兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第105回 現実逃避、ついに宇宙へ】
若年性認知症を患う兄と2人で暮らすライターのツガエマナミコさんは、兄の発症から5年以上、病院の付き添いや日常生活のサポートを続けています。日々の暮らしぶりや兄の病状などを綴ってもらうこのシリーズ、今回は本筋をお休み。現実から離れて、宇宙へ思いを馳せるのですが…。
「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。
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星の寿命と人の寿命
どうも。食事が終わるとそそくさと自室に引きこもってしまうツガエでございます。
そして扉一枚向こうでテレビを観る兄の存在を忘れるためにクイズで頭をいっぱいにするのが最近のツガエでございます。介護者としては不合格でしょうが、ストレスで潰れないことがわたくしの最優先順位だと言い訳をしております。
少し前までハマっていたゲーム実況鑑賞を卒業しまして、ここ数か月は高学歴たちの当意即妙な会話と発想豊かなクイズを配信しているユーチューブ番組がわたくしの癒しになっております。そう、「オバサンはもれなく若い男の子が好き」という前回の冒頭に通じるのですが、高学歴な彼らは揃って若い男の子なのです。わたくしはあくまで彼らの知的な部分に惹かれているのだと主張したい。けれども、これが高学歴女子集団でも同じようなことが言えるか?と自問すると、残念ながら「否」なのでございます。女の子のあざとい部分を「かわいい」と思えない同性の性。わたくしは若い男の子が大好きだと認めざるを得ません。
それはさておき、彼らの出題するクイズで知った単語や人名を、思いがけずテレビや新聞で見かけることが多くなりました。知らなければスルーしてしまう小さな記事も、興味を持って読めるのです。そうやって少し賢くなった気分を味わっております。
最近は新聞で「ベテルギウス」が目に留まりました。クイズでは冬の大三角のひとつとして答えになることが多い、オリオン座の右肩を成すオレンジ色の星の名前です。そのベテルギウスに星の寿命が近づいていてもうすぐ消えそうだ…という記事でした。
とはいえ天文学の「もうすぐ」は「10万年以上」も先のこと。100年生きるか生きないかの我々とはスケールが違います。そしてスケールといえば驚いたのが「大きさが太陽の約1000倍まで膨れ上がっている」らしいことでございます。太陽の1000倍⁉ あの、冬の夜空でよく見るオリオン座の一粒がそんなに大きいとは、考えたこともございませんでした。
10万年先、地球から約700光年離れたところにある太陽の約1000倍もの大きな星が寿命を迎えて大爆発をすると地球はどうなるのかしらん……? ちょっと怖いけれどロマンです。
と、宇宙に思いをはせておりましたら、急にニュースが飛び込んできてグイっと現実に引き戻されました。昨年秋に取材させていただいた方が亡くなったという訃報です。がんを患い、1年という余命宣告をされていながら取材を受けてくださった方です。見た目はどう見ても年上でしたが、わたくしよりも4歳も若い俳優さん。昭和の漢(おとこ)のオーラを纏い、笑顔を交えてお話しいただいたことがまだ記憶に新しいのに……。
余命を知ってなお、家族を思い「少しでも稼がなくちゃ」と生きる人のなんと気高いことか。「もう勘弁して」「もう嫌、こんなセイカツ!」と愚痴るばかりの自分がお恥ずかしい。取材した直後はそう確かに猛省したのですが、のど元過ぎればなんとやらで、つい自分を悲劇のヒロインに仕立ててしまうことを、ここにきてまた反省させられました。
平均寿命まで生きるとして、わたくしの余命は約30年あります。「そんなになくてもいいな」というのが本音と言えば本音。でも「全力で生きる」のではなく、「超のんびりでいいか」と思えば、30年という期限を上手く使えそうな気もいたします。
ちなみに、我らが太陽の今の年齢はおよそ46億歳といわれています。そして寿命が近づいているといわれているベテルギウスはまだ800万歳ぐらい。難しいことは分かりませんが、星にも細く長く生きるものと太く短く生きるものがあるようです。
あの俳優さんのご冥福を祈ります。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性58才。両親と独身の兄妹が、7年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現62才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ