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『大豆田とわ子と三人の元夫』2話|岡田将生の魅力が炸裂。理屈っぽくて走るのがヘタ

 3回結婚して3回離婚した大豆田とわ子と、それぞれにクセのある三人の元夫の関係を描く『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系火曜夜9時〜)。坂元裕二ドラマならではの名言連発の第1話に引き続き、2話もたった1話で2番目の夫ととわ子との関係を描ききる、楽しくも美しい1時間だっと、ドラマ大好きライター・釣木文恵さんが振り返る。

 * * *

理屈っぽさとヘタレ加減が絶妙な岡田将生

 大豆田とわ子(松たか子)その人に加え、3人の元夫のパーソナリティと関係性が披露された1話。続く2話では三番目の夫・中村慎森(しんしん・岡田将生)がクローズアップされた。

 とわ子が社長を務めるしろくまハウジングの顧問弁護士として、今も日々とわ子との接触をもつ慎森。社員が集まる会議の場で「お土産っているかな」「スポーツっているかな」ととんでもない理屈をこねる彼は、それによって嫌われることを全く恐れていない様子。とわ子の2番目の夫・佐藤鹿太郎(角田晃広)からは「人から嫌われることが怖くなくなった人は怖い人になりますよ」という言葉を投げられているけれど。

 無駄が嫌いな慎森はビジネスホテルに暮らし、お風呂でとわ子との過去を思い出しては勢いよく飛び出して頭をぶつけ、自分で自分をいたわる日々。理屈っぽくて無駄が嫌いなくせに、自分からその生活を捨てたくせに、とわ子への未練を断ち切れずにいるらしい。

 最初に「お土産っているかな」と言ってしまった手前、大好きなパンダのかたちのまんじゅうをもらうことができない。最初の夫・八作(松田龍平)のレストランで3人の元夫ととわ子母娘が遭遇したときも、強がったせいでとわ子のそばに近寄ることさえできない。無駄を省くつもりが、ずいぶんと損を強いられているようだ。

 これまで岡田将生という人にそんな印象はなかったけれど、彼の細身で繊細そうな風貌と、淀みなく理屈を吐き出すその演技が、慎森の極端な性格をよく表現している。運動神経が悪く、走るのがヘタという設定も見事にこなし、ちょうどいちばんダサいヘタさで走る。

ささやかな共感ほど未練を残す

 とわ子の娘・唄(豊嶋花)は何かと元夫たちとの接点を持ちたがる。とわ子がすき焼き専用卵(実際にあるらしい)をもらったことをきっかけに元夫ととわ子、唄の5人で「春のすき焼きまつり」が開催されることになる。それぞれこだわりの鉄鍋、こだわりの白菜、こだわりの醤油を持ち寄った夫たちは誰も肉を持ってきていない。肉を調達しにそれぞれが散る中、かつて距離を縮めるきっかけとなったソファが捨てられているのを見つけ、落ち込む慎森。

 とわ子と二人きりになったときに、いつものような理屈をこねては「めんどくさい?」と問う。けれどもとわ子は慎森に「怒ってもないし、めんどくさくもないよ。だってもう他人だもん、関係ないもん」と伝える。親友・かごめ(市川実日子)から「めんどくさいって気持ちは好きと嫌いの間にあって、どっちかというと好きに近い」と言われていたせいもあるのだろう。

 運動が苦手でどうやらかなりどんくさいらしい慎森が公園で出会う女性・翼(石橋菜津美)は辞めさせられた会社を訴えたいと思っている。しかし慎森はあくまでも弁護士というものは「お金になる正義」を求める者であり、

「人が笑顔になって嬉しくなる、なんで?」
「僕には人を幸せにする機能は備わっていません」

 と言う。そんな慎森がすき焼きの場から逃げ帰った先にいた翼は、

「スポーツの世界の一番は、グッドルーザー」
「負けた時何を考えたか、思ったか」

 と彼を勇気づける。

 慎森が思い出すとわ子との日々は、あまりにささやかだ。捨てられていたソファを二人で持って帰るのはそれなりに大きなイベントかもしれないけれど、二人が心を通わせたきっかけは「クセのあるスマホの持ち方をしている人」を見たときの「何あれ!」な共感だったりする。大きな共通点よりも、そういう些細な共感ほど、未練を残す。あのスマホの持ち方を見た時に「何あれ!」と一緒に思える人、スポーツに対して「渋谷のネズミのほうが足が速い」と一緒に笑える人には、もう再び出会えないかもしれないと思う。

「いいんだよはみ出したって。嫌なものは嫌って言っておかないと、好きな人から見つけてもらえなくなるもん」

 と慎森を肯定してくれたとわ子という存在を、二人の時間を、慎森は自分から捨ててしまった。

「いちごのタルト」のような言葉を紡ぐまで

 とわ子が警察に連行されるまぬけな一夜を超えて、慎森は挨拶をするようになっている。

 とわ子と二人で喫茶店に入り、とわ子が社長の打診を受け入れた瞬間の話をする。女子高生がいちごのタルトを目の前に置いて受験勉強をしている姿を見て、社長になる決心をしたというとわ子。「いつかあのいちごのタルト食べようと思って。まだまだ全然ダメな社長だけどさ」と言う彼女に、慎森は強がることもてらうこともなく、心から話す。

「がんばってるよ。すごくがんばってると思う。君は今も昔もいつもがんばってて、いつもキラキラ輝いてる。ずっとまぶしいよ」
「それをずっと言いたかったんだ」

 それに「今の言葉が私のいちごのタルトかも」と返すとわ子。そして、とわ子もてらいなく伝える。

「別れたけどさ、今でも一緒に生きてると思ってるよ」
「僕までタルトもらっちゃったな」

 別れた相手に向けて、これ以上の言葉があるだろうか。結果的に別れたとしても、一度は一緒に生きていた二人のその時間が、そして今さえもが肯定された美しいセリフ。このセリフ自体もすごいけれど、理屈に理屈を積み重ねて、強がりと皮肉でコーティングして、結果このセリフが成り立つように紡がれてきたこの1時間の流れもすごい。

 そういえばとわ子は、社長就任の話を半ば断るつもりで「めんどくさいなと思いながら」このカフェに来たのだという。「めんどくさいって気持ちは好きと嫌いの間にあって、どっちかというと好きに近い」というのは本当なのかもしれない。

絶妙な「恋の6秒ルール」のカウント

 慎森が翼と向き合って「僕が君の弁護士になる」と宣言した頃、八作は親友の恋人・早良(石橋静河)と「恋の6秒ルール」を実行してしまう。ドラマ冒頭で「6秒間見つめ合ったらそれはもう恋をした証拠」と八作自身が二人の元夫をからかい、「3、4、5、6」と秒数をカウントしていたのを視聴者が忘れかけていた頃に、八作と早良が見つめ合ったところで伊藤沙莉によるナレーションが「3、4、5、6」「6秒見た」と入るこの絶妙さ! さらにもう一度見つめ合って「2、3、4」。単なる数字のカウントが、こんなにも抗えない気持ちを表す。

 鹿太郎も女優・美怜に家に呼び出され、キスされてしまう。

 エンディングでとわ子母娘がやっていたのはフィンランド発祥のスポーツ・モルック。1話のボーリングに続いて、彼女たちは何かと体を動かすのが好きなのかもしれない。

 3話ではどうやら2番目の夫・鹿太郎がフィーチャーされるようだ。2話のエンディングでは岡田がラップを担当していたが、3話のエンディングでは角田のラップが披露されるのだろうか。芸人としての角田晃広(東京03)は、ギターを弾いている印象のほうが強いけれど……。3話ではそんなところも楽しみにしたい。

文/釣木文恵(つるき・ふみえ)

(つるき・ふみえ)ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。

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