自覚しにくい【慢性腎臓病】を解説!有害物質「AGE」の害から腎臓を守る対策とは?
「腎臓」は、血液をろ過して浄化する働きを持つ重要な臓器であることは広く知られている。
腎臓病が悪化すると、体内に毒素が残ってしまうため「人工透析」を行う必要が出てくる。腎臓の機能が低下している人には、塩分やカリウム控えめの食事療法をすすめられる。しかしさらに注意が必要なのが、血管を傷めつける強力な悪玉物質「AGE」という。
腎臓病専門医でAGEが腎臓に及ぼす影響についても注意を促す、湘南東部総合病院腎臓内科部長兼血液浄化部長の、守尾一昭副院長に聞いた。
年齢とともに増える慢性腎臓病
腎臓は、人間の腰のあたりに左右対に2個ある。その中には、糸球体と呼ばれる非常に細かい毛細血管のかたまりが、左右合わせて200万個も存在している。腎臓は毛細血管の集まりのようなものだ。腎臓の役割は、血液のろ過、体内の水分量を調節すること、血圧をコントロールすること、骨を丈夫にする活性化ビタミンDの分泌など。
守尾医長は腎臓についてこう説明する。
「腎臓は人間が生命活動を行うための『司令塔』のような役割を果たしている、重要な臓器と言えるでしょう。他の器官と同じく腎臓も、年齢とともに機能が低下していきます。健康な人でも30歳のときの腎機能を100%とすると、1歳年を取るごとに1%ずつ低下していくと考えられています。実際、日本では高齢化に伴い、腎臓の働きが低下して起こる慢性腎臓病の患者さんが急増しています」(守尾先生、以下「」内は同)
慢性腎臓病(CKD)とは、糖尿病性腎症、高血圧による腎障害など、慢性的に腎機能が低下する腎臓病の総称だ。日本腎臓学会の報告によれば、日本国内の慢性腎臓病患者数は約1330万人で、成人の8人に1人という状況にある。また、70代以上の男性の約3割が慢性腎臓病と考えられている。進行して慢性腎不全になれば、人工透析を受けるか腎移植で生命を維持することになる。
「慢性腎臓病がやっかいなのは、初期の段階では自覚症状がほとんどないこと。むくみや倦怠感、息切れなどの自覚症状が出たときには、腎機能がすでに30%以下に落ちていることがほとんどです。慢性腎臓病は比較的、進行が遅い病気ではありますが、尿検査と血液検査や画像診断による早期発見と早期治療介入で、悪化の進行速度を緩やかにすることは不可能ではありません」
慢性腎臓病と診断されるのは、次の(1)、(2)のいずれか、または両方が3ヵ月以上続いた場合となる。
(1)たんぱく尿検査で1+以上
(2)糸球体ろ過量(GFR)が60未満
たんぱく尿は、濃度によって「-」「+-」「1+」「2+」「3+」「4+」の6段階があり、正常範囲は「-」「+-」。「1+」から数字が大きくなるほど尿に含まれるたんぱく質の濃度が高く、腎臓のろ過機能が悪くなっていることを示す。
「糸球体ろ過量は、腎臓のろ過機能が正常かどうかを調べる指標です。糸球体ろ過量の数値を調べるには、推算値として血清クレアチニン値をもとに算出した『推算糸球体ろ過量(eGFR)』を用います。推算糸球体ろ過量を求めるには複雑な計算が必要ですが、日本腎臓学会が作成した『糸球体ろ過能力早見表』にあてはめれば簡単にわかります」
腎臓は血圧の調節にも関係しているため、機能の低下によって脳卒中や心筋梗塞といった血管病を加速させる危険性も高まるという。
腎臓を傷めつける有害物質「AGE」を減らすには
慢性腎臓病の進行速度を緩やかにするために重要なのが、日々の食事だ。慢性腎臓病の食事療法では、塩分やたんぱく質、カリウムなどの摂取量が制限されることは広く知られている。だがもう一つ、腎臓にダメージを与える有害物質があるのだ。それがAGE(終末糖化産物)だという。
「AGEは糖とたんぱく質が結合する『糖化』という現象によって作られる物質です。最近、美容の分野で糖化は注目されているので、ご存知の方もいると思います。糖が増えすぎて血糖値が上昇した状態が続くと、血液中にあふれた糖がコラーゲンなどのたんぱく質と結びつくようになります。結びついてできた物質の一部はアマドリ化合物(変性した糖)という物質に変わり、さらに糖との結合を繰り返してAGEが作られるのです」
人間の体の細胞や組織のほとんどは、たんぱく質で構成されている。特にコラーゲンは人体のたんぱく質の約30%を占め、血管壁や皮膚の主成分となっている。細胞や組織の土台ともいえるコラーゲン繊維は規則的な網目状になっていて、お互いが橋をかけたように結びついており、編み目のすき間はエラスチンというたんぱく質によって埋められ、組織に弾力性を与えている。
「AGEは、このコラーゲンを支えている橋(架橋という)を崩してしまいます。それに伴い血管の劣化が進みます。特に毛細血管のような細い血管は影響を受けやすいのです。AGEは一度作られてしまうと分解されたり還元されたりせず、体外へ排泄されにくいので、体の中に蓄積されていきます。蓄積されるAGEが増えれば、糸球体の毛細血管は動脈硬化を起こし、基底膜という尿をろ過する膜も柔軟性を失います。その結果、腎臓のろ過機能は次第に低下し、やがて慢性腎臓病の状態になるのです」
糖の害から腎臓を守るには
それではAGEの害を防ぐには、どうしたらいいのだろうか。
「一番簡単な方法は、食事の改善です。食事をすると血液中にブドウ糖の量が増えて血糖値が上がります。血糖値が上昇すると、血糖値を適正に保つために膵臓からインスリンが分泌されます。食事をするとすぐにインスリンが分泌されるため、食後に血糖値が一時的に上がっても短時間で正常な状態に戻ります。ところが、そうはいかないケースがあります。一度に大量の糖を摂取した場合や、インスリンの分泌量が少ない人や効きが弱い人などは、食後に上昇した血糖値がなかなか下がらず、高血糖の状態が続いてしまうのです。
そこで、糖の摂取の仕方に注意しましょう。単純に減らすよりも、食べ方に気をつけるだけでも大きく変わります。炭水化物の早食いをしないことや、野菜などの繊維質を先に食べることで、糖が吸収される速度を緩徐にし血糖の上昇速度を緩やかにすることができ、AGEは作られにくくなります。糖の中では、普通の砂糖よりフルクトースやコーンシロップの方が体内でAGEを作りやすい性質があるので、清涼飲料水の飲み過ぎにも要注意です。」
AGEは、体内で作られるだけでなく食品にも含まれている。それを極力とらないようにする工夫も大切と、守尾医長。
「肉や魚を焼いたときにできる、焼け目や焦げ目には大量のAGEが含まれています。 焦げ目はなくとも、強い熱を加えた食品にはAGEができやすいため、電子レンジで何度も温め直すと増加することもわかっています。飲食物に含まれるAGEを摂取すると、約1割が腸から吸収され、そのうちの3分の2が体内に蓄積されます。腎機能を低下させないためには、血糖値のコントロールに努めるとともに、AGEを含む飲食物をとりすぎないことです」
金沢医科大などの調査で、スナック菓子もAGEの含有量が多いことが判明している。焼き肉や揚げ物、清涼飲料水とポテトチップなどは食欲をそそられるものほど警戒が必要といえる。
「慢性腎臓病になってしまうと、元の腎臓に戻すことはできません。しかし、AGEのリスクを減らしていけば、腎臓の機能低下速度を緩やかにして健康寿命を維持していく(寿命を全うする)ことは可能なのです。塩分やカリウム、たんぱく質に留意することに加え、血糖のコントロールなど、AGEを体に蓄積させない食生活をすることをオススメします」
守尾一昭(もりお・かずあき)
医学博士。日本腎臓学会認定腎臓専門医・指導医、日本透析医学会専門医・指導医、日本内科学会認定内科専門医・総合内科専門医・指導医。医療法人社団康心会湘南東部総合病院副院長。腎臓内科部長兼任、血液浄化部長兼任。国立病院機構東京災害医療センター腎臓内科医長、東京都老人医療センター(現東京都健康長寿医療センター)腎臓内科部長、君津中央病院腎臓内科部長、国立病院機構災害医療センター腎臓内科医長兼血液浄化部長などを経て、2018年から現職。腎臓とAGEに関する試験や論文も多数。
取材・文/熊谷あずさ