偽善じゃない『3年B組金八先生』感動にも説教にもならない異色エピソードを厳選ガイド
「過去の名作ドラマ」は世代を超えたコミュニケーションツール。懐かしさに駆られて観直すと、意外な発見することがあります。『3年B組金八先生』を心から愛するライターで漫画家の北村ヂンさんが「これを見ておけば通」なエピソードであり、長大な本編と切り離して見ることのできる入門編的3話を厳選して紹介します
妙に味わい深いエピソードを紹介
令和時代になっても、いまだに学園ドラマの筆頭にあげられる金字塔『3年B組金八先生』。
Paraviでは全シリーズが配信されており、いつでも見ることができるが、いかんせん連ドラ8シリーズにスペシャル12本の全185話もあるので、これから入門しようという人はもちろん、久しぶりに見てみようかという人もそうそう気軽に手を出せない。
ということで、「本編とは関係ないけど、妙に味わい深いエピソードガイド」として、有名どころのエピソードとはほとんど絡みがないけれど、これを見ておけば通ぶれる(かもしれない)異色のエピソードを紹介しよう。
第1シリーズ(1979~80年)第3話「君は裸のビーナス」
第1シリーズといえば、杉田かおる演じる中学3年生が妊娠・出産するという衝撃の「十五歳の母」。中学校を舞台にした学園ドラマでタブーとも言える“性”をテーマに、真っ向から斬り込んだエピソードだが、「君は裸のビーナス」も別の方向から“性”に斬り込んでいる。
風呂屋の息子・梶浦裕二(野村義男)が女子高生に一目ぼれする。梶浦の頭の中は女子高生でいっぱいになってしまい、遅刻は増えるわ、授業中ボーッとしているわ。受験勉強なんてまったく手に付かなくなってしまった。
「十五歳の母」と比べたら、ものすごく牧歌的でほほ笑ましい片思いエピソード。しかし、梶浦が風呂屋の息子であるという設定のせいで、あまり牧歌的ではなくなってしまう。
実家の手伝いで番台に座っていたところ、問題の女子高生がやってきて、裸を目撃してしまったのだ(よっちゃんは思わず股間を押さえ、「チーン」という効果音が)。……性欲が爆発している男子中学生を、家業とはいえ番台に座らせたりするか!?
翌日から、通学路で女子高生の姿が見えなくなってしまい、梶浦は「裸を見たせいだ!」と落ち込む。
放送された1979年は、まだまだ「中学生の不純異性交遊なんて許さん!」という時代(それだけに「十五歳の母」が衝撃を与えたのだが)。
しかし金八は、万葉集にも恋の歌が載っているということで、中学生の恋愛も肯定的に捉え、落ち込んでいる梶浦に「たまってんだろ? 今晩カイとけよ」とアドバイスしている。第3話にして金八の型破りっぷりがうかがえるエピソードだ。
この回の途中に、牛乳配達する宮沢保(鶴見辰吾)を浅井雪乃(杉田かおる)が待ち構えているシーンがある。性欲に支配された、梶浦のドエロな片思いと比べ、なんて中学生らしい爽やかな交際なんだろう……と思いきや、次の第4話で浅井雪乃の妊娠が発覚するのだ。
第3シリーズ(1988年)第1話「ウンコの旅」
「腐ったミカンの方程式」で伝説となった第2シリーズから7年ぶりの連ドラとなった第3シリーズ。第2シリーズを夢中になって見ていた人たちは、「“腐ったミカン”再び」を期待して、第3シリーズの放送を見たはずだが、その第1話で繰り出してきたのが「ウンコの旅」とは……。
朝食を取らずに学校へ来る生徒が増えているという問題に着目し、「快眠、快食、うんこ」が人間にとってどれほど大事なのかを教える、要は食育を扱ったエピソードなのだが、それにしてもこのタイトルよ。
この回のメイン生徒・加藤敏治(田賀平)の両親は共働きでいつも不在がち。仕方なく敏治は、いつも幼い弟妹たちと一緒にカップラーメンやスナック菓子で夕食を済ませ、朝食は食べずに登校していた。
まともな食事を摂っていなければ、立派なウンコをすることはできない。生活が乱れていれば気力も沸いてこない。金八は「スポーンと一本、バナナ!」のようなウンコが出るように、きちんとした生活をするよう説教する。
1988年というバブル期の放送だけに、生徒の保護者たちも、仕事にかまけて子どもを放置するか、逆に高学歴にこだわって過干渉となるか二分されている。そんないびつな家庭状況を反映したのが“ウンコ問題”なのだろう。
言ってることはものすごく正しいが、ドラマの1話にするには尖りすぎているこのエピソード。小山内美江子の「『金八』は単なるドラマではなく、教育番組でもある」という強い信念がうかがえる。
第8シリーズ(2007~08年)第16話「3B生徒に霊能力者がいた!!」
金八の生みの親である脚本家・小山内美江子が病気などを理由に第7シリーズ途中で降板。第8シリーズは後を引き継いだ清水有生が全話で脚本を担当している。
第6~7シリーズでは、性同一性障害、殺人犯の息子、生徒の違法ドラッグ使用……と衝撃路線が行き着くところまで行ってしまっており、その反動で第8シリーズは、あまり大きな事件が起こらない、学園ドラマの基本に立ち返ったようなシリーズとなっている。
ただ、小山内美江子が詳細な取材に基づき、その時々のリアルな中学生の姿をつかんでいるのに対し、本作では若干、今(当時)の中学生のつかみかたが大ざっぱになっている感がある。その極みが「3B生徒に霊能力者がいた!!」だ。
受験勉強で徹夜続きの川上詩織(牛山みすず)が保健室で目覚めると、突然特殊能力が覚醒して守護霊が見えるようになってしまった。その能力を使って、クラスメイトの危機を救ったことで、地味な存在だった詩織はたちまちクラスの人気者となるが、霊能力はあっという間に消えてしまい……。
不安定な中学生時代、クラス内でのキャラ付けのため、「霊能力キャラ」を演じる子は少なくない(いや、ホントに見えてたのかもしれないけど)。霊能力が消えた後の詩織が、自分のウソにどんどん飲まれてドツボにハマっていく感じはリアルなのだが、一時的とはいえ本当に守護霊が見えていたとなると話が違ってくる。
『金八』では、中学生の妊娠にしろ、覚醒剤使用にしろ、衝撃ではあるものの、実際に中学生の身に起こり得る問題を取り扱ってきている。リアル霊能力者の登場は、さすがに金八ワールドのルールを逸脱しているのでは……。
このエピソードのラストに、詩織は金八の守護霊として、第4シリーズ前に亡くなった妻・里美(倍賞美津子)が見えていたと告白する。
「坂本金八さん。あなたは素晴らしい父親よ。でも、子どもたちはそろそろ巣立ちのときを迎えたようです。これからは子どものことよりも自分のことを大切に考えてあげてください」
亡くなって以降のシリーズでは遺影だけで登場し、無言で金八を見守り続けてきた里美。最後に金八へ贈るメッセージが霊能力者経由って……。
感動や説教だけではない金八先生
今回紹介したのは、一般的に『金八先生』が持たれている「感動」「説教臭い」みたいなイメージからは外れた異色エピソードばかり。武田鉄矢の偽善的なイメージが苦手で『金八』を避けていた人も、このエピソードを見れば、鉄矢を見る目が変わるかも!?(さらに嫌いになる可能性もあるが)
この他にも、金八が武田鉄矢に会いに行く回。便所掃除をするだけの回。カレーライスを作るだけの回……などなど、『金八』には異色の面白エピソードがたくさんある。「感動」「説教臭い」イメージで食わず嫌いせずに挑戦してみてもらいたい!
文とイラスト/北村ヂン
1975年群馬県生まれ。各種おもしろ記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。……といいつつ最近は漫画ばかり描いています。