食欲不振、飲み込みにくい…高齢者の食悩みへの対処法「油分の減らしすぎは便秘に」
高齢の母が「最近食欲がなくなってきた…」という。介護が必要な高齢者にとって、「食が細くなった」「食べ物を飲み込みにくい」など“食”に関する悩みは多い。管理栄養士として長年介護食にかかわってきた専門家に、食欲不振などの解決策を聞いた。
高齢の親の食事作りのお悩みベスト3
「私が相談を受けている高齢者の食に関する悩みの中で、もっとも多いのが、最近食べられなくなってきた、食欲不振や食欲減退に関すること。介護が必要な高齢者にとって最初にぶつかる悩みかもしれませんね」
こう語るのは、高齢者施設の食事改善や安全な食事提供のためのサポートを行っているヘルシーオフィスフー代表の徳(正式なお名前の表記は旧字)田泰子さんだ。
これまで高齢者や介護する家族から相談を受けてきた中から、食に関する事例ベスト3について解説いただいた。
1位 食欲不振
「食欲が低下しています。エネルギーの補充はどうすればいいのでしょうか」という悩みは多くの方が抱えています。
高齢になって身体機能が低下していくと、活動量も減りますので、食欲が落ちるのは自然なことですが、やはり心配になりますよね。
1回に食べられる量が減っているなら、3度の食事だけで栄養を補おうとせず、間食を活用する方法もあります。おやつとして栄養補助食品や飲料を活用するのもいいでしょう。
また、調理方法を工夫することで食べやすくするという方法も。同じ食材でも調理法によってエネルギーを増やすこともできます。
たとえば、里芋は煮物ではなく、ひき肉のあんをかけて、里芋のそぼろあんかけにすることでたんぱく質をプラスできます。
ほかには、焼き魚やお肉でも卵で衣をつけたピカタにすることでエネルギーもアップします。調理方法にひと手間加えることで、おいしく栄養アップすることを考えてみてください」(徳田さん、以下同)
2位 飲み込みにくい
続いて多いのが、咀嚼嚥下(そしゃくえんげ)機能が低下して噛んだり飲み込んだりしにくいというお悩み。
「親御さんの介護食で、お肉などできるだけ家族と同じものを食べさせてあげたいが、作り方のポイントがわからないという声はよく聞きます。
飲み込みやすくする調理方法はいくつかあるので、覚えておくといいですね」
食べやすくする5つの方法
・とろみをつける…口の中でまとまりやすいように片栗粉や市販のとろみ剤(増粘剤、とろみ調整食品)でとろみをつけて食べやすくする。
・固める…ゼラチンや寒天、ゲル化剤(固形化調整食品)などを使って食材を固めてのどの通りをよくする。
・油脂を使う…少量の油脂は、食材をまとめやすくしてくれる。
・つなぎを入れる…小麦粉、片栗粉、卵、長芋のすりおろしなどつなぎを使うことで食材をまとめ食べやすくする。
・適度な水分を加える…パサついているものは、しっとりさせてから。
「たとえば、肉類はひき肉を炒めたりゆでたりしただけでは、ポロポロとしていて誤嚥につながりやすいので、さらに細かくすりつぶしたり、あんでとろみをつけて飲み込みやすくするひと工夫を。
また、ハンバーグやミートボールを作るときは、ひき肉を使用せず、切り落とし肉を加熱調味してから、適量のはんぺんと水分とともにミキサーにかけて成型します。はんぺんがつなぎの代わりになって、やわらかくおいしく仕上がりますよ」
3位 糖質制限食が大変…
「高齢の親が糖尿病で、食事制限が必要だという悩みもとても多いんです。
糖尿病は、その人の症状にもよるので、解決策も人それぞれで異なってきますが、総じて言えるのは、バランスのよい食事を心がけること」
朝はパンだけ、お昼はおそばやうどんで済ませてしまうなど、意外と糖質過多の食事になりがち。
「3回の食事で、1.主食(炭水化物)、2.おかず(たんぱく質)、3.野菜・きのこ・海藻類(食物繊維)の3つをバランスよく摂るようにしましょう。
その方の症状にもよるのですが、厳格な食事制限よりも、楽しくおいしく食べられる食事の工夫が大切だと思います」
高齢者の食事作りでやってはいけない3つのこと
高齢の親や介護が必要な人の食事作りにおいて、どんなことに気を付けるべきなのか。続けて徳田さんに伺った。
1.減塩を気にしすぎておいしくなくなる
「高血圧の対策にと、減塩をする場合がありますが、塩分を減らして薄味にするだけでは、おいしく感じなくなってしまい、かえって食が進まないということも。
だしを活用して旨みを効かせたり、トマトやシイタケなど旨みのある野菜を活用してみてください。また、ゆずや青じそなど香りのある食材でアクセントをつけるのもいいでしょう。塩分を減らしてもおいしく食べられるよう調味にひと工夫してみてください」
2.油分を減らしすぎて便秘の原因にも
「年を取ると脂っこいものが苦手になるだろうと、油分を控えすぎるのも考えものです。
たとえば、便秘の原因には、水分や野菜が不足のほか、油分が足りないことが原因のことも。
また、食物繊維は、水溶性と不溶性の両方を摂るのがおすすめ。不溶性の野菜は、豆類、きのこなど。水溶性は、果物やいも類、野菜、こんにゃくなどがあります」
3.なんでも流動食にして味気なくなる
「歯茎で噛めるのにすべてミキサーにかけてやわらかくしてしまうと、どんどん咀嚼嚥下機能が低下してしまうことも。食材はある程度噛み応えを残すことも大事。食べる楽しみを感じられることが大切です。
また、食事そのものの味も大切ですが、食べる環境、食事の温度、食感、見た目(器、色合い)なども重要な要素。食事環境を整えることで食事がより一層おいしく、楽しい時間になり、食べる意欲にもつながると思います」
教えてくれた人
管理栄養士、調理師・徳田泰子さん
病院勤務の後、管理栄養士として独立。利用者目線に立った健康メニュー提案、充実した高齢者食提供の支援など「おいしく・楽しく・健康な暮らし」を実現するため起業。栄養コンサルティング会社「株式会社ヘルシーオフィスフー」を設立し代表を務める。高齢者食専門サイト『スマイリーフード』を運営し、介護予防のための食に関する情報も発信している。https://foo.co.jp/
取材・文/本上夕貴