大人になってから「友達」は必要か?健康寿命と友達の関係性
子供のときや学生時代、「友達」と楽しく過ごした時間はかけがえのない思い出になっているはず。やがて、仕事、結婚、子育て、家族との死別など、人生に思いがけない転機が訪れるとともに、「友達」の存在はどこか影をひそめる。大人になると、新たな友達を見つけることも難しい。だからこそ、大人になってからの友達は昔以上に大きな存在へ──。
フラミンゴにも友達がいる…最新研究で判明
「ヘビやフラミンゴも友達をつくる」
昨年、動物の友達づくりについての最新研究が相次いで発表された。カナダのウィルフリッド・ローリエ大学などが学術誌に発表した研究では、北米東部原産のトウブガーターヘビが特定の同性の個体を選んで集団を形成することが判明したという。さらに、英エクセター大学らが発表した研究では、フラミンゴが大集団のなかで同性の気の合う仲間を見つけたり、苦手な相手を避けることが明らかになった。
それはまるで、「仲よしグループ」や「親友」のような関係だという。人間以外の動物が友達をつくるとは驚きだ。そう思った人もいるのではないだろうか。動物行動学者の竹内久美子さんが語る。
「動物における友達とは、『血縁のない同性による同盟関係』と考えられます。一般的に血縁関係のない者を有利にさせると、自分の遺伝子が後世に残る可能性が少なくなるため、友達づくりは動物の行動としてはNGです。しかし、つきあいが長い動物同士なら同盟関係が成立するケースがあります」
代表例が、10年以上も集団で生活する「チスイコウモリ」のメスたちだ。狩りが苦手なチスイコウモリは、家畜などの血を吸うことを二晩続けて失敗すると、あえなく死んでしまう。この絶体絶命のピンチを救うのが友達にほかならない。
「吸血に失敗したチスイコウモリは、成功した仲間から口移しで血を分けてもらいます。ただし、分けてもらえるのはかつて自分が血をあげた相手に限ります。チスイコウモリは自分が困ったときに助けてもらえるよう、長いつきあいになる相手と同盟関係を結び、友達になるのです」(竹内さん)
友達がいることは心身の健康に良い
“情けは人のためならず”ともいえる関係ではあるが、一蓮托生の「親友」には違いない。さらに、動物の友達づくりには、ストレスを避ける目的もあるようだ。フラミンゴの友達づくりについて、アメリカの湿地生態学者ジェリー・ローレンツ氏はナショナルジオグラフィック誌の電子版(2020年5月3日)でこう述べた。
<群れは慌ただしいですから、恐らくそれ以上のストレスは不要なのでしょう。友達がいることは心身の健康に良いのです>
困ったときに助けてもらえて、ストレスを緩和してくれる相手。それって人間が友達に望む条件と変わらないのでは…?
脱友達宣言したタモリ・故・橋田壽賀子さんも…
しかし近年の人間界では、「友達なんていらない」「ひとりきりの方が気楽でいい」との風潮が強まっている。
そのきっかけとなったのが2016年末にタモリ(75才)が『SMAP×SMAP』(フジテレビ系、12月19日放送)で漏らしたこんな言葉。
「友達なんかいらないって。(だから)どんどん減らしていっているの。切ってくの」
その後、脚本家の故・橋田壽賀子さん(享年95才)が、「タモリさんがおっしゃることはよくわかるんです。もう友達はいりません」と、2017年1月に本誌に登場した際「脱友達宣言」を行うと、多くの女性に共感の輪が広がった。
世の女性たちの鬱憤に耳を傾けると、現代の「友達」の複雑な構造が見えてくる。
まず、「ママ友」の存在だ。この春から小学1年生になる息子を持つ40代の女性はこう話す。
「子供が仲間外れにされるのが怖いから、ママ友とは仲よしのポーズをしているけど、グループLINEの返信や“ボスママ”への気配りなど面倒なことが多い。本音では、ママ友なんていらないと思っています」
一方、長年のつきあいだからこそ、こじれるケースもある。
「高校時代からの友人の話ですが、数年前、彼女の息子が失敗した中学受験に、うちの息子は成功したんです。そのあたりから、明らかに彼女の態度がよそよそしくなり、目を見てしゃべってくれなくなりました。以前のように、他愛ない話で笑い合う間柄ではなくなってしまった。夫同士は仲がいいので、スパッと関係が切れないのが悩ましい」(50代、会社員)
近年はどちらかというと、困ったときに頼りになる「仲間」というよりも、「切りたくても切れない間柄」との友達観が定着したようで、「捨てるべきは夫ではなく友達」との意見もあったほど。しかし、そんなネガティブなイメージが、昨年から続くコロナ禍によって少しずつ変化している。
九州在住の上重美香さん(仮名・66才)が語る。
「還暦を迎えてから、仲のいい友達グループと年に1回、旅行をしていたのですが、もう1年以上、会ってすらいません。おととし、海外旅行を計画して10年のパスポートを更新したばかりだったんです。コロナの終息まであと2~3年かかるという報道もありますが、60も半ばになると、1年の重みが違います。誰かが病気やけがをしたり、家族の介護が始まったりして、気軽に旅行なんてできなくなるかもしれない」
夫と死別後は友達が貴重な存在に
子育てを終え、夫と死別した高齢期の女性になると、友達はとりわけ貴重な存在となる。厚労省のまとめによると、2019年の日本人の平均寿命は女性87.45才、男性81.41才で、ともに過去最高を記録した。
内閣府の「令和2年版高齢社会白書」によると、2040年には65才以上の女性の24.5%、つまり約4人に1人がひとり暮らしになると予測されている。
「私は子供がいるから、友達なんかいなくても大丈夫」──という考えは甘い。介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんが指摘する。
「夫が亡くなった後、子供が老親を心配して自分たちの家に呼び寄せたり、逆に子供一家が実家に戻るケースがありますが、うまくいかないことが多い。親子とはいえ、離れて暮らしている間に生活スタイルは変化しています。それをすり合わせていく努力が必要ですが、仕事があって子供もいる一家が生活を変えるのは、はっきり言って難しい。母親が無理に子供一家のペースに合わせなければならず、大きなストレスを生みます」
友達の有無が健康寿命に影響?
だからといって、「孤独」には命にかかわるリスクがある。東京都健康長寿医療センターが2018年に発表した研究では、「社会的孤立状態」や「閉じこもり」の傾向がある高齢者は、6年後の死亡率が2.2倍上昇した。
「要は家に閉じこもりがちで、人との接触がない高齢者ほど、死亡リスクが高くなるということです。特に友達がいないと外出頻度が少なくなって足腰が弱り、活力低下で健康障害を起こす『フレイル』になりやすい。社会活動や日々の会話がなくなることで、認知症のリスクも増します」(太田さん)
「女のひとり暮らし」の質が問われる時代において、友達の有無は、健康寿命に大きく影響するということだ。
※女性セブン2021年4月1日号
https://josei7.com/
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