「下肢静脈瘤」を徹底解説 ブヨブヨ血管・脚のだるさ重さ・睡眠中のこむら返りの原因にも【医師監修】
国内のがん患者数は推計100万人強とされる。だが、その10倍以上もの人が発症していながら、まだ広く知られていない病気がある。知らぬ間に発症・進行し、両脚を鉛のように重くさせる「下肢静脈瘤(りゅう)」―― あなたもすでに、発症しているかもしれない。
下肢静脈瘤は患者数1000万人以上、女性が7割
コロナ前の生活に戻りつつあるが、それでも、リモートワークは新たなスタンダードになり、以前と比べて体を動かす機会は格段に減った。運動不足によるコロナ太りを気にする人は多いが、運動不足やそれによる肥満が招く「下肢静脈瘤」を知らない人は多い。
一度発症したら手術なしに治すのは難しく、放っておくと最悪の場合、皮膚に潰瘍ができるうっ滞性皮膚炎に発展するケースもある。現在、患者は全国に1000万人以上いるという“新たな国民病”だ。40代以上の人に多く、男女比は3:7の割合で、女性に多い。
下肢静脈瘤の治療に特化した目黒外科院長の齋藤陽(あきら)さんによると、下肢静脈瘤は「脚の血液の逆流」だ。
「心臓から送り出された血液は、動脈を通って全身に酸素と栄養を届けます。そうして内臓が動くと、エネルギーを消費した際に老廃物が出ます。この老廃物を含んだ古い血液を回収して心臓に戻すのが静脈で、いわば体の下水道です」(齋藤さん・以下同)
本来、静脈の血液は下から上へ流れる。息を吸うときに血液を吸い上げ、歩いたり脚を動かしたりすることで筋肉がポンプの役割を果たし、重力に逆らって血液を心臓に向かって動かしているのだ。ところが、長時間脚を動かさない状態が続くなどして、血液の流れが悪くなると、静脈がうっ滞して、滞った血液によって引き伸ばされる。
「静脈の血液は重力に逆らって流れていくため、血管内には血液が落ちるのを防ぐための弁があります。この弁は、息を吸ったときや脚の筋肉が動いたときに開いて、血液を通します。ところが、静脈が引き伸ばされると、弁が閉じきらなくなる。この状態が続くことで弁が故障し、血液の逆流が起こります」
すると、行き場を失った血液はさらにうっ滞し、血管はさらに引き伸ばされて太くなり、さらに弁の働きが悪くなり…と、どんどん悪化していく。
その結果、引き伸ばされてヘビのように曲がりくねった静脈がデコボコと皮膚を押し上げて著しく見た目を損なったり、極端な脚のだるさや夜間のこむら返りを引き起こして、生活の質を大きく下げることになる。
出産経験のある女性は2人に1人が下肢静脈瘤を発症
年齢を重ねるほど血管の弾力は失われてくるため、下肢静脈瘤は40代以上の女性に多い。なかでも、出産経験のある女性は、2人に1人が下肢静脈瘤を発症するという。
「男性と比べて筋肉が少ないため、女性は脚の血流が滞りやすい。さらに妊娠中は血液量が1.5倍になり、血管をやわらかくする作用のあるホルモンのエストロゲンやプロゲステロンが、妊娠前より著しく増加します。また、お腹が大きくなることで骨盤の中の静脈が常に圧迫され、血液が滞りやすい状態になる。言ってみれば、それまでは血液が通る道は“3車線”あったのに、妊娠するとその道が細く、通りにくい“1車線”になり、それなのに血液の量は増え、血液が大渋滞を起こしているようなイメージ。妊娠中の9か月間は、静脈にとってはもっとも過酷な環境なのです」
多くの場合、出産すれば元に戻るが、2人以上妊娠・出産を経験すると、静脈は伸びきってしまい、そのまま下肢静脈瘤に発展することがほとんどだ。また、両親が下肢静脈瘤を発症していると、90%の確率で子供に遺伝するというデータもある。
■血管がデコボコになる「下肢静脈瘤」のしくみ
●正常な静脈
・静脈の血液は下から上に流れる。
・弁が正しく閉じて、血液の逆流を防ぐ。
●弁が壊れた静脈
・血行が悪くなり。血液がうっ滞し、静脈が引き伸ばされる。
・弁が故障し、閉じなくなる。
・血液が市へ逆流。