができますが、母1人のときはそのままです。なので最近はヘルパーさんに洗濯をお願いするようになりましたが、ずっと家に居るわけではないので、母が洗濯してしまう日もあります。
母親の役割を果たしたい思いは分かるのですが、どうしても理由が分からない母の洗濯の習慣があります。
乾いていない洗濯物を取り込んでしまう理由
母は十分に乾いていない洗濯物を取り込んで畳み、そのままタンスなどにしまいます。わたしは何も知らずにその服を着て外出し、自分の服のニオイの臭さに驚いた経験があるほどです。
洗濯物がよく乾く夏場は問題ありませんが、他の季節は生乾き臭のする洗濯物にあたることがありました。母もデイサービスなどに臭い服を着て行くことになるので、母の行動をしばらく観察してみました。
すると母は昼食を食べ終わったあとに、必ず洗濯物を取り込む習慣があることが分かりました。そこでお昼を食べ終わったあと、外に干した洗濯物を母の見えないところに移動し、しっかり乾かしてから、母に洗濯物を畳んでもらうようにしたのです。
たまに洗濯物を移動し忘れて、生乾き臭のする服やタオルにあたってしまうこともありますが、対策をしてからはほとんど問題ありません。
また冬場の洗濯は、特に注意が必要です。岩手の冬は寒く、洗濯物を外に干しても乾きません。わが家には乾燥機がないため、エアコンのある居間で室内干しをしたいのですが、母がなぜか嫌がります。
理由を聞いてみると、お客さんが入ってきて洗濯物を見られるのがイヤだから、洗濯物の湿気で天井がシミだらけになるのがイヤだからと言います。
お客さんが来る時間に洗濯物は干しませんし、天井のシミは経年劣化によるものです。しかし、何を言っても母の思い込みは変えられません。
それでも居間以外に洗濯物を乾かす場所がないので、洗濯ハンガーに「動かしちゃダメ!!」と書いた紙を貼りました。もし貼り紙を忘れると、氷点下でも外に干して洗濯物を凍らせてしまったり、エアコンのない寒い部屋に移動したりして、洗濯物が乾きません。
特に冬場の洗濯物の攻防戦はストレスがたまるので、家から10分くらいのところにあるコインランドリーまで洗濯物を持って行って、一気に乾かすこともあります。だいたいの問題は解決したつもりでしたが、新たな洗濯物問題が見つかりました。
洗濯物が行方不明に
母は洗濯物を畳んだあと、自分の洗濯物と息子の洗濯物を分けてくれます。なので、わたしは自分の洗濯物だけを部屋に持って行けばよかったのですが、最近はわたしの洗濯物がなくなります。
家の中を捜索してみると、わたしの洗濯物は母のタンスの中にありました。すべての洗濯物を、タンスに片づけてしまうのです。同じ場所に片づけてくれれば問題ないのですが、場所が一定せず、タンスのすべての引き出しを確認しなければなりません。
最近特に困っているのが、わたしの靴下です。いつも片方だけ見当たらず、わたしの靴下の何足かは片方しかありません。タンスの中をいくら探しても出てこないので、探すのをあきらめたほどです。しかしあることがきっかけで、わたしの靴下が出てきました。
母と一緒にデイサービスの送迎車を待っていた日のことです。外のベンチに座っていた母が、ずるずると下がる靴下を元に戻す動作を繰り返していました。
なんで同じ動作を繰り返すのだろうと思って、母の靴下をよく見ると左右の靴下の色が微妙に違っていました。どちらも黒の同系色だったので、母には分からなかったかもしれません。
出発まで時間があったので、母に色違いの靴下を脱いでもらったところ、どちらもわたしが探していた靴下だったのです。わたしの足のサイズが大きく、母の足に合わなかったため靴下が下がってきたようでした。まさか、わたしの靴下まで履いてしまうとは!
今は、自分の洗濯物は自分で畳むようにして、母には母の洗濯物だけを畳んでもらうようになりました。洗濯物の戦いで疲弊しないよう、介護者としてさらなる工夫が必要になりそうな予感です。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(78歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442。