天海祐希×高橋メアリージュン『緊急取調室』4話 事件より人の感情を解決することが主眼
天海祐希主演の大人気シリーズ『緊急取調室』第4シーズン(テレビ朝日木曜夜9時〜)。第4話は、システムのエンジニアの女性の犯罪の真実を描く。被疑者を演じる高橋メアリージュンと取り調べを担当する天海祐希の白熱のシーンから目が離せなかった! ドラマを愛するイラストレーター・オカヤイヅミが『キントリ』の魅力を絵とテキストで振り返ります。
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自白させる必要、もうなくない?
今回の容疑者は、「スリー食品」の食品廃棄物リサイクルシステムのエンジニアである橘頼子(高橋メアリージュン)だ。
最初から余談だが、ちょうど友人と「連続ドラマにゲストで出演する高橋メアリージュンの気持ち良さ」のことを話したところだったので驚いた。激しい怒り顔のなかに、繊細な表情を含ませられる俳優だと思う。今回も、言葉は少ないのに、意志を伝える表情、視線の揺れにビリビリした。
「スリー食品」で発生した開発中のリサイクル機械からの有害ガスの流出で、若い社員と専務三上聡(内村遥)が死亡、開発を手掛けたエンジニアの橘もガスを吸い込み意識を失う。当初は事故と見られていたガスの発生だが、ごく最初のほうで、重要な事実が明かされてしまう。なんと、橘が機械を操作して故意にガスを流出させたことがはっきりと監視カメラに映っているのだ。
既婚者の三上と橘には「男女関係のもつれ」があったという噂もあり、それが原因なのか、橘は解雇されることが決まっていた。意識が戻った橘自身もはっきりと罪を認め、「死刑にしてください」と罪を悔いている。あれ? 自白させる必要、もうなくない? と観ているこちらは思ってしまうが、まだ話は中盤にも差し掛かっていない。
ここで前回の第三話、梶山管理官(田中哲司)の言葉が思い出される。
「起きてしまった事件を解決するだけでいいのか?」
どうやら今期の『緊急取調室』は、真犯人を暴くのではなく、「事件の真実」の方を大切に掘り起こしていくのが主眼のようだ。その意味では確かに大きな謎が残る。エンジニアとしてプライドを持っていた橘が、「男女関係のもつれ」なんてもので自分のキャリアとその成果を壊すのはおかしい。真壁(天海祐希)が疑いを持つのは、自身の仕事への誇りゆえかもしれない。キントリ班の面々も、ちっともスッキリしていない。
障害を一つずつ取り除いていく我慢強さ
調査を続けるうち、橘は三上専務と高校時代の同級生であり、大学を中退してクラブでホステスとして働いていた橘を、三上が自分の親の会社である「スリー食品」に誘ったのだとわかる。ふたりは、ガスの流出した開発機械の共同開発者でもあった。そして、橘は排気口の位置やガスが発生する時間を計算し、自分だけは死なない計画を立てていたという疑いも出てくる。不倫の末に絶望した、というわけではなさそうだ。
キントリ班のいつもの取調室で、点滴や酸素ボンベ、橘の主治医の折原政人(甲本雅裕)まで丸ごと連れてきての聴取が始まる。折原が、なぜかかたくなに病室での橘の事情聴取を拒んだからだ。
緊急取調室、入り口も室内も広くて良かったなあ、と搬入を観ながら呑気なことを思っていると、まず暴かれる真実は折原の過去。治療を担当した殺人事件の被疑者を、病室での取り調べ中に自殺させてしまった過去があったのだ。
そっちか。ガス事件とは関係のないエピソードなのか。障害を一つずつ丁寧に取り除いていくキントリ班の我慢強さよ。
「犯人から真実を聞き出せず、事件の真相がわからないことのほうが救われない」と説得し、しんみり納得した折原という障壁を乗り越え、真壁はようやく取り調べにとりかかり、橘に真実を話させる。
取り調べシーンを見逃せない
橘は三上に思いを寄せていたが、三上は橘を恋愛対象としては見ていなかった。ガスを流出させて自分だけ助かったのは、愛が得られないなら!と仕事の手柄を独り占めする計画だった。関係をほのめかすメールを下書きに残すことで不倫も偽装した。取り調べの最後、橘は、そんなエゴイズムを素直に認める。
普通に真っ当ないい人(三上)への「安くて古くてダサい」感情を拗らせた橘の嘘を、真壁は同じ目線に立って正し、抱きしめる。
警察が舞台のドラマではあるが、『緊急取調班』第4シーズンは人間の感情を解決していくようだ。犯人が誰か、という単純な話ではないので、取り調べシーンを少しでも見逃すと犯人の感情に添えなくなってしまう。視聴者側ももじっくりしっかり見ていきたい。
イラストと文/オカヤイヅミ
漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。趣味は自炊。