藤井聡太や大谷翔平のような才能は祖先から引き継がれるのか「前世の記憶」を科学的に考察
将棋の藤井聡太やメジャーリーガーの大谷翔平のように、歴史を塗り替えるような大活躍ができたら――そう思うこともあるだろう。誰にでも、まだ見ぬ才能は隠されているかもしれない。そこで、生まれる前の記憶について考え、頼りにしてはどうだろうか。大切なことを、思い出してみませんか?
恐怖や不安などは受け継がれる
われわれは両親や祖父母、それより前の祖先から「祖先の記憶」、つまり遺伝子を受け継ぐ。果たして祖先の記憶は、「前世の記憶」のように、思い出などの記憶や感情が受け継がれているのだろうか。慶應義塾大学文学部教授(行動遺伝学)の安藤寿康さんが説明する。
「行動遺伝学からすれば、親や祖父母の記憶や思い出が、当人に受け継がれることは考えられません。ただし、祖先や親から受け継いだ遺伝的な資質が、好き、嫌い、関心、ポジティブ、ネガティブなどの感じ方やとらえ方に影響を及ぼします」
つまり、祖先が経験したことについての記憶や思いが受け継がれることはないが、DNAに刻まれた資質は受け継がれるということ。
ただし、それらは単純に親から子供へと受け継がれるわけではない。
「確かに遺伝子は親から子供に渡りますが、実際には父親から半分、母親から半分というかたちで完全にランダムに受け渡されます。そうした遺伝子が複雑に絡み合って実際の資質が発現し、そこに環境的要因が加わります。
たとえば、背の高さに関する遺伝子は複数あり、背の高い人でも背を低くする遺伝子情報を持っています。そのため背の高い両親から、背の低い子供が生まれることがあります」(安藤さん)
重要なのは、親の持つ遺伝的要素を子供がすべて受け継ぐわけではないことだ。
「たとえ親が運動が苦手などの素質を持っていても、すべての子供がその素質を引き継ぐわけではありません。最近は『親ガチャ』という言葉がありますが、親の遺伝子を引き継ぐことで優秀な子供が生まれるかどうかは、まさにランダムなガチャで決まります。
才能は1つの遺伝子では決まらず、筋力、バランス感覚、興味など複雑に絡んでいます。遺伝的な要素がうまく適合すれば、勉強が苦手、運動が苦手な両親からも将棋の藤井聡太竜王や大リーガーの大谷翔平選手のような突出した才能が生まれるかもしれません」(安藤さん)
一方で動物実験による研究では、前の世代の出来事が後の世代にまで影響を及ぼすことが指摘される。
米エモリー大学の研究チームが、桜の花に似た香りを恐れるよう訓練したマウスの精子を調べると、桜の香りに敏感なDNAの一部が、その精子の中で活性化されていた。
さらには、そのマウスの子供も桜の香りに極めて敏感になり、桜の香りを避けるようになった。
そうした結果から専門家は、「恐怖や不安、トラウマなどに関する記憶の一形態は、世代間で受け継がれる」という可能性を指摘した。
2021年8月に発表された中国科学院の回虫を用いた最新の研究でも、「ストレスの記憶が子孫に引き継がれる」との結果が示された。
つまり、親が恐怖や不安などのストレスを感じる対象は、精子や卵子を通じて子に受け継がれている可能性がある。
あなた自身が祖先からの記憶
前世の記憶と祖先の記憶は、いまを生きる私たちに何をもたらすだろうか。『「生まれ変わり」を科学する』の著者である中部大学大学院教授の大門正幸さんが言う。
「潜在的には、誰もが前世の記憶を持っている可能性があり、それが顕在化するか、しないかの違いだけかもしれません。
幼年時代に前世を覚えているだけではなく、あるきっかけで前世を思い出すこともあります。たとえば前世の人物に関連する場所に行ったり、縁のあったものや人と巡り合うことで前世の記憶が蘇るケースがあります。また幼い頃から繰り返し見る夢が実は前世に関係していたり、催眠療法で前世の記憶が戻ってくることもあります」(大門さん)
大門さんはさらに一歩進み、「前世の記憶がない人も、実は前世の記憶によって影響を受けている可能性がある」と語る。
「前世を口にする子供たちは、生まれ変わる前の自分と関連する好みや技能、ある種の人物に対する好き嫌いの感情などを持ちます。もしかしたら多くの人は前世の記憶を失っているだけで、いま自分が興味を持って好きでやっていることや、ある種の人物に対する好き嫌いの感情などは、前世から引き継いだものかもしれません」(大門さん)
前述したように、現代の遺伝研究は、前の世代の好き嫌いや関心、恐怖や不安などを、後の世代が引き継いでいる可能性を指摘している。
動物行動学研究家の竹内久美子さんが言う。
「いまあるあなたの能力や容姿は、長い歴史の中で遺伝的に淘汰された結果として残ったものだと言えます。また、祖先がさまざまな要素において長い間、繁殖相手を選んできた結果があなたの能力や容姿であるとも言えます。言ってしまえば、あなた自身が祖先からの記憶なんです」
大切なのは、そうした前世と祖先の記憶から、何を受け取ることができるかだ。
大門さんは生まれ変わりを受け入れることで、人間は「別の気づき」を手に入れると指摘する。
「いまは日本人の女性として生きているけれど、次の命は男性かもしれないし、ほかの国の人かもしれません。そう考えることによって“男だから”“外国人だから”と、性別や宗教、国境など、属性によって他者を排除する気持ちがなくなります。
また、人間に対する理解が深まります。どの人もいろいろな魂の経験を積んでいる可能性がある。泣き止まなかったり手に負えない子供を見ても、“もしかしたら前世であったつらいことを思い出して泣いているのかもしれない”と考えることもできます。
それは大人同士でも言えます。どんなに自分が嫌いな人でも、誰もが前世を引き継いでいると想定し、もしかしたら過去の記憶が影響しているかもしれないと思うだけで、その人への見方はより優しいものに変わります」
前世や祖先の記憶に思いを寄せることで、この世をよりよく生きることができ、他者に優しくなれる。人はいつでも、生まれ変われるのだ。
※女性セブン2022年1月20・27日号
https://josei7.com/
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